ピグミの歌 (4)


 





 行き先を決めたクローサーは進みながらも昔のように途中途中休み、少ない言葉数で私の体調を気にしていた。子供が出来たのも自分一人のせいにする男だ。私もイライラしてクローサーの踵を蹴った。


「いたい……」


「痛くしたの」


 蹴った踵を擦りながら恨めしげに振り返る。そんな所は可愛らしいといつも思う。愛おしくて笑いをこらえた。


「ねぇ、どこ行くの?」


「ツシマのところだ」


「またあのアイツの所?」


 彼は何も答えなかった。気乗りしない。ツシマは彼が初めて愛した人だ。頭のおかしいクソ野郎。私は大嫌いだ。ツシマのせいで彼はとても傷付いたのだ。私が文句をブツブツ言っても彼は振り返ってくれない。アイツも彼に振り返りはしないのに。いつも正面を向いたまま答えをあげないで焦らすだけ。そんなの一番最低だ。


「また私をツシマの所に置いて行くの? お腹の子も一緒に」


「……少し、ツシマと考えさせてくれ」


 私は鼻をフンと鳴らした。あいつの答えはわかってるじゃないか。


 クローサー、あなたの悲しみの肉も私は愛していたよ。その体に流れるあなたが憎んだ血の赤も、全て、全て。


 美しい大地に自分の血が流れることさえも恐れてしまったあなた。死にたがるくせに、死ぬのも烏滸がましいだなんて……笑えるよ。


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