第40話 青年は主人公らしく仲間の美少女たちに好意を寄せられる

 王都に戻って十日が経った。

 王女であるクリスティーンは王宮に戻り、ソフィアは騎士として王都の治安維持に、ビルヒーは聖女として最高司祭である母とともにそれぞれの仕事に従事している。

 その間残った三人は暇を持て余していた。

 そして、ようやくお呼びがかかり、国王に謁見とあいなった。

 王城に登り控室に通されると、そこには騎士として正装したソフィアとこちらも聖女として国教会の正装をしているビルヒーがいた。


「久しぶりだねぇ」


 ヴァネッサが二人に声をかける。


「お久しぶりです、ヴネッサ」


 ちょっと見ない間に少し大人っぽくなっているビルヒーが、会釈をする。


「はぁ、ちゃんとした正装のある立場の人はいいよねー。私なんか一応洗濯はしてきたけど旅に出てた時のまんまよ」


 と、女の子らしく嘆くアシュレイをカラカラと笑い飛ばすソフィアは


「ならこれを着るかい?」


 と、クローゼットを開けてみせる。

 そこにはきらびやかなドレスが数着並んでいた。

 それを見たアシュレイはぶるぶると首を振って


「やっぱやめとく。そんなの着たらみんなになんて言われるか判ったものじゃないもの」


 と、チラリとレイトを横目で伺う。


「なら、あたしが着ようかね?」


 というヴァネッサに


「サイズがないだろ」


 と、余計な一言を投げかけてしまいチョークスリーパーをかけられるレイトであった。


 ……まったく。


 目鼻立ちのクッキリしたオリエンタルな顔立ちのヴァネッサにきらびやかなドレスは案外似合うと思うぞ。


 しばしの談笑を繰り広げていると、部屋をノックする音がして呼び出しの声がかかる。


(謁見するのは二度目だなぁ)


 なんて思いながら謁見の間に向かうレイト。

 魔王の襲撃によって破壊された壁などは応急修繕がなされてはいたけれど、その爪痕は残っている。

 居並ぶ顔ぶれも若い。

 あの日、かなりの重臣が身を挺して魔王と戦い散っていった。

 その後の魔王軍襲来でも臣下にかなりの被害が出たことは想像にかたくない。

 レッド絨毯カーペットもクリスたちの血で所々赤黒く染みになっている。

 大きく開口された窓から差し込む日差しがそれらを痛々しくも鮮明に照らしていた。

 ソフィアに先導される形で玉座の前に進むレイトたちは、丸い天窓から降り注ぐ光の中であの日のように片膝ついて王を待つようにセドリックに指示された。

 やがてファンファーレが鳴り、玉座に誰かが座った気配がする。

 いや、今ならはっきり王以外に三人の気配が感じられる。

 成長したね、レイト。

 嬉しいよ。


おもてをあげよ」


 セドリックの声に顔をあげると、玉座には疲れた表情ながらも威厳をたたえた国王が、その後ろに控えるクリスティーンと彼女によく似た年配の女性が立っている。


(さすがは王妃様。お綺麗なことで)


 心の中でちょいちょい失敬だよね、レイトって。

 クリスティーンと目が合うと、彼女はわずかに目を細め、口角を上げる。


(かわいい)


 ……はぁ。


 例によってセドリックが朝礼での校長先生のような長い長いお話をしてくる。

 あまりにも形式的すぎて眠くなるのをじっとこらえるレイトたち。

 立ってたら一人くらい貧血で倒れてたかもしれない。

 いや、それはないか。

 みんな魔王領を冒険してきた勇者たちだし。


「ソフィア、ビルヒルティス、アシュレイ、そしてヴァネッサとレイト。魔王に攫われた我が娘クリスティーンを救出に旅立った勇者たちよ、王国の危機、ひいては世界の危機を救ってくれたこと、心より感謝する。特にヴァネッサとレイトには二度も娘の命を救ってもらった。この恩、生涯忘れまいぞ」


「もったいなきお言葉」


「命の危険を顧みず、魔王に立ち向かいあまつさえその魔王を討ち滅ぼしたそなたらはまさに世界の救世主。英雄と呼ぶにふさわしい者たちだ。朕は王として、また民の代表としてそなたらの望みを出来うる限り叶えたい。この場で望みを申すがよい」


 そう言われて、五人は互いに顔を見交わした。

 突然そんなこと言われてもねぇ。

 すぐには思い浮かばないよねぇ。

 まぁ、レイトの願いは想像つくけどね。


「レイトよ。娘はそなたを好ましく思っておるようだぞ」


「お父様!」


 語気を強めるクリスティーンは耳まであかくして抗議する。

 王様お父ちゃん、封建社会だからって娘をものみたいに扱っちゃいけませんよ。

 王妃は王妃で笑みをたたえて父娘おやこのやりとりを見ている。

 そんな微笑ましい様子じゃないと思うけどね。


「あの……」


 と、恐る恐る発言許可を求めたのは最年少のビルヒーだった。


「私、聖女の地位を捨ててレイトと一緒に旅がしたいと思います」


「え?」


 つい言葉が漏れたのは一緒に旅をしてきた四人だった。


「聖女として母や国教会、王国に育てていただいた身ですが、この旅で外の世界の面白さ、気ままな自由さを知りました。このままレイトと一緒に自由に生きていきたいと望みます」


「で、では私も、私も騎士の身分を捨てレイトと共に生きていきたく存じます」


「ははは、そりゃいいね。あたしは別に欲しいものなんてなかったんだけど、あたしもかたっくるしい生活よりレイトと一緒に気ままに楽しく過ごせるならそうしたいや」


「私も、私も一緒にいる!」


(は? なんじゃこりゃ!)


 おうおう、王道のハーレム展開じゃあありませんか。


「ほほほほほ。あらあら、クリスティーン。取られてしまいそうですよ」


 とか、王妃が煽る。


「お、お父様!」


「なんだ?」


「わ、私も魔王との戦いではレイトたちと共に戦いました。彼らに恩賞があるのなら私にも……その…………」


 としりすぼみに声が小さくなる娘の様子に豪快に笑い出す国王。


「ほら、皆様の元にお戻り」


 と、王妃に促され、クリスティーンは恥ずかしそうに陛下に集う仲間のもと降りていく。

 国王はひとしきり笑うと真剣な顔で


「さて、残るはそなただけであるぞ」


 と、レイトを見据える。


「俺は……」


 「元の世界に戻りたいんだけどなぁ……」と思った矢先、丸い天窓から降り注ぐ日差しが強さを増して白い輝きに覆われた。


(あ、この現象……)


 レイトは真っ白な光輝く天窓へと吸い込まれた。

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