高校最後の思い出は……

7ふぐ神

第1話

 ジリリリ


 目覚まし時計を緩慢な動作でポスッと止める。結衣は布団に潜り込み二度寝した。


 ジリリリ


 スヌーズ機能で再び鳴った時計を止めるとモゾモゾと起き出す。


 結衣は起こされるのが嫌いだ。三度寝をして母に起こされた日は一日気分が悪い。


 制服に着替え朝食を食べる。

 モソモソ モソモソ

 菓子パンだ。


 結衣の両親は共働きで朝が早い。だから食事の支度に時間は掛けられない。


 結衣は高校一年生。自転車で学校へ通っている。いつも友達の家に寄って一緒に行くことにしていた。

 しかし、友達は朝寝坊をすることが多く、しばしば見捨てていくことになる。そして、この日も結衣は一人で行くことになった。


「おはよう」と教室に入る。


 しばらくすると結衣の席の周りに人が集まってくる。各々ノートや鉛筆、教科書などを持ってである。ここ最近の見慣れた光景だ。


 結衣自身は勉強がそんなに得意ではない。しかし、何故か教え方が上手いらしく、いつの間にか教えて欲しいという人が増えていった。

 どこがいいのか結衣自身には分からないが、復習になるので『まあ、いいか』と思っていたらこんな状態になったわけだ。



 結衣は昼休みにお弁当を食べ終えると、いつもフラフラと教室を出ていく。

 お気に入りの先生のいる教室だったり、一階玄関前のホールのベンチだったり、建物の外にでてみたりする。昼休みは一人でのんびりするのが好きなのだ。

 しかし休み時間が終わる前に探しにきた友達に見つかるのもいつものことだった。


 放課後になりクラブ活動の時間になると、友達と連れ立って教室を移動する。結衣は音楽部に入っているが、音楽は特に好きでも嫌いでもない。いや、正直にいうと音痴の部類に入るとおもう。


 おかしいな、何で入ったんだろうか?


 実際気づいたらいつのまにか友達と一緒に入部していたのだ。 


 おかしい? ‥‥‥‥帰宅部希望だったはずなのに


 こんな感じで結衣の毎日は過ぎていくのだった。




 ◇ ◆ ◇




 おはよう 教室に入るガヤガヤと騒がしかった。


 みんなジャージに荷物はリュックサックである。今日は遠足だからだ。

 私達の学校は田舎にあり急な坂道を登った先にある。学校の裏には山がある。残念なことに遠足は学校の裏にある山だ。

 


 ため息ものである。


 出発はクラス順でおこなわれる。

 先ずは1組からだ。

 結衣のクラスは8組で一番最後だった。


 校門をでて山道に入る。

 山道といっても途中迄はハイキングコースのようで道幅も広い。

 周りの友達とワイワイ騒ぎながら歩いていった。


 しばらくすると段々バラけてきた。

 皆の口数も徐々に減ってくる。


 結衣は少しスピードをあげ前を歩く生徒を追い抜いていく。

 勿論、友達は置いてきた。

 途中、結衣より先に出発していた友達に会ったので一緒に喋りながら歩いていく。


 気がつくと、周りには結衣のクラスの生徒はいなかった。


 更に進むと、道が狭くなり段々と登り坂がきつくなってきた。友達の手を引き上へ上へと登っていく。


「先に行って」と友達が言った。どうやら限界らしい。


 結衣は頷くとスピードを上げてヒョイヒョイと山道を登っていく。友達の手を離し、ひとりになると身体が軽く感じられた。


 頂上にたどり着くと人は疎らだった。


「君、何組?」 男子生徒に声をかけられた。


 8組だと答えると自慢していいよと言われ、女子でたどり着いたのは二人目だと教えてくれた。


 暫くするとフウフウと息を切らしながら他の生徒たちも到着してきた。


 結衣は密かに喜びながら、友達と一緒にお弁当を食べた。そして帰り道は友達と一緒にゆっくりと歩いて帰っていった。




 ◇ ◆ ◇




 ある日の休み時間。


「ねえ、3階のあの教室入れるよ。行ってみない?」


 同じクラスの柚木が言い出し、4人で行ってみる。


「本当に開いてるね」

 

 皆で中に入ると柚木がトランプをだしてきた。

 何で持ってるんだと思いながら柚木がトランプを配るのを見ていた。暫くして授業が始まる時間になっても、誰も教室に戻ろうとはしない。


 その日初めて授業をさぼった。

 そんなことを二回したが、結衣はその後は自然としなくなった。


 うーん、気持ちの問題かな? さぼると気持ちが良くなかったから。


 その教室はさぼるのに最適だったらしく、籠る生徒が頻発する。

 しかし生徒の告発であっけなく終わり、大きな問題になることもなく穏便に対処され、結衣のことも明るみにはならなかった。




 結衣は試験が近づくと真面目に勉強をする。いや、普段から勉強はしているが更に頑張る。試験勉強は嫌いではない。もちろん好きでもないが答案が返ってきた時に友達と比べるのが好きなのだ。点数を競いたい訳ではないが励みになる。だから友達に多少嫌な顔をされても聞くのをやめれない。


 卒業までに試験も残すところあと一回となり、相変わらず結衣は友達に答案用紙が返却されると何点か聞いてみた。


 苦手な国語と社会が友達より良かった。いつも数点差で負けることが多かったので満足だ。

『終わりよければって言うしね』って内心ニコニコしていると、別の友達に数字の点数をきかれる。

 93点と答えると『初めて勝ったよ』と言われて愕然とする。ちなみに友達は95点。


 その友達は入学してからずっと結衣に負け通しだったようだ。言われて初めてその事実に気がついた。


 そして、その友達の嬉しそうな顔、それが高校最後の思い出となった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

高校最後の思い出は…… 7ふぐ神 @7hugu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