バブみ豚骨ラーメン

 土曜日。ザコに呼び出された場所は、ラーメン屋だった。


「ママらーめんって……」


 とことん毒されてしまったらしいザコ。


「えへへ。実は私、オギャりあんなんです」

「何そのマナー悪そうなラーメン常連客」


 私たちは入店した。


「あら、お帰り。今日も一杯遊んだのね」


 セリフだけ聞けばメイド喫茶と勘違いしそうな挨拶で店員がやってきた。


 家庭的なエプロン姿の店員は、ロリ先生だった。


「わーいママー! 今日もちかれたー! ばぶばぶぅ!」


 ザコは慣れたようにはしゃぐ。


「はいはい二人とも、もうご飯出来てるから、そこのカウンター席に着いてね」


 なりきっているつもりなんだろうけど、家にカウンター席なんてないよね。


 ともかく私たちはカウンター席に着いた。


「あ、あれ教頭先生ですよ」


 私たちがカウンター席に着いた時、新たに客がやってきた。その客が、教頭先生だった。


「まさか教頭先生が、隠れオギャりあんだったとは」


 やだなあ、その言い方。


「ふえぇんママぁ! ユーロドル三尊で損切りだよぉ! 買いシグナル出てたのにぃ!」

「もうだからあの時、利確すれば良かったのに。困った子ねえ」


 教頭先生がロリ先生に甘えている。FXで甘えてくる子供とかやだなあ。


「さっさと注文しちゃいましょう」


 ザコが言うので、私はメニューを取った。


「すいませーん!」


 やってきたのは普通のおっさんだった。頭にタオルを巻いている。恐らくラーメンを作るのはこの人だ。


「バブみ豚骨ラーメンで」


 ザコが言った。何その語感だけで考えたようなラーメン。


「お好みは」

「バブみマシマシおっぱい小さめおぎゃマシマシ太ももムチムチニーソで」

「はいよっ」


 え、なんて?


「え、今の何?」

「ああ、今のはですね。バブみをかなり多めに、おっぱいは小さめ、太ももはムチムチで、オプションでニーソックスを穿いた子が……」


 聞いている途中だが、頭が痛くなってきた。


「哺乳瓶でラーメンにミルクを掛けるんですよ」

「味に一切影響しないじゃん!」


 何だったんだよさっきの呪文は!


「普通ちゃんは頼まないんですか」

「ああ、うん」


 私はメニューを見た。


 ママ味噌ラーメンに……脇汗ラーメンって、ママ要素保証されてないじゃん。誰の脇汗だよ。さっき来たおっさんだったら嫌だぞ。いや、誰のでも嫌だけど!


「じゃあ、ママ味噌ラーメンで」


 ママの脳味噌だったらどうしよう。


「お好みは」

「全部普通で」


 お好みの性癖は、と聞くべきだと思う。


「あっはっは! 全部普通! 全部、普通ちゃん!」

「ぶっとばすよ?」


 こんな風俗みたいな場所に連れて来やがって。


 そうこうしていると、教頭先生がカウンター席に座った。そしてメニューも見ずに注文をする。


「脇汗ラーメン」

「お好みは」

「おっぱい大きめ尻モチモチ太ももムチムチおぎゃマシマシほっぺたプニプニ半分ニーソ」


 教頭先生も呪文唱えてる……。心なしかオヤジくさいエロさを求めているような。


「半分ニーソって! 複雑な注文は乱れるんですよ! バブみ的リテラシーに欠けるなあ!」


 ザコが怒った。リテラシーの意味分かってるのかな。


 その後、ラーメンが出てきた。


 ミルクは生クリームにココナッツミルクとバニラエッセンスを混ぜたもののようで、それが意外にも美味しかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る