宝具144;『爆弾』

【宝具144 レポート】


〇分類:『品物』

〇呼称:『爆弾』


〇説明(暫定)

 外道院げどういん博士によって作られたと思われるプラスチック製の時限爆弾と、不定期的に爆弾に接続された形で出現する付属部品等。

 爆弾の表面には必ず『INTERACTIVE』と書かれたプレートが埋め込まれている。プレートの形状およびサイズは、リセット毎の爆弾の形状に合った形で毎回変化する。

 特殊な結界で守られており、現在まで銃火器や神業を用いての破壊の試みは全て失敗している。

 爆弾は、出現から6時間後、解除の成功または失敗に関わらず、必ず次元発火装置がリセットされた状態で元の出現位置に再出現する。

 現在、451回の再出現が確認されている。



 宝具の無力化に協力してくれている、『宝多財団』理事・宝多秋秀たからだ あきひでさんは、異様にハキハキと元気よく、『爆弾』についての現段階でのレポートを読み上げる。

 私は、彼の外見に完全に気圧されてしまっていた。

 いや、人を見た目で判断してはいけないということくらい分かっている。分かっているけども、これは、「何をしたら、何をされたらこうなるんだ」と思わざるを得ない。

 まず右目から角が生えている。サイの角みたいに、ぶっとく、ぐりんと曲がって先っぽが天を向いている。

 次にしっぽが生えている。それも三本。サル、リス、トカゲみたいなしっぽが、一本ずつ。

 それ以外は全く普通だ。いかにも本業であるIT社長らしい、清潔なスーツと端正な顔立ち。こういうの、塩顔って言うんだっけ。


 ……ダメだダメだ、今は宝具。『爆弾』に集中しなくちゃ。


 リリさんの簡単な説明の後、『爆弾』を隔離するための敷地内に入った私たちは、既に中で爆弾解除の指揮にあたっていた宝多さんと挨拶を交わし、詳細な説明を受けた。

 現在、爆弾は解除されて沈静状態にあり、次にリセットが行われるのは約30分後らしい。私たちのやるべきことは、次のリセット後、リリさんと宝多さんが爆弾の解除にあたっている間に、爆弾の製造者である外道院博士を見つけ出して無力化の方法を聞き出すこと。


「ここまでで何か質問はあるかね」

「はい」


 手を挙げた私ににっこり微笑み、角を撫でながら「何だろうか」と応える宝多さん。


「その、爆弾を製作したのが外道院博士という人物で、無力化の方法を探さなくてはならないのは分かったのですが……何か、捜索にあたっての手がかりとかはあるのですか?」

「うむ、いい質問だ、素晴らしい、美しい!」

「…………」

「……彼はいつもこんな感じです。気にしないでくれたまえ」


 リリさんが呆れ顔で前足をかく。


外道院げどういんみさこ。私の生涯の親友であり悪友であり宿敵だ。彼女の生み出す宝具の数々は美しく、美しく、美しく、然らば美しいッ!! ベァウティホォ!!」

「宝多くん……かなかなはそういうこと聞きたいんじゃないと思うな……」

「おっとっと。申し訳ないねぇ、どうも、みさこと宝具の話になってしまうと! こうッ! エクスタッスィーーーーがッ!! 高まってしまうのでねッ!!」


 へ……変態だ……。

 どうやら彼は、正義感などで宝具の収容に取り組んでいる訳ではなく、あくまでも宝具を美術品のようなものと考え、『コレクション』しているようだ。


「いいから早く説明してやりなさい宝多くん」

「黙れ。美しい女性以外に指図されるいわれはない。去勢しているとはいえキサマはケガれた『野郎』なのだからな、身の程をわきま」

「宝多くん、かなかなが困ってるからさ……」

「あぁッ、すまないねマヤンさん! うむ! それでは神奈子さんの質問に答えようではないッか!」


 そして男には極端に冷たいらしい。一刻も早く今回の仕事を終わらせて帰りたいと思った。

 宝多さんは自分の手の上にワームホールのようなものを出現させると、その中からヒラリと一枚の写真を飛び出させ、器用にキャッチしてみせた。

 被写体は……パンクロック風の衣服の上に白衣を着た、やたらと髪の長い女性だ。彼女が外道院博士なのだろう。


「みさこは、2ヶ月に1度くらいのペースで自宅兼研究所を転々と変えている。おそらく都内からは出ていないと思うが、一週間前に新宿地下研究所を手放したあとの行方は不明だ」

「なるほど……地道に探すしかないんですね」

「いや、そうでもないぞ! 安心したまえ神奈子さん、私は麗しきレディーに無意味な無駄足を無造作に踏ませることはないのだッ!!」


 ……『無造作』って、今、言う意味あった?

