第57話 考えることは同じでした


 次の接敵時には、相手もジープを使用していた。そろそろ撃破ポイントにも差がついてきて、焦りが見え始めたようだ。手早く移動できる方法を選択したらしい。


 それでも移動経路が国道に固定されている辺り、賢い選択だとは思えないが。馬鹿正直に真っ直ぐ向かってくるだけだ。


 後部座席に乗った一人が、前方にグレランを構えるのが見える。その隣では、アサルトライフルを構えて乱射する者もいた。


 多少は学習してきたようだ。SMGでは所詮は近距離、精々が中距離にしか対応できない。ARならば十分に、遠距離でも適応できる。……偏差を考慮してあれば、の話だが。


 グレランがドンと火を吹いたのを見て、慎司が急ハンドルを切り、キュルキュルとドリフトしながら、脇道に車体を滑り込ませていった。俺を背中に乗せてジープに並走していたタマちゃんが、ピョーンと空高く跳躍する。


 途端、アスファルトの上に着弾したグレネードがドゴンと炸裂した。


 上空から敵のジープを狙って、ARをフルオートで撃ち放つ。ガガガガッとジープの車体に弾丸が命中するも、破壊するには到らない。


 リロードを入れている間に、ビルの屋上に着地したタマちゃんが、再び道路の向こう側のビル目掛けて跳躍した。


 ジープの窓から乗り出した二人が、上空目掛けてライフルを撃ち放つ。が、偏差撃ちも考慮されていない照準では、猫神タマちゃんのスピードには追いついていけない。


 再びフルオートで撃ち放った銃弾が、ついにジープの耐久値を上回り、ドカンと炎を散らして爆発させた。


 慎司の運転するジープが、脇の小道から飛び出してくる。どうやら相手の背後に回り込んでいたらしい。


 爆発寸前に車から飛び降りていたらしい一人が、燃え盛る車体の隣でムクリと起き上がったが、起き上がった瞬間には、真樹さんの情け容赦ない集中砲火の餌食となった。


 今回の接敵もまた、こちらの完全勝利だ。乙でーす!


 しかしこのゲーム、少しばかり盛り上がりに欠ける設定な気がする。やっぱりこの手のゲームは、バトロワ形式で複数のチームが混戦していた方が、見ている方もやってる方も楽しめるものだろう。


 このままのルールだと、普及する可能性は低いだろうなぁ。もっと動きがあるように、尚且つ分かりやすくルール改正する必要がありそうだ。


 まぁそれは今後の課題として……


「なぁ慎司。クニノキミトって、ここまでアホなのか? 真っ向勝負しか挑んでこないじゃないか」


 これまで巧妙な手法で、他の神々から聖魂を奪い取ってきたというからには、よほど狡猾な知恵者かとばかり思っていたのだが……いくらこの手のゲームに疎いからとはいえ、ここまで無策だとは思わなかったわ。


「いえ、頭は切れる方だと思うのですが……部下に問題があるのでしょう。猪突猛進の猪武者ばかりですから。文字通りに」


 ああ、なんらかの獣系の神族だか妖怪だかと思っていたけれど、猪なのね。そりゃ納得だわ。


「んじゃ、俺とタマちゃんは上空から、慎司と真樹さんは地上から。このパターンでハメていくとしようか。次の接敵場所は……工業港通りの交差点付近がいいかな。あそこだとグレが飛んできても、道路が網の目のようになってるから、躱しやすいだろ」


「そうですね。なら少し急ぎましょう。距離的に、あそこに接敵を合わせるにはギリギリの時間です」


 慎司がグォンとアクセルを吹かし、ジープを急発進させていった。


「いっくぞー、タマちゃん発信!」


「はーい!」


 元気よく返事をしたタマちゃんが、足音もなくトタタタっと駆け出してゆく。


 しかしその後、予定していた接敵ポイントを過ぎても、一向にクニノキミトのメンバーらと遭遇することはなかった。


「このままだと敵の本拠地に到達してしまいます」パーティチャットで慎司の声が響く。


 接敵がなければ、映像的には面白みのない時間が続いてしまうことになる。あるいは購入できる索敵能力で、敵の位置が分かる能力を追加するのもアリかも知れないな。まだまだ開発の余地はありそうだ。


