第14話 探求する冒険者


 解いた手を、今度は絡めるのではなく掴んで毛布の上に縫い付ける。

「じゃあ、貴方はいつになったら僕の気持ちをわかってくれるの?僕の気持ちが勘違いだって言うのなら、この衝動はどこから来るの?精通さえまだだった幼い頃から、ずっと、ずっとこの胸にあった僕の思いはどこから来るって言うのさ・・・!」

 息子の言葉にまたも顔色を失う。

 なんてことを言うんだ。

 女親だったからその類の話題は全部大叔父に任せて来た。彼の下半身の成長については母親役の自分には言及できないし忠告も出来ないからだ。だから双子で自室を分けた時から、彼の身体の事についてはノータッチできたと言うのに、なんで今日になってそんなことを告白するのだ。

「言ったでしょう。僕は貴方を母と言う事でその役得に預かろうとは思ったけど、本当に母親と思った事なんて一度も無いって。アイコは僕にとっていつだって『女』だったよ。こうしている今現在も!」

 叱りつけるように言い放ったヒカルは、再び愛子の胸に顔を埋める。

 ずっと忘れていた官能という言葉が甦る。

 駄目だと思い、制止しなければいけないと思った。

「ヒカル、駄目・・・!」

 嫌じゃないのだから、駄目だと思った。少しでも嫌悪感があるのならまだマシだ。

 自分自身が駄目なのだ。少しも嫌だと思わない自分がいけない。女として扱われて、その相手が、息子であろうとも受け入れる気持ちになっている。その事が駄目なのに。

 アーサー様であればずっとよかったのに。不倫であろうとも、彼は他人なのだから。

 それなのに、自分はどう言い訳しようともヒカルの言葉に逆らえない。

 忘れていた自分の女性として扱われたい思いが、こんな形で成就するなんて。

「なんてやわらかいんだろう・・・凄く気持ちいいよ。」

 囁くように言われてかっと赤面する。

 柔らかいのは、年増だからだ。垂れ始めているからだ。若い女子だったらもっと張りがあるから硬く感じるだろう。

「馬鹿っ馬鹿・・・!」

「何?照れてるの?それとも恥ずかしい?僕よりずっと年上なのに。」

 そう言って、軽く噛んだ。

「あぐっ」

 痛みに悲鳴を上げてしまう。

「反応が悪いね。・・・一体どれくらい、この体は誰にも愛されないで来たんだろう。ねぇ、もしかして父さんが死んでから一度も誰ともしてないの?」

「・・・そうよ、してないわよ。もうとっくに蜘蛛の巣が張っているわよ。貴方みたいな若い人の要求になんか応じられっこないわ。」

 半分自棄になって言い返す。

 もうこうなればどうにでもなれだ。

 ヒカルの方から止めてくれるのであれば、どんな理由でもいい。若くはない体に幻滅した、でもいいし、手慣れていない下手な行為では面倒くさい、でもなんでもいい。彼が何を求めて自分のような年増に襲い掛かって来るのかわからないけれど、少なくとも、欲望の対象として相応しくないとわかれば止めてくれるだろう。

 くすっと笑った声がして、相手の手首を縫い付けていた手が足の間へ移動した。ショックの余り腰が跳ねる。

「ふふ・・・じゃあ、僕は蜘蛛の巣を払って貴方の中を探求する冒険者だ。」

 ヒカルの指がゆっくりと下半身を触った。

 息が止まるかと思った。

「優しくするからね、アイコ」

「何言って・・・!ひぃっ・・・!」

「賭けてもいい、父さんは貴方を抱かなかった。だから、貴方がずっと誰ともしていないと言うのなら、それは本当だと思う。・・・きっと処女はじめて同然に辛いかもしれないでしょう?優しくするのは当たり前だよ。」

 ヒカルの言う事はいつだって真実ほんとうだ。

 あの人は愛子を相手にしてくれなかった。けれど、諦めきれなかった愛子は他の誰とも付き合わなかった。

 渡英する以前の、若い学生の頃に異性と交際したことは有る。その当時に初体験も済ませている。それは、あの人に会う、ずっと以前の話で、まるで他人の話のように遠い昔だ。

 自分の人生は、あの人に会った時から始まったのだから。

「あ、駄目、本当に」

「気づいてるよね?・・・アイコは一度だってイヤだって言わないんだ。駄目駄目ばっかり。」

 だって嫌ではないのだから。

 いやではない自分が許せないのだから。

「だから、僕に流されちゃえばいいんだ。」

 ヒカルが愛子の足の間に顔を埋めた瞬間には、きゃああ、と若い娘みたいな悲鳴を上げてしまった。





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