第10話 告白
美希が源治達と再会してから一週間が流れた。
「なんか最近お前相当辛そうだが大丈夫か?」
仕事が終わってファミレスで一息を決め込んでいる源治と翔太。
翔太は源治の顔を見て不安げに尋ねる。
「いや、平気だ」
源治は翔太にそう言うのだが、内心は極度の緊張に襲われている――なにせ、美希が同じ職場で、行く末は上司になり、自分達を指揮する立場にいるからだ。
目の前に置かれたポテトフライを源治は全く食べる気にはならない、美希との事で殆ど食欲は無くなり、ここ一週間で体重は2キロ程落ちた。
(やべえな、俺なんか悪いことしちまったのかな……)
翔太は日に日にやつれている源治を見て、自分がした軽はずみな行動を後悔したが時は既に遅い。
美希はまだ新人な為、一通りの現場研修を終えてから配属になる、源治と翔太のいる生産ラインに配属になるのかはまだ決まっていない。
「まぁ、今週はもう終わりだし、これからラッキーにでも行って憂さ晴らしでもするか」
「そうだな」
源治は立ち上がり、ドリンクのお代わりを貰いに行こうとした。
刹那――目の前がギラギラと明るくなり、腕には羽虫がたかっているような感覚に襲われる。
(クソッタレ、またか……!)
源治が痩せてしまった理由――覚醒剤の禁断症状。
『強度のストレスに晒されると、禁断症状が発現する可能性がある』――
『Zうす』の専属の医者は、源治にそう伝えて、入所を進めたのだが源治は断った、こんな所に入ると世間体が悪くなるし、人間らしい生活が送れなくなると判断した為だ。
源治の異常に気がついた翔太は不安げな表情を浮かべる。
「なぁ、源治……お前まさか薬やってねえよな?」
「やるはずねえだろ、飲みに行くぞ」
自分が昔覚醒剤を親に打たれた体験など誰にもいえない――源治は強がって、ファミレスを後にした。
*
『ショットガン』に行く途中、源治は悪い予感に襲われる。
よく人間は悪い事が起こる前に第六感という超感覚が働くという、店に行くまでの道のりを歩むたびに源治の胸に得体の知れないざわつきが起こっているのだ。
(こいつ本当に大丈夫かなぁ)
二年の付き合いの間柄、源治の異変に翔太は薄々気が付いている。
『ショットガン』へと続く階段を登るたびに、源治の胸の動機は荒くなる。
扉を開けると、美希がカウンターでジーマを口に運んでいるのが彼らの目に飛び込んで来た。
「あぁ、お疲れ様です」
翔太は美希に軽くお辞儀をする、下手したら自分の上司になるのかもしれない為だ。
美希は彼等を冷ややかな目で見つめて、お疲れ様ですと軽くそう話しジーマを口に運ぶ。
(やっぱり、俺達のような貧乏人が、この子のような金持ちの人間と付き合うのは無理なのか……)
源治は軽く溜息をつき、テーブル席に腰掛ける。
「何にするかい?」
正志は彼等の間に何があったのかは知らない様子で、いつものように源治の目の前にメニューを置く。
「俺ビール」
「俺はジーマとエビチップス」
「あいよ」
正志は彼等から注文を聞くと厨房へと足を進めて行った。
彼等と美希との間には、冷たい空気が流れている。
数分の静寂の後、翔太は口を開く。
「美希ちゃん、この前こいつから変なメールが届いたと思ったけれども、実はそれ送ったの俺なんだ、こいつ何も悪くないんだよ」
美希は後ろを振り向いて、源治と翔太を見つめる。
「そうだったのね……」
「美希ちゃん、実は俺美希ちゃんのことが好きだったが、諦めるよ、多分彼氏いるだろ?だから」
源治は、勇気を振り絞り、詫びた。
(多分自分はこの一言で美希から嫌われるだろう、もし仮にそうなったら、また別の職場に行けばいいだけの話だ、心に引っかかりがあるままこの街で暮らすのは真っ平御免だ)
美希はわだかまりが解けたかのように、微笑んで源治を見やる。
「私今いないわよ、てか、今まで彼氏はいなかったわ。……そう、好き、か、少し考えさせて」
美希は立ち上がり、正志に会計分のお金を置いておくと話して、店を後にして行った。
*
午後10時半過ぎ、翔太と別れた源治は家に戻り一人寂しくパソコンでYouTubeを見ている。
(どうせ俺では、あんな美人で金持ちの女の子と付き合えないだろう、これで良かったんだ、これで……! 俺のようなシャブ中の風来坊が、あんなに美人ないい子と付き合うこと自体がそもそも不可能なんだ……!)
源治は自分にそう言い聞かせ、コンビニで買って来た焼きそばを口に運びながら動画のチャンネルを回すと、P町の特集記事が流れている。
(こんなクソのような町でも、ユーチューバーの撮影は来るんだな)
深夜飲み屋の特集、というタイトルの先には、『ショットガン』の特集が載っており、正志が恥ずかしそうな表情を浮かべてユーチューバーのインタビューに答えている。
(正志さん、これでちょっとは有名になれるかもな、動画の威力は半端ねぇし)
焼きそばを食べ終えて、煙草に火をつけると、ラインが入っているのに気がついた。
『私、自分を大事にしている人と付き合うことに決めました、付き合ってください』
思わず源治は、口からタバコを落としそうになった。
源治はすぐさま、美希にラインの電話をかける。
「もしもし」
「美希ちゃん、こちらこそ俺と……付き合ってくれないか?」
「うん、いいよ」
「有難う」
「私げんちゃんの事が前から気になっていたのよ」
「そうか、有難う。明日またラッキーに行こう」
「そうね、翔ちゃんと正志さんに報告しないとね」
「そうだな……」
「眠くなっちゃったから寝るね」
「わかった、おやすみな」
電話を切った後、源治は軽くガッツポーズを取り、祝杯、とばかりに冷蔵庫からビールを取り出す。
その日源治が飲んだビールは、普段苦いのだが何故かこの日だけは美味く感じられた――
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