《孤児院》

アンナに修行の話をした後、俺の話を聞いたアンナは何かを考えている。すると、


「ねぇ、その"次元転移ワープ"って使ってみたの?」


期待した表情でそう聞いてきた。そりゃ気になるよな。でも、


「ああ。でも、使ってはみたけど何も起こらなかった。何か条件があるのか、単純に俺の魔力が足りてないのか。そもそも、もしかしたら本当はそんな魔法はないのかもしれない。俺にもボイナにも分からなかった。サポーターに聞いても世界樹の記憶に"次元転移ワープ"が使われた形跡はないらしい。」


そう。使えなかった。俺がそう言うと、


「でも、ボイナさんは聞いた事があったんだよね?なら、誰か使ってた人がいたって事じゃないの?」


それは俺もボイナに聞いた。


「ああ。でも、ボイナは聞いた事があるだけで実際に使ってる奴を見た事はないらしい。それに、その魔法を聞いたのも大昔に一度だけらしいしな。」


「そう。」


俺がそう答えるとアンナは一言だけ呟き、黙ってしまう。期待させといて悪いが何も分からなかったんだ。でも、


「アルティアに聞けば何か分かるかもしれないけどな。」


ボイナもアルティアに聞くのが一番確実だと言っていた。俺がそう言うと、


「アルティアに?」


そう聞き返してくるアンナ。


「ああ。ボイナによるとアルティア達は原因を調べるために頻繁に地上に降りてきているらしい。どこかで会うことが出来れば聞くことが出来ると思う。」


そう伝えると、


「じゃあ、アルティアを探すの?何処にいるか知ってるの?」


そう聞いてきた。


「いや。でも何か頼むことがあるかもって言われたから会うことは出来ると思う。いつになるかは分からないけど。それに地上に降りてきているなら、大陸を移動してれば偶然会える可能性も少しだけどあると思う。」


だけど、


「でも、一応言っておくが俺の優先は"次元転移ワープ"が使える様になる事じゃないからな?」


俺の目的は姫華姉さんを探すこと。"次元転移ワープ"自体の優先度は俺の中じゃ低い。そう言うと、


「じゃあ、どうするの?これから。」


そう聞いてきた。


「まあ、その話は後にしよう。大丈夫。やることは決めてあるから。今は下に降りて朝食を食べる。昨日の夜から何も食べてないしな。腹減ってるだろ?」


そう聞くと、アンナのお腹が丁度鳴った。


「う、うん。」


恥ずかしそうにお腹を押さえるアンナを連れて俺は下に降りた。




二人で朝食を食べ、これからの事を話し合う為に俺達は部屋に戻って来た。


「それで?これからどうするの?」


部屋に戻った後、後で話すと言った為アンナが聞いてきた。


「まず、姫華姉さんを探す。これが一番の目的。次が他の大陸に移動して他の転移者を探す。これは姫華姉さんを知ってないか聞くため。もし、誰も知らなければ、アルティアが言ったように事態を引き起こした何かが関係してるって事になる。」


他にも転移者が困った事になってたら協力するつもりだ。俺達みたいに家族がいるなら、心配しているはずだ。その人達の為にもこの世界で死なせたくはない。


「次が事態を引き起こした何かを調べる。アルティア達が探して原因が分かるならそれでいい。でも、黙って待ってるつもりはない。最後が"次元転移ワープ"を使えない理由を探す。」


