第3話

「はぁ」

この体は思ったよりも体力がない。

体調が回復して問題ないと思ったので早速行動に移すことにした。手始めに世間の荒波にもまれているであろう下っ端の使用人のいる階を目指していた。

ところが地下に着くころには既に息も絶え絶えで足が怠くて動かすこともできない。

仕方がなく私はその場に座りこんで体力が回復するのを待った。

「当然よね。だって殆ど部屋から出ないんだもん。そりゃあ、体力なんかつかないわ」

特に禁止されていたわけではないけど、子供ながらに自分の立場を何となく理解していた前世の記憶が戻る前の私は部屋の外に出ることがあまりなかった。

両親や使用人に見つかれば何をされるか分からない恐怖から部屋に閉じこもってしまったのだ。

そんな生活が体にいいわけがない。現に今までを振り返ってもすぐに体調を崩していた。とても病弱で厄介な存在なのだ。

「少しずつ体力をつけて行こう」

「お前、こんな所で何してるんだ?」

背後から急に声をかけられたので驚いた。

振り返るとそこには赤茶色の髪と瞳をした少年がいた。一二歳ぐらいだろうか。日に焼けた肌が野性的で、鼻の頭にあるそばかすが若干目立つどこにでもいる普通の少年だった。

彼が来ているのは白のポロシャツ。手には洗濯物と思しきものが入った籠がある。私が探していた下っ端の使用人だ。

「お前、ヴァイオレットだろう。愛人の娘の」

バレた。

身分を隠して仲良くなるつもちだったのに。私は自分の服装をチェックする。元々、良いドレスなんて持っていない。そんな中から更に地味で安い服を選んだつもりだけど意味がなかったようだ。

「この邸にいてお前のこと知らない奴はいないよ。俺みたいな下っ端でもな。菫色の髪にルビーをはめ込んだような目。噂にならない方がどうかしている」

私が誰か分かっても態度を変えないのは彼がそういうタイプの人間だからか、媚びへつらうのが嫌なのか、私が愛人の娘だから敬意を示す必要がないと思っているのか。

「それで愛人の娘様はこんな場所に何か用ですか?」

「愛人の娘ではないわ。私の名前はヴァイオレットよ。あなたのお名前は?」

「ポール」

「そう。ここにいるのはちょっとした運動よ。今まで部屋に閉じこもってばっかりだったから体が鈍っちゃって。体力をつけようと思ったの」

「ふぅん」

あ、信用されていない。見るからに怪しい奴を見るような目だ。

「ポールは住み込みで働いているの?」

「愛人の娘とは言えここの旦那の娘だろう。あんた、何も知らないんだな」

容赦のない物言いだ。誰に対してもそうみたい。

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なるべくしてなった悪役令嬢だけど私は辞退させていただきます 音無砂月 @cocomatunaga

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