第25話 青年は勇者としてお姫様を助けに行くことになる

 野戦病院と化した謁見の間に沈痛な空気が満たされている。

 せっかくウィザードの魔の手から奪還したクリスティーンを今度は魔王に奪われてしまったのだ。

 しかもその際、国を支える多くの重臣と奪還の功労者であり王国でもトップクラスの騎士を一人失った。

 事態を重くみた国王は国民の動揺を最小限に抑えるためにかんこうれいを敷き、ごく少数のクレリックを謁見の間に入れて怪我人の治療をしている。

 いずれことは露見する。

 それは避けられない。

 こちらでどんなに厳重に情報統制していても、多くの重臣が魔王に殺されている。

 これを無かったことにはできないし、魔王が世界を征服すると宣言しにきたのだから、遅かれ早かれ重大な事態が出来しゅったいするのは火を見るよりも明らかってやつだ。

 国王としては少なくとも事態を打開する希望を見出したい。

 セドリックが応急で整えた謁見の間で、緊急の御前会議が開かれる。

 会議に参加しているのは王と十に満たない重臣と、現場に居合わせていたレイト、ヴァネッサ、そしてクリスの妹ソフィアの三人。

 悲痛な面持ちの国王が重臣を見回す。

 残っているのは文官ばかり。

 臆病で生き残ったんじゃない。

 武官が勇敢に戦って死んでいったからだ。

 特にクリスが剣技を発動するまでの時間を稼ぐために、ただそれだけに多くの武官が魔王に挑んでいった結果だ。


 無駄死にか?


 そんなことはない。

 それがあったからこそ魔王は手傷を負い、撤退したのだから。


「まず、何から手をつけるべきと思うか?」


 やること、やらなければいけないことはとても多い。

 やらなければいけないことであってもすぐすぐできるものとできないものがあるだろう。

 王は決してぼんではないようだ。


(まずはブレインストーミングが必要だと判断したんだな)


 と、レイトは思う。

 おおよそ出たのは戦死した重臣達の代わりを選出することと、魔王に対抗するための軍事力の増強案だった。


「誰が良いかは後で決める。他にはないか?」


 議論が誰をポストにつけるかという枝葉の議論に向かいかけたのをセドリックが軌道修正する。

 そうして適度にコントロールされた話し合いは粛々と進んだのだけれど、誰も触れようとしていない議題が一つあった。


(一番大事なことだろうに)


 レイトはなぜ居並ぶ重臣達がそこに触れないのかと訝しむ。


(これはあれか? 俺待ちか?)


 ゲーム的な思考でそこに至ったレイトより少し早く、ヴァネッサがその件に言及する。


「クリスティーンはどうすんのさ?」


 重い沈黙が謁見の間を支配する。


(やっぱ、そうだよなぁ。ここで俺が手を上げなきゃ物語が進まないんだろうなぁ……)


 なんて思いながら辺りを見回すレイトはずっと下を向いて両拳をプルプルと握りしめているソフィアに気がついた。


(…………)


 そんなソフィアを見ていて、レイトはもう少し様子を見てみる気になった。

 なんとなくまだ自分のターンじゃない気がしたのだ。

 案の定、彼女はキッとまなじりをあげて発言を求めた。


「国王陛下」


「発言を許す」


 王と目くばせをしたセドリックが取り次ぐ。

 ここらあたりは厳格に身分差があるらしい。

 ヴァネッサはお構いなしだったけどね。


「その使命、私にお命じいただけないでしょうか?」


 漫画やラノベなら「その役、私にお命じください」とかいうところだよなぁ……と、レイトがぼんやり思いながら成り行きを見守る。

 ソフィアの心持ちはそんな意気込みだっただろうさ。

 けど、彼女には実績がない。

 実力を認められたこともない。

 悲しいかな女騎士はこの世界では一格も二格も下に見られていた。

 騎士の家系で父や兄に憧れて自らも騎士を志し、涙ぐましい努力で正騎士ナイトに叙勲されたまではともかく、そこから先もセミ騎士ナイトと同じ扱いで任務にあたり、式典などで見栄えと「女騎士も平等に扱ってますよ」というポーズのために華やかな場所に並ぶことだけを与えられてきた。

