《目撃者》

「なあ、ケント。お前、一体何者だ?俺にはお前が悪い奴とは思えないが得体の知れない奴を信用する訳にもいかないのも分かるだろ?」


フォンさんがそう言って俺を見る。そりゃそうだ。俺が2人の立場なら同じように相手の事を調べるだろう。


そもそも、騙しているのは俺だしな。別に騙すつもりはなかったけど結果的に騙している訳だし。今の姿で会っているのはこの姿しか面識がなかった事とゲイツが下にいるからってだけだ。


フォンさんが獣人を差別しないのは知ってるし、何時までも嘘をつくのは申し訳なく思えてくる。フォンさんになら正体を教えても問題ないだろうしカインさんも友人なら多分大丈夫だろう。


「すみません。騙すつもりはなかったんですけど、俺の今の姿は魔法で変身した姿です。」


俺はそう言って魔法を解く。2人は一瞬だけ驚いたが黙ったままだ。


「今の姿が本来の姿です。街に入るために面倒を避けたかったので使ったんですがフォンさんとは今の姿では面識がなかったので姿を変えてました。申し訳ありません。ただ、孤児院の事は嘘ではありませんし、俺が信用出来ないのでしたら俺は手を引きますので彼女にだけは力を貸してあげて下さい。」


俺はそう言って2人に頭を下げる。アンナが不安そうに見ているが俺は彼女に謝って部屋から出て行こうとする。


「待て。」


俺が部屋から出ようとするとフォンさんから声がかかる。


「ふぅ。まあ、何となくケントの正体は分かってたんだよ。理由も理解できるし、先に言ったとおり悪い奴とは思っていない。もし、獣人の姿で街に入ろうとしてたらゲイツのせいで問題が起きていただろうしな。」


フォンさんはそう言って俺を席に促す。


「ですが、カインさんは俺がいて良いんですか?」


俺はカインさんを見る。フォンさんからは許して貰えたようだがカインさんはどうだろう?


「うーん。私は別に君の事を信用出来るほど知らないしね。ただ、フォンからゲイツの事は聞いてたし君が獣人だということは分かってたから正直に言うなら今回は許してやろうってフォンに言われて許す事に決めてたんだよ。まあ、何でフォンが君をそんなに信用するのか分からないがね。フォンだって彼の事は良く知らないだろ?」


そう言ってフォンさんを見るカインさん。カインさんにそう言われたフォンさんは俺を見て肩を竦める。


「別にケントを信用した訳じゃないさ。ただ、人族のケントを調べてた時に獣人族のケントの話を良く聞いた。街の人からは好意的な話ばかりだった。獣人族が人族に受け入れられるのは簡単じゃない。なら、この短い間に街の人に受け入れられてるケントは悪人ではないだろうと思ったんだよ。」


なるほど。確かにフォンさんとは顔見知りではあっても仲良くはない。なのに信用されているのが不思議だったがそういう理由か。確かに街に来てから街の人とは親しくなっている。最初の方に俺を見て嫌そうにしてた人達とも少しは仲良くなれた。


「俺は街の人達を信頼してる。そんな人達が信用してるなら俺も信用するさ。」


そう言って俺を見るフォンさんには最初の警戒心は感じられない。


「なるほど。街の人間をよく知っているフォンがそう言うならそうなんだろう。所で、ケント君。君は他にも魔法が使えるようだけど、その若さで何故そんなに魔法が使えるんだい?獣人族では魔法を使えるだけでも珍しいのに。ああ、ただの興味だから答えたくなければ別に答えなくていいよ?」


笑顔でそんな事を聞いてくるカインさん。悪いけど答えられる訳がない。俺の沈黙から話すつもりはないとわかったのか追求はしてこなかった。


「それじゃあ、俺達はこれで失礼します。」


話も終わったので出ていく事にした俺達だが、気になった事があったので聞いておく。


「そういえば、何で俺が獣人だってバレたんですか?」


何となく気になったので聞いておく。別にバレる様な事はなかったはずだけど。


「それは簡単だよ。孤児院で見かけられているのは獣人のケント君だ。なのに、アンナさんと一緒にフォンに頼みに現れたのは人族のケント君。おかしいよね?それで調べた結果を合わせたら獣人のケント君と人族のケント君が同一人物なのは直ぐに分かったよ。」


