NF文庫J『青春なんてクソクソクソクソ愛してる』

「セックス!!」


「先輩。突如として性交渉の意味を持つ単語を叫びながら部室に入ってくるのをやめてください」


「ああくそっ、どいつもこいつもセックスセックス!! な~~にがクリスマスじゃボケ!! 今日はNF文庫Jとオーバードーズ文庫とイデアワークス文庫と神弔文庫nexの発売日だろうが!! ラノベを読めや!! オラッ!!」


「それを今現在クリスマスまっただ中の渋谷で叫んでくるといいと思います」


「はァ!? そんなことしたら異教徒として磔にされるので無理」


「ざっこw」


「おめーも根暗のクリぼっちだろーがっっ!!」


「フ……」


「意味深に笑っても無駄だよ。後輩君は私と同類。性夜にラブラブエッチしている陽キャカップルどもを妬みながら、自分の部屋でイヤホンつけてシコシコボッチすることしかできない哀れなマゾ豚なのさ」


「先輩ってマゾ向けの音声作品使ってるんですか?」


「おすすめのASMR作品あったら教えてね」


「足を舐めろ」


「私がマゾだとわかった瞬間やめろや! ところで今日はどうしようもなく根暗な後輩君のためにサンタ先輩がクリスマスプレゼントを持ってきてあげたよ」


「焼きそばパンですか?」


「ラノベだが!?」




 NF文庫J『青春なんてクソクソクソクソ愛してる』


 ~あらすじ~

 豊穣高校には他の学校にはない特色があった。総生徒数三千人を超えるマンモス校であること、生徒の自主性を重んじすぎていること、そして――――学校の風紀を守る不純異性交遊撲滅委員会特殊部隊I.N.C.Aインキャの存在である。

 インキャに所属する男子高校生・葛原宗司、コードネーム:パシリは、その日、最近「いい雰囲気」なとある男女を仲違いさせるカップル根絶任務に駆り出されていた。同じくインキャの女子、コードネーム:ソバカスとともに、その男女を断罪する手筈だったのだが……あまりの初々しさにパシリとソバカスは男女を応援したくなってしまう! インキャの二名は組織にバレずに男女の恋を成就させてやれるのか!? クソみたいな青春を、それでも愛するキミへ贈る、恋愛応援ラブコメ!




「というラノベなんだけど、読んでるとセックスより気持ちいよ」


「でも先輩セックスしたことないですよね」


「るせー! ラノベを読む行為は実質セックスだからいいんだよ。つまり今までに何百冊も読破してきた私はドの付くほどビッチってことなんすよね。ごめんね後輩君……私この本のモノになっちゃった……」


「あ、そすか」


「軽いんだよなあ。まあこのラノベの主人公は私のようなビッチではなくって、セックスとは程遠い陰キャ男子なんす。コードネームが示す通り、陽キャにナチュラルにパシられたりしてる。特別な能力はなし。ガチでただのパシリなんだよね」


「没個性系主人公ですね」


「一方でもうひとりの陰キャであるソバカスは、けっこう重い過去があって暗い性格になった女子なんだ。一度ド派手に失恋してんだよね。それを引きずって、未だに恋愛を嫌悪してて、だから特殊部隊インキャに来た。ソバカスが入隊する時、あの子なんて言ったと思う?」


「調査兵団に入ってとにかくカップルをぶっ殺したいです、とかですか」


「ん~近い! 正解は『私の夢はカップルどもを並べてすっごい長い槍で田楽刺しにする仕事に就くことです』でした~」


「怖ぇな?」


「そんなふたりがコンビを組んで、カップル根絶任務に赴くわけだけど、それが頓挫するところから物語は加速するんだ。応援したくなっちゃうほどに初々しい男女というのは、慶太っていう内気な男子と、未希っていう強がりな女子でね。どういう間柄かというと、タガさえ外れればベロチュッチュパラダイス状態になりそうなポテンシャルは秘めてるのに、まだ手を触れ合わせることですら赤面しちゃうやつね。ふたりとも自己肯定感低いから両片思い状態なんだよ。ッ殺す!!!!」


