第13話「変身」

 死を覚悟で目を閉じて、開いたら誰かが身代わりになっていた……なんて都合のいい展開が続いてくれるわけがない。

 だから……!

「うぅぅううおおぉおおおあ!!」

 思考が言葉になるよりも前に体が動いた。

 拒むように、自分の両手で攻撃ビームを防ぐしかない! 私はもうこの力の使い方を知っているはずだ。願えばカードが手に来るのなら、コイツと同じでバリアだって張れるはず!

『この力……!』

 私はバリアで防ぐことができていた。

 そうだ。やろうと思えばできないことなどない。

「だんだんと……いや、ようやく、使い方がわかってきた……!」

『貴様。そうだ……あの時もそうやっていたな!!』

 防ぎ弾いた攻撃はクラッカーのように拡散していた。

 意識をそちらに集中させこうなってほしいとイメージを創り上げる。その思考が形となって、手首や足首の周りを衛星のように回り始めた。

「……き、綺麗…………」

 カレンダーでしか見たことのない星空がここにある。星空を掌握したかのような。

『……見間違えるはずがない。あの日も……  お前は

「そんな今更ッッ!」

『ならばお前を殺せば終わる!』

 アイツを中心に、その背後に無数の光が灯った。円を描くように拡がるそれは孔雀の羽のように……。やがて槍の形を成していた。

 避ける? 防ぐ?

「撃たせない!!!」

 だが槍は放たれない。放たれなかった。

 サチが二丁の銃で次々と槍を撃ち砕いている。

『小賢しいッ!』

「はっ!」

 外れた。

 一発。

 いやアイツが避けさせた。

 手による遠隔操作で、その一本が、サチのドライバーに命中した。ドライバーは半分以上が砕け、機能は停止した。幸いなことにその残骸と、銃だけを遺している。彼女も無傷で済んだ。

『これでよい……。さあトドメだ、あの女の娘!』

 再び槍が宙に出現、その数はさっきの倍以上に増えていた。

 サチが銃を構え、引金トリガーを引いてるけど弾は出ない。

『死ねぇえあぇぇえ!!』

「甘いぞ!」

「!」後ろに誰かがいる……。

 誰なのかがわかるよりも速く、槍が一本、アイツの腹部を貫通していた。

『……貴様……………………』

「慢心していたな。大気圏落下を共にしたというのに、ワタシがあの程度で死ぬと?」

 月野さんに違いなかった。

 顔は見えなくても声は確かに。

「ふッん……散らばったドライバーを、集めろ!」

「は、はっ!?」

「今ならできる! ワタシが抑えてるうちに……急げ!」 

 その叫びに反応が追い付かなかい。なのに能力からだは呼応し、サチのものだったドライバーの破片を私の方へと引き寄せ始めた。

 カケラは素早く腰の周囲へ集まり高速で回って、目で追えない速さに達すると、ドライバーのに光よりも速く衝突した。ビッグバンの如く激しく輝いた後には、何も残っていなかった。

 壊れたのではない。本当さいごに至る、この能力の究極的な到達点がこれなんだ。きっと。今までは機械ドライバー達を介さなきゃ使えなかった。

 でも今は違う。

 今なら自分の手足ちからで戦える。

 今は、追いかけてきた母が背後うしろにいてくれる。

 水を掬い上げるように両手を広げ、壁中の力を自分へと集約させる。その物量はさっきの攻撃を遥かに上回る。光は七色の星々となり、両手両足に集束し周回する。

 これがわたしの力。負ける気がしない、いや――勝てる気しかしない。

 

 母が倒せなかったこいつを、私が倒す。

 指を指して、宣言する……!


「お前を倒す!」

『…………! ふふふふっ! はははははははは! ……ならば、自己紹介しよう……』


『我が名は、ヴァース!』

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