ピグミの歌 (5)

 



 師匠とはホノホシ海岸で別れて以来、会うことはなかった。ある街で、同じ吟遊詩人から彼の訃報を知らされた。


 クローサーはひどく取り乱し、しばらくすると魂が抜け落ちたかのようになった。


 その日から寒さが増してきていたので私が宿を取り、彼の世話をした。ご飯を食べさせ、体を拭き、腕を担いでベットに寝かせた。


 何日間か、その街で過ごしたんだと思う。ある日、また真夜中にクローサーが泣き出して背中を掻き毟り出した。


 彼は自傷癖がある。情緒不安定な時、昔の人に会った時、悪夢に目覚めた時、彼は自分の肉を削ごうとする。


 私は隣のベットから出て、彼の背中に抱きついた。震えて、耐え凌ぐ体をキツく抱きしめる。窓から外を見ると、ねずみ色の空から雪が降っていた。


「クローサー、雪」


「……」


「雪は天から帰ってくる死者の魂、お師匠さんが帰ってきたんだよ。綺麗だね」


 クローサーが両手を離して、涙でぐちゃぐちゃの顔を外に向けた。


「俺は……この世界をまだ綺麗だと感じるんだ。師匠が教えてくれた世界を、たくさん見てきたんだ」


「うん」


「俺は……し」


「ピグミはクローサーのその綺麗なものを見てきた目がとても好き、悲しみを受け止めるこの体も。私の一番綺麗なもの」


 傷だらけの肩甲骨に頬を貼り付け手のひらを添わせた。彼はゆっくり振り返ると初めて自分からキスをくれた。


 窓が曇る。部屋が幸せで霞む。雪の夜はきっと銀世界だろう。死者の魂は彼を迎えにきたのではない。世界の白無垢だ。真っ白な新たなスタートを用意してくれたのだ。


 その日、私達はひとつの命になった。




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