第32話 ララと登山

 そのころにはすでに日が沈んでいる。周囲がどんどん暗くなる。


「ケロちゃん、夜ご飯食べようね」

「りゃあー」


 ララは鞄から干し肉を取り出した。

 それをケロに与えて、ララは鉱石の精製を開始する。

 右手で空中に魔法陣を指で書きながら、左手で干し肉を食べる。


「はむはむはむはむ」

 ケロはララの作業を見ながら、一心不乱に干し肉を食べていた。


「いっぱい食べるんだよー」

「りゃむぅ、がふがふがふ」


 ララは新たに作った三つの錬金壺へ、どんどん鉱石を放り込んでいく。


「これはこっちかな。これは……こっちかな?」

 ララは鉱石ごとの各成分の含有率に応じて、入れる壺を変えている。

 そうしているうちに、ララは干し肉を食べ終わる。


 ララは空いた左手も使って、空中に魔法陣を描く。

 両手を使うことで、一気に精製が加速する。


 ケロがご飯を食べ終わるころ、すべての鉱石の精製が終わった。

 そのころには完全に日は沈んでいる。

 だが、満月が出ていたので暗いながらも周囲の景色を見ることは出来た。


「さて……」

「りゃむぅー?」

 ケロは「用事が終わったなら帰る?」と聞いていた。


「まだだよー。標高の高いところに生えている薬草を採りたいし」

「りゃりゃ」

 ララは月明りを頼りにまた走り出した。

 目指すは近くに見える高い山。

 方向音痴のララでも、近くに目的地が見えていればあまり迷わない。


「ほいほいほい」

「りゃっりゃっりゃりゃ」


 道などない。

 生い茂る木々をかき分けで進んでいく。

 邪魔な枝は魔法の刃で切断しながら進んでいった。


 ララが一目散に山頂を目指してかけていると、次第に走る地面に傾斜がついて来る。

 当然だが登山道などない。

 岩などもぴょんぴょん飛び越えていった。


 どんどん生えている木々が低くなってくると、ケロが、

「りゃああありゃ」

 急に鳴いた。


「ん? どしたのケロちゃん?」

「りゃっりゃ」

「……少し休憩しようか。急いで登りすぎたかも」


 そういって、ララはケロに水を飲ませた。

 それからララは自分も水を飲む。


 あまりに速く山を登ったので、ケロは気圧差でしんどくなったのかもしれない。

 だが、赤ちゃんでもケロはドラゴン。基本的に気圧差ぐらいどうってことない。

 すぐに元気になった。


「もう大丈夫?」

「りゃっりゃ」


 ララはまた走り出す。

 そして、あっという間に山頂に到着した。


 山頂周囲は夏だというのに雪で覆われていた。

 夜ということもあり、凄く寒い。


「寒いねえ、ケロちゃん」

「りゃむ!」

「空気も薄いし」

 ケロは羽をバタバタとさせた。


「昼だったらいい景色が見れると思うんだけど、真っ暗で何も見えないね」

「りゃ」

「服の中に入る?」

「りゃあ」

 もぞもぞと、ケロはララの服の中に入って、胸のあたりで丸くなる。


「さてさて、採集を開始しようね」

 早速ララは探知の魔法を周囲に一気にかける。


「雪の下にもちゃんと薬草があるよ、ケロちゃん」

 ララは万年雪を汚さないように気を付けて掘る。

 そして、その下で育つ特別な薬草も採集していった。


 山頂付近の万年雪も錬金術の素材になりうる。

 ついでに万年雪も魔法の鞄に入れていく。


「鞄には状態不変の効果もあるから、解けないんだよ」

「りゃあ」

 ケロは服の中で眠そうに鳴いた。もう寝かけているらしい。


 さほど時間はかからず、ララは採集を終える。


「さて、戻ろうか。ここで眠るとさすがに寒いからね」

「りゃ」

 ララの服の中はあったかいのだろう。

 ケロはもう半分眠っている。


「ケロちゃんは赤ちゃんだからたくさん寝ないとね」

 服の上からケロを優しく撫でると、ララは下山を始める。


「やあ、ララ。奇遇だな」

「あれ? ピエールさん、こんなところでどうしたの?」

「依頼のついでによさそうな山が見えたから登ってみたんだ」

「へー。ピエールさんは登山が趣味なんだー」


 ガレーナの街を出た後、ピエールは一旦ララを見失った。

 だが、採集している間に追いついて、それからずっと見守っていたのだ。


「折角だ、一緒に下山しよう」

「はい!」

 山頂が目に見える登頂はともかく、下山は絶対迷う。

 迷ったら、ピエールの手助け無しにはガレーナの街には戻れないだろう。

 そう判断して、ピエールは声をかけたのだった。


「それにしても、ララはこんなところでどうしたんだ?」

「錬金薬の素材集めだよー」

 そんなことを話しながら帰っていく。


 ピエールはかなり全力気味で走る。

 汗だくで走るピエールの後ろを、ララは軽い調子でついて行った。




 ララとピエールがガレーナの西門に到着したのは夜明けのずっと前だった。

 まだ門は開いていない時間。なので門の近くで休むことにした。


「さすがに眠くなったから、門が開くまで寝とこう!」

「りゃあ」

 そう言うとすぐにララは門の近くの草むらに横になった。

 ケロはララの服の中、お腹のあたりで丸くなる。


「お、おい。ララ。何も敷かないでそのまま寝るのか?」

「夏だからね。ピエールさんは何か敷きたいの? 探せばあると思うけど」

「俺のことは気にしなくていいが……」

 仮にも王族であるララが地面にじかに寝て大丈夫なのかと心配になったのだ。


 だが、ララは

「そっかー、…………すー、すー」

 すぐに寝息をたてはじめたのだった。


「寝つきがすごく良いな……」

 ピエールは呆れ気味につぶやいて、ララから少し離れて横になる。

 とても疲れていたが、危険な外ということもあって、眠ることは出来なかった。

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