「突然殺人鬼の貌になるのやめてください」


「慶太と未希の淡い恋模様を応援するためにパシリとソバカスは暗躍するんだけど、さすがに特殊部隊インキャは怖い組織だからね~、裏切り者の匂いは呆気なく嗅ぎつけられちゃうんだわ。コードネーム:ダイダラボッチ隊長が、インキャ定例会議のまっただ中で隊員に探りを入れ始めた時はホントひやひやしたよ。その間パシリとソバカスはどうやって罪を全部相方におっかぶらせようかひたすら考えてたのには草生えた」


「陰キャのふたりはただの利用し合う関係なんですね」


「そこなんだけどさ~? これは勝手な考察なんだけど、私が思う本作のテーマは恋愛の応援で……しかしその裏に隠されたもうひとつのテーマは、友情讃歌なんだよね。実は、インキャ所属のふたりは最初は利用し合うだけのドライな仲だったけど、やがて互いを信頼し合う友人関係へと変わっていくんだ」


「僕たちとは大違いですね」


「後輩君はもっと私を信頼してエロ画像フォルダの名前とか教えてくれてもいいんだよ。で、そんでこのラノベは終盤が怒涛の展開なんだけど、中でも私の一番好きなシーンがさ~アツいんだよね。遂にインキャ内の〝裏切り者処刑チーム〟に捕らえられちゃったパシリのシーン」


「処刑……」


「既に慶太と未希の恋路もクライマックスへと向かっていて、あとは慶太が未希へ告白するだけ。そんな中でパシリとソバカスのパシカスコンビの暗躍がバレて、インキャが新たなカップル発生を妨害するために刺客を放つんだ。当然パシカスは慶太と未希を守ろうとするけど、切った張ったの攻防ののちに、ソバカスだけを逃がしてパシリは捕まってしまうのよね」


「パシカスってすごい罵倒っぽいですね。参考にします」


「すんなや! んで彼はソバカスを裏切れと迫られるんだけど、その時パシリの胸中にソバカスと過ごした記憶が去来するわけ。罪をなすりつけあったこともあったなあとか。あいつを囮に使おうとしたら逆にこっちが囮にされてブチギレたなあとか。そんでびっくりするわけ。あいつとの思い出だけでもこんなにたくさん思いだせるのかって。後輩君はパシリのことを没個性って言ったけど、本当にその通りで、パシリには誰かより秀でた特別なものなんてほとんどなかったんだ。自分には何もないと思ってた。そんな自分に、与えてくれた奴がいた。

 パシリは刺客に殴られながらも小さく笑う。何のとりえもない、虚無でしかなかった自分に思い出をくれた。そして思い出は今、熱く燃え滾る力となって全身に漲っている。

 パシリはその力の名を知っている。

 勇気だ。

『僕を気の済むまで痛めつけろ。全部無駄だ。僕は裏切らない。そして勝つのは、僕たちだ』

 その言葉は、静かでありながらも、私の涙腺を崩壊させるのに十分だった。

 私は、号泣しつつそのラノベを読み続けた――――」


「え、今のどこまでが朗読でどこまでが先輩のモノローグ?」


「そんな感じで、このラノベの作者は、慶太と未希の恋物語を通してパシリとソバカスの友情が育まれる過程を描きたかったんだろうなって思うのよ。いや~ほんといいラノベだった。こういうの大好き」


「まあカオス感とかも含めて先輩好きそうですよね」


「でも後輩君の方がもっと好き」


「え、何ですか? 墾田永年私財法について考えるのに夢中で聞いてませんでした」


「どういうことだよ! ねえねえねえこの前からたまに愛の告白織り交ぜてるのに眉すら上げないのは何なの? 表情筋死んでるの? それとも性欲がない? ちんちん本当についてる?」


「股間に手を伸ばすな!」


「え~、足ならいいんだ~」


「そうは言ってないです。死んでくれませんか?」


「気楽に死を願いすぎなんだよおめーは!! クソ、こうなったらマジでまさぐってやる!! クリスマスだからまさぐっても許されるぜ!! まさぐらせろ!! セックス!! セックス!!」


「あ……雪」


「えっ?」


「(逃げる)」


「てめェ!!(追いかける)」

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