タカラバコ怪盗団 ②
ハンドパワーのビームとロケットパンチの同時攻撃で壁に叩きつけられて気絶したルイスを見やり、ビンゴはひどく疲れたように首の裏をさする。
「いやぁ、激戦だったね。まさか彼の神業である『超絶商品紹介』が、日本の市場で流通している手のひらに収まるサイズのものなら何でもその場で取り寄せることの出来る能力だったなんて。いやぁ手強かった」
「……白々しいぞ」
てか、最初からこうしてればよかったんじゃないか?
どこからか取り出した荒縄で、気絶したルイスをぐるぐる巻きにするビンゴ。特に、いつでも神業を発動できる両手は、何も出せないようきっちり恋人繋ぎの形で縛り上げる。
「力比べなら、こうなるのは分かりきってるじゃないか。だから、話し合いで解決したかったんだけどな。
……って、こんな風に思うのは、ぼくの油断、高慢……なのだろうか」
「……さぁな。成神の事情は一般人にはわからんよ」
「すまない、無駄話をしたね。今は早く2人の元に急ごう」
OKAZがいるから大丈夫だとは思うが……委員長、無事でいてくれよ。
#
「10円
「いい加減に降参してくださいよ」
音の膜を張り、Matthewの小銭弾幕を撃ち落とす。
発動速度も弾速も威力もこちらが上だ。成神の力は知名度や実績などによって決まる。自分で言うのもアレだが、登録者50万そこらの彼らと楽曲ミリオンヒットを連発している俺とでは、勝負になるはずもない。
肩で息をするMatthewに、俺は嘆息しつつ、音圧弾を打ち込む。
とりあえず、そろそろ動きを封じないとだるいので、両足の膝あたりを狙う。二弾とも命中、Matthewはその場にうつ伏せに倒れた。
「ぐァッ……!」
「すみませんね。弱いものいじめは嫌いなんですけど……二度と供え箱を狙おうなんて考えねーように、痛めつけなきゃいけない決まりなんだ」
わざと恐怖感を煽るように、ギターの首の方を持ち、振りかぶった姿勢のまま彼の方へとゆっくり歩く。
まぁもちろん、大事な商売道具であるギターを鈍器なんかに使うわけはないが。威圧して怖がらせるには十分だろう。
「ひッ……!」
「やらせないッ!!」
と、そこに、ローリングが割って入る。
彼女は手に持ったアイブロウを大きな刀のような形に変形させて構えた。
「ローリング! 逃げロって言っただロ!!」
「仲間が酷い目に遭わされそうになってんのに、逃げれるわけなくね!?」
「……やれやれ。どっちが悪役なのか分かんねーな、これじゃ」
俺は嘆息し頭を搔く。
彼らも、話を聞いている限りおそらくはタカマガハラの上位成神に利用されているだけっぽいし。
だが、どんな事情があるとはいえ、人々の思い出の詰まった場所を消滅させるようなことはあってはならない。世の中には知らないで済まされないこともあるのだ。
その点、俺はアツとは違って油断したりはしない。慈悲もかけない。数歩後ろに下がり、距離をとってギターを構える。
「君らはもう話し合いの道を放棄したんだ。そしたらあとは戦争しかない……来な」
「…………!!」
俺の安い凄みに気圧されてくれたのか、ローリングは全身を小さく震わせ、半歩後ずさる。
だが次の瞬間、カッと目を見開き、アイブロウの剣を放り投げ、コスメポーチから新たに口紅を取り出し、自分の頭上に放り投げた。
「『
そして指で銃の形を作ると、間髪入れずに『バン』と撃つ。指の動きに連動して、口紅が弾丸のように撃ち出され、迫ってくる。
「飛び道具大好きだな、君ら!!」
Matthewの小銭弾と同じように、ギターから音圧弾を放ち相殺しようとする。
だが……。
「おいっ!?」
「……見る者を惑わす魅惑のリップ。一度限りの幻に溺れろ!」
寸分の狂いもなく命中したはずの音圧弾は空を切り、そのままあらぬ方向へ飛びパチンコ台を破壊した。
口紅弾は依然こちらに向かってきている。弾速が遅いとはいえ、着弾までに新たな弾を撃ち出すことはできない!
