第11話 青年は主人公をはずされたのか?

 レイトたちは第四階層を進む。

 ボスマミーを倒した先ではそれまでのモンスター以外にレッサーデーモンが登場するようになった。

 レッサーデーモンはファイヤーボールの魔法も使うモンスターだった。

 しかも、魔法は決まって後衛に放ってくるというとても厄介な相手だ。

 あと、魔法の相性もあって火魔法には高い耐性があるが、水魔法には滅法弱い。

 しかし、こちらの水魔法はアイスニードルとフリーズの二種類でダメージ的には大きな威力が期待できないのが悩みどころだ。


(そろそろ魔法の強化を期待したいところなんだけどな)


 と、レイトは思うがそう都合よくはいかないらしい。

 それでもパーティーのレベルアップがモンスターのパワーアップを上回ってなんとか第四階層の攻略が進み、ボス戦だろうと判る大扉の前までたどり着いた。


「私が知っているのはここまでです。この先にはスケルトンロードがいて、第五階層への階段を守っています」


 と、例によってムキムキザビエルなライアンが唐突に現れる。


「スケルトンロードって、意志の宿ったスケルトンでしたよね? なんでもスケルトンを支配しているとか」


 と、クリスティーン。


「そんな奴が一人でいるとは思えないね」


 と、ヴァネッサがいう。

 レイトもなるほどと腕を組む。


 ……本人は組んでいるつもりだが、自分がまったく見えない彼の視界では確かめようがない。


 レイトは念の為、仲間のステータスを万全と思う状態にして(ステータスが見られないことには無駄遣いを覚悟で回復薬などを使うしかないのがもったいないと思いつつ)ボス戦に突入した。

 扉の中には従来のスケルトンより立派な鎧をまとったグラフィックのスケルトンがいる。


「よくきた、生者よ。我が軍門にくだり眷属となれ」


 と、しわがれた声で語りかけてくる。

 声帯もないのにどこから声を出しているのだろう?

 ゲーム世界(実際にはゲームなのか現実なのか、はたまた異世界なのか定かではないのだが)でそんなこと考えるだけ無駄かとレイトは疑問を脇に押しやって戦闘を開始する。


 最初のターンではまずライアンがブレッシングでパーティの戦闘力を底上げし、レイトがファイヤーボール、ヴァネッサがバーサークラッシュで攻撃する。

 スケルトンロードは部下となるスケルトンを5体呼んだ。

 2ターン目、必殺技で行動不能になったヴァネッサに部下スケルトンの攻撃が集中するも、クリスディーンのライトヒーリングで回復。

 試しにライアンに使わせたクリエイトホーリーウォーターが絶大な効果を発揮し、一体の部下スケルトンが浄化される。

 レイトはロードに二発目のファイヤーボール。

 ロードはレイトに剣を振ってくる。

 3ターン目、クリエイトホーリーウォーターでのダメージが思った以上に高そうなので、ロードに向けて攻撃させる。

 レイトは部下スケルトンを剣で攻撃したが、一撃では倒れてくれないようだ。

 ヴァネッサはこのターンも行動不能だった。

 4ターン目以降はヴァネッサも攻撃に加わり部下スケルトンを攻撃、部下はヴァネッサに任せてレイトはライアンと二人でロードを集中攻撃する。

 ロードは部下が一体以下になると追加で部下を召喚するようになっていて、防御力が高かったのかHPが高かったのか(あるいは両方か)その後三度も部下スケルトンを召喚し、冒険者たちを苦しめようやく土に還っていった。

 残された部下も全て倒すと宝箱が現れ、中からは「アマゾネスの鎧+1」「鋼の鎧+3」「力の宝石」「知恵の宝石」「守りの宝玉」「キュアライトのスクロール」を手に入れた。


 早速レイトはそれぞれの装備を振り分ける。

 まず、宝玉を自分に装備し、力の石はヴァネッサに知恵の石はライアンに守りの石はクリスティーンに装備させる。

 次に鋼の鎧+3を装備してお下がりの鋼鉄の鎧をライアンに、アマゾネスの鎧+1をヴァネッサに装備させる。

 ところで、鋼鉄の鎧と鋼の鎧はどう違うのでしょうね?