そう言って笑うカインさん。確かに調べたら直ぐに分かるか。まあ、別にバレても構わないんだけど。理由も分かったし今度こそ衛兵所を後にする。






「カイン様が!?」


衛兵所から孤児院へと戻った俺達はダントさんにカインさんが会いたがっている事を伝えていた。


「はい。孤児院の事について衛兵の隊長を務めるフォンさんに相談に行ったのですが、今日になって衛兵所に呼ばれましてフォンさんと一緒にカインさんが待ってました。」


俺は衛兵所で聞いたカインさんの話をダントさんに伝える。険しい表情だが話を終えるとダントさんが頭を下げる。


「すまない。本当なら私が自分で動くべき事なのに。話はわかった。カイン様に会おう。申し訳ないが伝えてもらえるか?」


俺は頷いて返事を伝える為に衛兵所に寄ってから帰ることにした。




数日後、孤児院にはカインさんとフォンさんが訪れていた。ダントさんに会うためだ。


「初めましてカイン様。私が孤児院の院長をしているダントと申します。この度は、孤児院の事で足を運んで頂きありがとうございます。」


そう言って頭を下げるダントにカインさんが近づいて頭を上げさせる。


「私に対して頭を下げる必要はありません。それに孤児院の事は聞いてますので謝らなければならないのは私の方です。父の部下が迷惑をかけたそうで申し訳ない。」


俺とアンナは黙って2人のやり取りを見ている。本当は席を外しているつもりだったんだがダントさんに一緒に話を聞くようにお願いされたのだ。


5人で院長室に座っているがそれ以上、話が進まない。


「2人から話は聞いてます。父の部下がスラムの人間を使って嫌がらせをしているとか。私も話を聞いて調べてみたのですが何故そんな事をしているのか分かりませんでした。ダントさんに心当たりはありませんか?」


カインさんには既にダントさんに心当たりがありそうだと伝えてある。ダントさんはカインさんの言葉に暫く黙っていたが扉の方を見た後カインさんに質問する。


「その前にカイン様に質問があります。カイン様は本当にお父上である男爵様と敵対する覚悟はお持ちですか?私は本当なら黙っているつもりでした。ですが、カイン様が力を貸してくれると聞きカイン様に会ってから決めようと思いました。心当たりはあります。ですが、カイン様に覚悟がないのでしたら何も聞かず出ていって下さい。その時は、私も孤児を連れて街を出ます。」


そう言ってカインさんを見つめるダントさん。アンナは街を出るというのが初耳らしく驚いている。


「すまないアンナ。君がケント君と街を出ると聞いて君に教えるつもりはなかったんだ。君が知れば心配させるだけだからね。」


そう言ってアンナの頭を撫でるダントさんは父親の様だ。カインさんはその様子を黙って見ている。フォンさんは先程から一切喋らないがカインさんに全て任せて事の成り行きを見ている。


「私は確かにザコタ男爵の息子ですが、あの男を父親だと思った事はありません。私は父の愛人の息子です。ですが、本妻との間に子供が出来なかったあの男が一応の後継者とする為にこの街に来る少し前に呼ばれました。先程も言った通り、あの男を父親だとは思っておりません。ですから、敵対する事になっても構いません。既に覚悟は出来ています。」


カインさんはそう言ってダントさんを真っ直ぐ見る。やがて、ダントさんが頷いて話を始めた。


「わかりました。それでは話しましょう。心当たりというのは孤児院にいる子供の事です。私はその子を男爵から匿っています。」


孤児院の子供。そう言われて真っ先に思い浮かべたのはダントさんにしかなつかないという謎の子供。結局、今まで会った事はない。


「子供ですか?」


カインさんも子供が原因だと言われて困惑した様子だ。


「はい。名前はリマ。彼女の父親は冒険者で私の友人でした。父親が依頼の最中に亡くなり残された家族の面倒を私が見ようと少し前にラースの街から呼びました。ですが、ランドに来る途中で事件に巻き込まれ母親が死にリマは1人残されました。」


ラースの街は、確かこのフラー公国にあるもう一つの街の名だったはず。


「リマは母親を殺した相手の中に男爵がいたのを見ています。その時、男爵は麻薬の取引をしていたそうです。男爵は目撃者を残したのでは麻薬の事がバレる思って今もリマを探しています。」


思ったより深刻な話だ。男爵が孤児院を狙っているのはリマって子がいるとバレているからか?


「その話に証拠はあるのか?あんたが直接見た訳じゃないんだろう?別に疑う訳じゃないが子供の言うことだ、人違いという事もあるだろ?」


今まで黙っていたフォンさんがそう言ってダントさんに問いかける。


「勿論です。これは、リマの母親が犯人から奪った指輪です。指輪には男爵家の家紋が入っています。私はリマが嘘を言っているとは思えない。」


ダントさんはそう言って指輪をカインさんに差し出す。


「間違いない。これはあの男が着けていた指輪だ。少し前に無くしたと言って新しいのを作らせていたし、元々あの男がこの街に来たのは麻薬に関わりがあると公都の審議会で疑われたからだ。その時は確実な証拠もなく男爵へと落とされただけだったが。まさか本当だったとは。」


カインさんはそう言って指輪を返す。カインさんの表情から怒りを必死に抑えているのが分かった。

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夢だと思ったら精神だけが異世界に来ているそうです! マサツカ @masatsuka

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