『本拠地が撃破されることを恐れて、防備を固めたか?』ウィラルヴァだ。


 クニノキミト側の本拠地が設置されているのは、市街地南部の港付近。ここからだともう、五分もかからない。


 あー……港に近いってことは、奇襲に船を利用しても良かったかもなぁ。


 慎司と真樹さんのジープに追いつき、港付近の交差点で話し合う。


「ここで敵の本拠地を落とせれば、勝ったも同然だ。リスポーンしてくる相手をリス狩りし続ければ、そのままハメることもできるだろう」真樹さんが提案した。


「ですが、リスポーンした直後には、三十秒の無敵時間があります。その間の撃ち合いは避けたいですよ」慎司がウィラルヴァに手榴弾の補充を要求し、コートの裏側にセットした。


 確かに無敵時間は厄介だ。しかし残り時間は十五分ほどしかない。本拠地さえ撃破してしまえば、俺達全員が撃破され自軍本拠地にリスポーンされることで、そのまま本拠地を守り切りさえすれば勝ちが確定するだろう。


「よーし。それじゃあ、攻めますか!」


 と、勢い込んで猫神タマちゃんに突撃指令を出そうとしたとき、


『敵襲ダ! 迎撃するゾ!』


 いきなり蛇貴妃の声が響いた。


 おおう!? 蛇貴妃の待機場所は、自軍本拠地の近くだったはずだが!?


「裏を掻かれたみたいですね。もしかしたら序盤から猪突猛進に突撃してきていたのは、このためだったのかも知れません」慎司が渋い顔つきで舌打ちをした。「もっと早く気づくべきでした。キミトさんはここまで愚昧じゃない。終盤に本拠地を撃破し、ポイント有利のまま逃げ切るつもりでしょう」


「つまり敵本拠地は、万全の防備がされていると?」


「はい。おそらくはキミトさん……クニノキミト自身が守っているはずです」確信を持った顔つきでうなずく。


「どうする? 二手に分かれて拠点防衛に駆けつけるか、あるいはこのまま総掛かりで拠点を落とすか」真樹さんがウィラルヴァにグレランの装備を要求し、スチャリとバズーカを肩に担いだ。


 素早い決断が要求される場面だ。


 ふっふ。そういうのは得意なのですよ。向こうの世界の戦場で、どれだけ鍛え上げてきたスキルであることか。


「蛇貴妃。背後に抜かれたら、わざと撃破されて本拠地にリスポーンしろ。無敵時間を利用して、俺が合図するまでは、本拠地を防衛することだけに徹していてくれ」


『ム? 敵を倒すナということカ?』


「そういうことだ。巨大化して本拠地の屋代を守っていればいい。三十秒経って無敵時間が切れたら、また撃破されて無敵時間を作れ」


 巨大蛇になって屋代に蜷局とぐろを巻けば、敵の弾丸は屋代までは届かない。三十秒ごとに1ポイント取られてはしまうが、ここまでに稼いだポイントで十分に上回ることができる。


 敵を撃破してしまえば、これから攻める敵本拠地にリスポーンされてしまうため、撃破するのも厳禁だ。


 慎司と真樹さんが、俺の意図を瞬時に読み取ってくれたらしかった。俺が指示を出す前にジープが急発進し、敵本拠地目指して疾走していった。


「タマちゃん、クニノキミトを倒すのは、まず敵の屋代を破壊したあとからだからね」


 でなければクニノキミトにも、無敵時間のメリットを与えてしまうことになる。


「タマ、我慢するです!」


 おりこうに返事をしたタマちゃんが、ピョンと大きく跳躍してから、一気に走る速度を上げていった。


 漁港近くの小高い山頂に、中央から細く赤い光の柱を立ち昇らせる、小さな屋代があった。


 本来ならばその場所は、何もない山林のはずだ。近くの漁港には友達と何度か釣りにきたことがあるため、よく覚えている。


 屋代の鳥居の真ん前に、一人の人影があった。真っ赤な鬼の面をつけた、鎧武者の姿だ。


 鎧武者が手にした軍配を振り上げると、屋代の周りの地中から這い出した蔦が、巨大化しながら屋代を覆い包んでいった。


 慎司と真樹さんが屋代を囲んだ蔦にグレネードを撃ち込むも、破壊された蔦がグネグネと蠢き、即座に再生されてゆく。


「お前達の拠点も、似たような状況のようだな。分かりやすくて良いではないか。この勝負、先に拠点を落とされた方が負けだ」


 鎧武者が仮面の奥から、声変わり前の少年のような、ハスキーボイスを響かせた。

 

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文責の転移者【異世界から帰ったら、創造神が(美女になって)ついてきてしまいました】 TAMODAN @tamodan

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