 レイトはそんな悩みをうっちゃっていよいよ第五階層へ上る。


 そこはついに16bitカラー(65,536色)の世界だった。

 3Dダンジョンは移動に合わせてなめらかにスクロールし、明かりの届く範囲の表現も階調が格段に進化している。

 明かりといえば、この階から明かりの概念が変わったらしく、第四階層では使い道のなかったライアンのホーリーライトが役に立つようになった。

 階段を上った最初は真っ暗で戸惑ったレイトだったが、ライアンがイベントモードに突入して初回のホーリーライトを唱えてくれたのだ。


「効果の持続時間は2時間ほどです」


「へぇ、便利だね」


 そういって現れたヴァネッサは鎧を替えたからか、腕すね腰にも金属パーツが装備されている。

 中間色が多用され階調も上がっていることも相まって、セルアニメみたいだった第四階層より立体感がある。

 しかも、キャラデザイン(?)も洗練されていて階下で気になったデッサンの歪みも改善されている。

 この階では前の階から引き続き現れるのはトロールだけで、あとは強力になった新種のモンスターばかりだった。

 ゴーレムは単一ではなくクレイストーンアイアンと三種に分かれ、デーモンは下位種レッサーではなくなっている。

 クレイゴーレムは水魔法にアイアンゴーレムは雷魔法に弱いようだ。

 デーモンは目の色によって違う系統の、レッサーより上位の魔法を使ってきて時折スクロールを落としてくれる。

 それによってレイトは野球ボール大だったファイヤーボールより大きく、複数の敵にダメージを与えられるドッヂボール大のファイヤーボール2。

 水の玉を散弾のように放つウォーターショット。

 たくさんの針ではなく一本の槍として飛んでいくアイススピアを使えるようになった。


 地上に近くなったためかダンジョン内の所々に湿地・水たまりがあり、リザードマンが出現する。

 そのリザードマンは僧侶系の魔法が使えるようで、ドロップ品からクリスティーンもホーリーライト、ブレッシングを使えるようになった。

 もう一つ、キュアシリアスという魔法もドロップしたのだけれど、正式な僧侶ではないクリスティーンにはそもそも適性がないのか、単にレベルが足りないのか判らなかったが習得できず、ライアンが覚えることになった。


 他にウィル・オー・ウィスプが出てきたが、最初こそ苦戦したもののウォーターショットを覚えたレイトの敵ではなかった。


 視覚的には戦闘シーンにアニメーションがついた。

 敵の攻撃モーション、味方の攻撃エフェクトなど、これまでの単調だった戦闘が嘘みたいにエンターテインメントになっている。

 ついでにSEもサンプリング音源化されたようなリアルなものになっていた。


 ダンジョン探索は順調に進み、例によって不必要なまでにこれ見よがしな禍々しい、いかにもボスの部屋という扉の前にたどり着いた。

 例によってちょっとしたイベントムービー的に冒険仲間三人がレイトに話しかけてくる。

 彼は、アイテムの残量を確認すると、試しに状態を確認するため一人ひとりに声をかけてみた。

 すると、クリスティーンは


「ケガはありません」


 と答え、ヴァネッサは


「腹は減ってるけど、体調は万全さ」


 と、答えた。

 ライアンは


「魔法の行使に少し不安がある」


 という。

 レイトはそれぞれに適切と思えるアイテムを使用してそれぞれのステータスを整えてドアを開ける。


「これはこれは、王女様。生きていらしたのですか?」


 と、いかにも邪悪な魔法使いという黒ローブの男がいう。


 ん?

 どっかで聞いたフレーズだな。


「おや、落ちこぼれプリーストのライアンではありませんか。持ち場を離れてどうしたのですか?」


「お姫様がお綺麗なので裏切ってみたくなったのさ」


 なんてキザなセリフでしょう!


「ならば王女ごとここで葬ってやろう!」


 と、戦闘が開始された。






 あれ? 主人公レイトじゃないの!?

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