 きっと彼女より弱いに違いない生き残った重臣達さえ眉をひそめてソフィアを見る。

 これも仕方ない。

 魔王襲来の際、彼女は震えているしかできなかった。

 兄の仇は討ちたい。

 騎士として重要な任務に就きたい。

 王の剣としての職務を全うした兄のようになりたい。

 今の彼女を突き動かしているのはそんな感情だった。

 レイトにもそんな感情は透けて見えていた。


(あー、なるほど。こういうイベントなのね)


「その旅、私がお供いたしましょう」


 ここにいたってようやくレイトが声を上げた。

 重臣達がざわめくのを片手を上げて鎮めた王は真っ直ぐレイトを見つめている。


「そなた、魔王に『光の巫女の守護者』と呼ばれていたな」


(あれ? そうだっけ?)


「この者、兄クリスによれば兄に会うまでに姫をウィザードから救い出し、姫を護りながら地下迷宮を攻略した勇者だそうです」


 ソフィアが、身分も弁えず国王に直言する。


「勇者……」


 ふたたび重臣達がざわめく。


「レイトよ、それはまことか?」


 こちらも王の直言だ。


「クリスが勇者と呼んだのは大袈裟ですが、ウィザードから姫を救い出し、地下迷宮を攻略したというのは本当です」


 自慢がしたいわけじゃない。

 こうでも言わなきゃ話が進まないと思ったからだ。


「そういや、クリスティーンが救世主がどうのこうの言ってなかったかい?」


 とヴァネッサが援護射撃をする。


「救世主じゃと!?」


「ああ、言ってましたね」


 「言ってましたね」……じゃないでしょ!


「『王国に危機が訪れる時、次元の回廊を越え救世主が現れる』……」


 王がそらんじる。


「あー、それそれ。そんなやつ」


 一国の王を前にして緊張する様子もなく指までさすヴァネッサである。


「陛下、今がその時ということでは……」


 セドリックが王に耳打ちする。


「うむ……」


「伝承には、『救世主は女騎士に先導され』とありました」


「だから我が国には女騎士の制度が設けられていたのだ。そうだ、このための女騎士なのだ」


 小声での話し合いが終わり、王は威厳を持って直言する。


「女騎士ソフィアよ」


「はっ」


「この緊急の事態に一人でも多くの騎士が王国には必要じゃ。本来ならばしかるべき騎士に命じる使命なれど、兄に代わって末姫クリスティーン救出を下命する」


「ありがたき幸せ。我がしんみょうを賭しても必ずや姫をお救いして参ります」


(死んじゃったら助けられないでしょうに)


 と、心の中でつぶやくレイトであった。


「レイト、ヴァネッサ。本来であれば関係ないそなたらを巻き込むのは筋違いではあるが、未熟な我が臣下とともにいってはくれまいか?」


「目の前でさらわれたのですから、関係ないことはありません」


「クリスティーンはあたい達の大事な仲間だからね。きっと奪い返してきてあげるさね」


「魔王が攻めてくることが確実なご時世、多くは施してあげられぬが旅の支度はこちらで用意しよう」


 セドリックが言うので三人は遠慮なく王城を歩き回って武器や防具などを手に入れる。


(いやいや、城を歩き回って装備を漁るとか、どこの和製RPGですか)


 いいじゃん、お墨付きなんだから。


 と言うことで、クリスに没収され宝物殿に収められかけたダンジョンの戦利品他、あさりにあさってこうなった。


●レイト

 鋭利な鋼鉄の剣

 鋼の鎧+3

 鋼鉄の盾+1

 鋼鉄の兜

 耐火マント

 大きな背負いカバン

 力の宝石

 知恵の宝石

 守りの宝石

 加護の十字架

 HPポーション7

 MPポーション5

 解毒薬7

 金貨3,107GP

 宝石7

 鋭利な鉄の剣

●ヴァネッサ

 アマゾネスの大剣+2

 アマゾネスの胸当て+1

 耐火マント

 質素なかつぎ袋

 HPポーション9

 MPポーション2

 金貨6,877GP

●ソフィア

 鋼の騎士の剣+1

 騎士の鎧

 騎士の盾(クリスの形見)

 騎士の兜

 耐火マント

 HPポーション9

 金貨100GP

 冒険道具一式は箱馬車の中だ!

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