 さっきと同じ要領で、宝多さんは地図と赤ペンを取り出し、ちゃっちゃっとマークをつけていく。


「これは、今までのみさこの研究所の住所を、分かる限り書き記したものだ。これを見れば分かる通り、彼女は必ず、注文して5分以内にデリバリーピザが届く範囲にしか生活拠点を置かないのだ」

「ぴ、ぴざ。ですか……」

「あぁ! じつにケュゥーート! だなッ!!」

「全く馬鹿らしい話だがこれは事実だ。以前彼女を天秤座で拘束した際、丸一日ピザを食べられなかったというのを苦にノイローゼ状態になった事がある。それほど彼女はピザ依存性なのです」

「マヤもピザ食べたくなってきたよ〜」


 どうやらタチの悪い冗談ではないらしい。


「では……都内の宅配ピザ屋さんからバイクで5分程度の範囲内を捜索すればいいということですね?」

「エィグッズァクトァルルィ! 素晴らしく、美しい理解力ッ!! 光あれ!」

「そうと決まれば……」


 リリさんの眼が、一瞬、金色に光ったように見えた。

 リリさんは大きくジャンプし、宝多さんの手から地図と赤ペンをひったくると、迷いなき動作で地図に円形を書いていく。


「ピザデリバリーの平均的速度、道の混み具合、その他諸々を計算し、捜索範囲を算出しました。これを元に捜索を行ってもらう」

「……犬っころ……不愉快だから出しゃばらないでもらえるかなァ……君が神業を見せびらかしたいのは分かったからさァ……!!」

「た、宝多……さん……?」


 ビキビキと、彼の額に青筋が浮かび、角が真っ赤にドクドク脈打って膨張する。


「あぁッ!! いや! すまない! レディーの前では怒りを抑えたいんだけど私はプライドがめちゃくちゃ高いから正直マジでブチキレそうになっているッ!! ホントに殺したい、今すぐ! 今が宝具関係ない状況なら絶対迷いなく殺してるのにッ!! 神業とか使わずに刃こぼれしたバタフライナイフとかでズタズタにして剥いだ皮を細切れになるまで踏みつけたいッ!! ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ーーーーッ!!」


 頭を抱えてうずくまり、床をガンガンと拳で殴りつけながら罵声と絶叫を繰り返す。床にはすでに拳の血が滲んでしまっている。

 リリさんもマヤンちゃんも、特にそれを意に介した様子もなく、地図を見ながら相談を進めている。

 これが成神の世界観なのか。本当に帰りたい。


「じゃあかなかな、この地図スマホに送っておいたから。写真見るくらいならできるよね? 手分けして街を捜索しよっか」

「はい……」

「ん、どしたの? 元気ないない?」

「元気あるある。でもこれ以上元気ないないになる前に早く捜索に出ましょうか」



「さて、本日もお昼の時間を拝借。『ドクター・ラッシュアワー』、司会の守屋デージンです!」

「いつものレギュラーメンバーに加えて本日のゲスト、近頃マジックだけでなく演技の才能も開花させているとウワサ! 『白手はくしゅの魔術師』といえばこの人〜!」

「どうも、プロフェッサー・ビンゴと申します!」


 挨拶ついでに手に持っていたハンカチを燃やし、バラの花束に変えたビンゴに、観客や共演者たちが歓声をあげる。

 ビンゴ、こうして見るとやっぱ『芸能人』なんだよなぁ。

 OKAZも、今は他局で行われる特番の歌番組に向けてリハーサルに出ているらしいし。


「…………」


 信号待ち。

 カーナビに映し出される成神たちの姿を見て、俺は溜め息を吐き、さっきあのクソ犬に言われた言葉を反芻していた。

 俺はただの人間で、こいつらは成神で……。

 十分に分かっていたはずなのに。一日二日、行動を共にしただけで、俺は彼らを近しく感じてしまっていた。

 信号が青に。俺は気だるくアクセルを踏む。


(このあたりのパチ屋は……)


 気分が上がらない時はパチンコを打つに限る。いっそ経費として天秤座に請求してやろうか。

 カーナビをチラ見しつつ、空いた国道を走ること数分。また信号に引っかかる。ヤニの箱に手を伸ばそうとして、何となく、違和感に気付く。

 交差点を歩きながら、こちらに手を振る人影。


「……芳賀さん?」

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