第5話

 気が付いたら俺は、小さな暗い小部屋にいた。

 魔王は、こんな所まで追い詰められていたのか。

「なんで、戻ってきたのだ?」

 まん丸な目で、魔王は俺を見つめてる。

「ここは…どこ?」

 俺は、何もかもすっ飛ばして、文字通り魔王の元に戻れたみたいで。

 どこに居るのか分からない。

「謁見の間の裏の小部屋なのだ。

 ここなら、少し時間稼ぎが出来るのだ」

 俺は、魔王が座り込んでいる横に、身体を密着して一緒に座った。

「なんで、俺を元の世界に戻した」

「守るって言ったのだ。魔王は約束をたがえないのだ」

 魔王が足を抱えて丸くなってる。こうやって見ると本当に幼いな。

「俺は、精気吸えって言った。エサなんだろ?異世界の人間は」

「そう…だよ。今までそうしてきた」

「だったら…」

「吸えなかった。

 最初…部屋に案内したとき、我が攻撃したの覚えてるか?」

 あ…あれ、やっぱり攻撃だったのか。

「あれで精気奪い取れるはずだったのだ。なのに、ユーマが受け入れるから。

 我のことを、疑わず安心しきっているから…。守りに変わったのだ。

 今だって、そうであろう?我がしてきたことを、知っても側にいる」

「そうだな…。なんか、情が移ったみたいで」

 ははって笑う。俺、ロリじゃなかったハズなのにな。

「我はな。ここの国王の娘だったのだ」

 思わず、魔王を見てしまう。

「酷い国王でな。庶民の生活など、ろくに考えもせず贅沢三昧で、側近達と湯水のように金を使ってたみたいだった。そうして、クーデターが起きて…処刑された。

 我はその時まだ子どもだったから、ここの城のてっぺんに、幽閉されたのだ」

 魔王はそこで、ふぅ~と溜息をつく。

「その頃はな。逆恨みして、親を殺した奴らが憎くて憎くて、悪魔と契約を交わしたのだ。そうして、人里に降りて、殺しまくって精気を吸って…。

 我は、酷い女なのだ。ユーマが、命を掛けて助けても…また、人を殺さなければ生きられぬ」

 外が騒がしくなっていく。ここが見つかるのも、時間の問題だ。

 思わず、魔王を抱きしめる。ドアから魔王を庇うように。

「ユーマ。少しだけ精気をくれぬか」

 腕の中で、魔王が言う。

「いいぜ」

 言った瞬間、魔王から口づけられた。何か流れ出すのを感じる。

 魔王がドアの方に、手をかざし、結界を張った。

 たった、これだけの魔力も残ってなかったのか。

「これで、ここはもう開かぬ」

「そうか」

 俺は、腕の力を緩めた。

「我は、数百年前の亡霊のようなものなのだ。魔王になってしまってたから、ユーマに会えただけ。王女クリスティーナは、とうの昔に死んでいるのだ」

「クリスティーナ」

 それが、魔王の名前。

「さて、そなたはそなたの時間を、生きねばならぬ」

「ちょっと待て。俺は。

 俺も、ここで一緒に…」

悠真ゆうま。ちゃんと生きて、人生を全うするまで待つから。がんばってくるのだ」

 魔王…クリスティーナは、俺の方に手をかざし。

橋本はしもと悠真ゆうま、そなたの自宅警備の任をく」

 そうして、王女様らしく、優雅に笑って言う。

「大義であった」


 魔王の……クリスティーナの優しい笑顔を最後に、俺の意識は途切れた。





 朝、自宅のベッドで目を覚ました。

 夢を見ていたのかとも、思ったのだが、言いようのないけだるさと、胸につっかえるような切なさというか、悲しみが現実だと知らしめる。

 なにより涙が止まらない。







魔王クリスティーナは言った。

「ちゃんと生きて、人生を全うすれば、また会えると」



 ※読んで頂いて、ありがとうございます。

 感謝しかありません。

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『自宅を警備するだけのかんたんなお仕事です』――そう言って強制転移された先は魔王城でした 松本 せりか @tohisekeimurai2000

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