俺はアンナにそう伝え、まずは孤児院に行こうと提案した。


「何で孤児院に?」


すると、不思議そうな顔でそう聞いてきた。こいつ孤児院の事、忘れてるよ。


「アンナは孤児院の為にお金を稼ごうと思ったんだろ?もう少しで街を離れる。なら、先に孤児院の方の問題をどうにかしないと気になって仕方ないだろ?」


俺がそう言うと、アンナは完全に忘れていたようで、


「ああ!ヤバイよ。10日以上も戻ってないから絶対、心配かけれてるよ!早く帰んないと。」


急に叫び、慌てている。


「じゃあ、一度孤児院の方に行くか。」


こうして、俺はアンナの案内のもと、孤児院に向かった。


「ここが私がお世話になってる孤児院よ!」


孤児院に着くとアンナが両手を広げて自慢するように言ってくる。でも、


「こりゃ、かなりボロボロだな。」


壁の表面や屋根の瓦が所々剥がれている。運営が厳しいってのは確かなんだろう。俺がそう言うと、


「確かに表から見たらそうだけど中は綺麗になってるわよ?それにダントさんが補修も行ってるし。」


アンナがそう言ってくる。なら、まずは中に入るか。そう思っていると中から言い争いが聞こえてくる。


「いいから、この場所から出ていけば良いんだよ!じゃねぇと痛い目をみんぞ?ガキ共がどうなってもいいのか?」


「黙れ。何と言われようと孤児院を辞めるつもりはない。ここは子供達の為の場所だ。さっさと出ていけ。」


そんな声が中から聞こえてくる。


「ちっ。いいか?明日も来るからな!何度でもだ。」


そう言いながら男達が出てくる。その後ろを箒を持った男性が追い立てている。


「何か見たことある気がするなあいつ等。」


中から出てきた男達に何故か見覚えがある。何処かで会ったっけ?俺がそんな事を考えていると、


「ダントさん!」


アンナが男性の方へと駆け寄る。


「アンナ。無事だったのか!全然戻って来ないから心配したぞ。」


男性はアンナに気付くと驚いている。どうやら戻って来ないから心配してたようだ。彼がダントって人らしい。


俺が孤児院の門からアンナとダントさんが話しているのを見ていると男達が近づいてくる。ガラの悪そうな奴等だ。やはり、何処かで見たことがある。俺が男達を見ていると、


「あ!」


先頭の男が俺に気が付き立ち止まり驚いている。男が驚いていると他の奴等も俺に気が付き、


「な、何でこいつが此処に!」「お、おい。早く行こうぜ。」


そんな事を言っている。どうやら、俺の事を知ってるようだ。だが、俺の方はというと、


「誰?何処かで会ったっけ?」


何処かで会った気はするが全然思い出せない。すると、俺が覚えてない事に気がついた男達は、


「い、いや。何でもねぇ。気のせいだった。」


そう言って隣を通り抜けて去って行った。俺が去って行く男達を見ていると、


「ケント!こっちに来なよ。」


アンナが俺の事を呼んでいる。俺が二人に近づくとダントさんの方が、


「アンナ。こちらの少年は?獣人族のようだが何かあったのか?」


俺を見て、アンナに心配そうに聞いている。う~ん。この人の反応的に獣人族を嫌ってる感じはないけど少し警戒している気がする。俺の事を聞かれたアンナは、


「ああ。彼はケント。依頼中に助けてくれたの。」


そう答えている。アンナがそう答えるとダントさんの方も警戒を解いてくれた。


「どうぞ。ここで話すのもなんだから中に入ろう。」


ダントさんが中に入れてくれる。中はアンナが言ったように綺麗になっている。俺が中に入ると奥の方の部屋のドアの隙間から誰かが俺を見ている。その誰かは俺と目が会うと部屋に引っ込んでしまった。


「あの子は最近来た子でまだダントさんにしか懐いてないのよ」


俺の様子を見ていたアンナがそう教えてくれる。そのままリビングに案内されると数人の子供達がいる。子供達の方は見知らぬ俺に怖がっているようだ。


「子供の数が意外と少ないんですね?」


俺がそう聞くと、


「ああ。うちは俺1人しか居なかったから一度に面倒みれる子も限られるんだ。まあ、今はアンナがいるから楽になったがね。」


ダントさんがそう答えてくれる。俺とダントさんが話していると、


「それで、ダントさん。さっきの人達は何だったの?」


アンナが先程の事を聞く。するとダントさんは困ったような顔で話始める。


「あの男達はスラムのチンピラで私達に此処から出ていけと言って来たんだ。何が目的なのかは知らないが私が断ると毎日のように嫌がらせに来ている。それがアンナが依頼に出て、すぐの事だよ。」


ダントさんの話を聞いてると1つ思い足した。あいつ等、前にハンナに絡んでた奴等だ。通りで見覚えがあったわけだ

「心当たりは何かないの?」


俺が男達の事を思い出していると、アンナが何か心当たりがないのか、ダントさんに聞いている。


「いや、何もないな。街の人たちとは上手くやっていたし、スラムの人達だって子供達には優しくしていた。急にあんな事を言ってくる理由が分からない。」


ダントさんの話を聞いてると1つ気になった。


「孤児院の運営が厳しいって聞いたけど、それは?アンナの話を聞いた限りだと最近の事だと思ったんだけど?」


俺がそう聞くと、


「その事を聞いたのか。別に関係はないと思うぞ。ここの運営には街からも援助が出ているんだが、最近その援助の額が半分になったんだ。初めての事じゃないし関係はないと思う。」


ダントさんは少し考えた後、そう答えてくれる。う~ん。少しだけ金を渡したら出ていくつもりだったんだけど、そうもいかないよな?アンナが心配そうにしているし。よし!決めた!


「あのチンピラ達に直接聞きましょう!」


俺がそう言うと二人は驚いた顔で固まった。

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