「くっ、俺も油断したか……!」
着弾。大きな爆発音と共に、目の前が真っ赤に染まる……。
#
「なんだ!?」
「でけぇ音が……あっちだ!」
ビンゴと共に委員長たちとの合流を目指している最中、何かが爆発したような大きな音がフロアに響き渡った。
どうやら今、派手な戦闘状況にあるようだ。いくらOKAZがいるとはいえ、早く駆けつけないとまずいかもしれない。
「急ぐぞ!」
音のした方角に向けて走り出す。
ローリングの罠みたいなものが仕掛けられている可能性があるため、ビンゴのハンドパワーで作った明かりで足元を確認しながらの全力疾走。
時々パチンコ玉などに足を取られながら走っていると、突然、軽い落とし穴にでもハマったように足がガクンとさがった。
「うっ!?」
「どうした椎橋さん、大丈夫か!?」
「あ、あぁ……何かここの床が……」
ライトで足元を照らす。よく目を凝らさないと見えないが、俺の踏んだタイルには、『ゴーゴー!』とスロットでお馴染み例のランプの絵が書かれていた。
「何かの罠か……?」
「いや、これは罠じゃないと思う。上手く言えないが、これはパチスロで有名なシンボルなんだ」
「……じゃあ、この場所の歪みが作り出したギミックってことかな」
などと話していると、前方突き当たりから赤い怪しげな光が覗きだす。
道を塞いでいたパチンコ台が横にスライドし、その先の、見知らぬ機械で満たされた部屋が姿を現す。
「この部屋は……まさか」
#
「私には、『シールド』が出来る」
加速でOKAZさんの隣に立つまで走り、その場で手を伸ばして、目の前に透明な壁を作るイメージを具現化する。
口紅弾は『ぐにゅ』と音を立ててひしゃげると、まるっきり勢いを失い、その場に墜落して爆発した。目の前が口紅弾の爆風で真っ赤に染まる。
爆煙が開けると、完全にOKAZさんにダメージを与えられたと思っていたローリングさんが、Matthewさんを担いで逃げようとしているところだった。私たちが立っているのを見たローリングさんの目が見開かれる。
「嘘!? なんで!」
「遅くなってすみません、OKAZさん」
「助かりました。ホント、昨日覚醒したばかりとは思えない使いこなしぶりですね」
OKAZさんはギターを構え直すと、一度激しく叩きつけるように全ての弦を弾き、キッ、とローリングさんたちを
「完全に油断してましたよ、危うくペースを乱されるところだった……でも、もうお終いだ」
Matthewさんを担いだローリングさんが、逃げ出そうと下への階段に向かう道へ走り出す。
しかし……。
「きゃあああ!?」
彼らは、突如として地面から生えだした太いツタによって拘束されてしまう。
その下の床には、私が描いたクエスチョンマーク。ここに駆けつけるまでの加速中、ついでに仕掛けておいたのだ。
「私には、『仕返し』が出来る」
「恐ろしい子。敵に回っていたら、なんて考えたくもないですね」
昔、死ぬ前におばあちゃんの家で、消えたばかりのアナログテレビを触った時のようなパリパリとした感覚が頬を撫ぜる。
ギターを核として、OKAZさんの体全体から、白く、尖った、オーラのようなものが溢れだしている。
「神業『
ギターから放たれた無数の音圧弾がOKAZさんの頭上で重なり合い、蒼い三日月のような形をしたナタを背負った魔神が姿を現す。
魔神はナタを振りかぶりながら、獲物を仕留めるべく機敏な動きで地を這う蛇のように、颯爽とローリングさんたちに近付き……
「アンコールは受け付けません。これっきりで終わりですから」
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