第20話 私の結婚相談所が事務所難民になった話
10月のはじめ、とある喫茶店にいたときのことです。
私は昨年まで毎日通っていた喫茶店がありました。面談に使うためでした。
そこは、2時間いても、私と面談者のみなんてことも少なくありませんでした。
おかげでプライベートな話を広い空間でお話ができていました。
ある日、いつもの店員が私のところにやってきました。
注文は何も頼んでいません。
「いつもありがとうございます。実は、今月で閉店してしまうんです」
「え」
私は突然のことに頭が真っ白になりました。
でも、2時間経っても私と面談者しかいない喫茶店なんて潰れますよね・・・。
というわけで、私はひよこさんに相談をしました。
「明美ちゃん、代わりの喫茶店探さないと」
「だよねえ」
「一緒についていってあげるから日曜日にいろいろ回ろう」
こうして、私とひよこさんは駒込と巣鴨の喫茶店をぐるぐると回り始めました。
「あいやー、ないなあ全然」
「そうだね」
ほとんどの喫茶店は大盛況でした。
1件、誰も入っていない喫茶店を見つけましたが、入った瞬間「だめだ」と思いました。
たばこの煙がもうもうとしており、テレビでは大相撲が流れ、さらにクラシックがバックミュージックに流れていました。カオス!!
ちなみに、閉店時間は夕方5時でした。
あかん・・・。ここで面談はぜったいあかん・・・。いろいろあかん。
「もう、こりゃ事務所借りるしかないわ」
「だね・・・」
ということで、私たちは物件を探し始めました。
そうなるとなんだかワクワクしてくるものです。
「私だけの面談室♡」
ぱあああああと目が輝くのでした。
私は、ここで大きな勘違いをしてしまうのです。
「どうせなら、青山とか三軒茶屋とかおしゃれなところでやったらどうかしらん」
駒込に住んでいるくせに、そんな背伸びしたことを考え始めました。
そしていい物件を見つけました。
駅から徒歩5分で2DKの13万円の事務所でした。
「ひよこさん、私三軒茶屋で仕事をする!」
そう言って、図面を見せました。
ひよこさんは私の予想に反し、困った顔をしておりました。
「あけみちゃんみたいに出不精な人が毎日三軒茶屋に通うの?」
「うん、同じ都内やん」
「毎日電車に乗れるの?」
「う」
「ラッシュに耐えられるの?」
「うう」
「それにそこ、明美ちゃんとなんか合わんよ」
「ううう〜〜〜〜」
ーーたしかにどんなに物件の条件が良くても、相性というものがあります。
私はどう考えても三軒茶屋カラーではありません。
「明美ちゃん、婚活の仕事をしているんだから、自分に合う場所考えなあかんよ。
それも婚活みたいなもんやで」
ハッとしましたよ。不動産探しと婚活は本当に似ています。
分不相応なセレクトをすると無理がたたります。
私の住んでいるマンションの最寄り駅は駒込駅です。
腐っても山手線です。
池袋ー上野の間の、あんまり名前を覚えてもらえない駒込です。
こまごめと読めない人もいる駒込です・・・。
山手線沿線の駅近で探せば、自分も楽だし、面談に来る人も来やすいのではということで、ネットで探すのをやめて、近所の不動産屋の窓に貼ってあるチラシを見回ることにしました。
すると、1件目で今の事務所が見つかりました。
ー駒込駅徒歩2分。家賃は数万円で30平米以上。部屋は2部屋。事務所使用のみ
その不動産屋に飛び込みました。
そこは、明らかに70歳を超えた女性二人で40年以上やっている地元の不動産屋です。
ギラギラした営業マンは誰もいませんでした。
私は唐突におばあちゃんたちに聞きました。
「あの、チラシのあの物件、なんで駅前なのに何で安いんですか?」
次の言葉が、この物件の決め手になりました。
「あ〜前に住んでいた中国人が酔っ払ってお風呂を破壊したんだよ。
風呂を直す予算もないからということで、事務所用ということになったんだよ」
ひよこさんにその話をしました。
「うん、たしかにそれは明美ちゃんに合っている気がするな」
その週の土曜日にひよこさんはメジャーを持って事務所の内見に参加しました。
風呂は見事に豪快な壊れ方をしておりました。
「ここにしたらいいんじゃない」
ひよこさんのお墨付きをもらいまして、今の事務所に決定しました。
あれから1年経過しましたが、本当にこの事務所にして良かったです。
家から歩いて10分ぐらいなので、楽です。
駅前なので会員さんも迷いにくいですし。
しかもローソンが入っている建物ということでわかりやすさも良いです。
まるで結婚相手を選ぶかのような事務所探しでした。
今もお気に入りです。
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