タカラバコ怪盗団 ①

「び、ビンゴ……さん、OKAZさん。あんたらももしかしてタカマガハラのメンバーなんすか!? えっと、俺らもタカマガハラから頼まれてここ来てんすけど……」

「……ふむ。話し合いが通じる相手で安心したよ」


 明確に相手を敵だと認識している俺たちと違い、ルイスたちは困惑しきっている。天秤座の存在を知らないようだ。

 いきなりの有名人たちの登場に戸惑い隙だらけの彼らを、ビンゴが例の技で拘束する。


「なっ……金縛り!?」

「う、ご、けナイ……!」

「神業『ハンド&パワー』、トリックのひとつ、『拘束パーム』。申し訳ないがこのまま話を続けさせてもらうよ」

「ぼ、ボーリョク反対! 成神がこんなことしていーと思ってんのか! ガチめに炎上させっぞ、炎上炎上炎じょっ……!」

「そ、そっちの彼はわんぱく過ぎるから黙っていてもらおうかな……」


 ルイスTV……何回か動画を見たことがあるが、普段から動画並のうるささなんだな。


「君たちは今の状況が一切理解出来ていないだろう。簡単に説明すると、ぼくたちは君たちタカマガハラがやろうとしている『タカラバコ』とやらの収集を阻止する者だ」

「あんたらもタカラバコ狙ってるって事?」

「それは違いますね」

「あぁ。ぼくらは、タカラバコをそのまま、この土地に留めておきたいだけだ」

「そのまま留めル……?」


 モゴモゴと口を動かし続けているルイスが話を聞いているかは分からないが、ローリングとMatthewは大人しく話に応じてくれている。

 このまま何事もなく、話し合いで解決できればいいのだが。


「タカラバコ……ぼくたちは備え箱と呼んでいるのだけど。それを持ち出したり破壊したりしてしまうと、ここみたいな消えかかった土地は、完全に消滅してしまうんだ」

「嘘だ、龍神さんたちはそんなこと……!」

「ローリング! メンバーの名前をバラしちゃ駄目ダ!」

「本当に何も聞かされていないらしいな」

「……君たちが大人しくタカラバコを狙うのを諦めてくれれば、こちらからは何もしません。命令に背いたことによってタカマガハラから身の安全を脅かされるようなことがあれば我々が保護しましょう」


 成神どうしのやりとりに一般人が口を挟んだりはできないが……詐欺師である俺の目から見て、これはまずい状況だ。

 はたから見れば交渉は進んでいるように見えるが、ローリングたちの話しぶりからして、彼らのタカマガハラへの忠誠心は、ビンゴたちが思っているよりも強い。彼らがタカマガハラから切り捨てられることを前提としたようなOKAZの話しぶりも、悪手に思える。

 なんとか交渉役を代わりたいが……成神相手に出しゃばれず、俺はもどかしさを抱えたまま、黙ってライト代わりのスマホを持つ手に力を込める。


「……分かっタ。とりあえずこの土地のタカラバコは諦めるヨ。だから、金縛りを解いてもらえないカナ」

「どうする、アツ」

「時任さんの解放が先だ、このツタを引っ込めてもらおう」


 そう言って、ビンゴが意識を委員長の方に向けた、一瞬の隙。


「今ッ!!」


 Matthewの口から、が吐き出される。いや……吐き出す、というよりかは、射出される。

 俺の目にも追える、素早い虫くらいの弾速で飛んでいるそれは……。


「金!?」


 1000円札、10円玉、100円玉、1万円札。金額はバラバラだが、金だ。金が宙を舞い、こちらに迫ってきている。


「チッ……油断しすぎなんだよ!」


 OKAZがどこからともなく真っ青なギターを取り出し、掻き鳴らす。

 ギターから飛び出したいくつもの蒼い音圧の弾丸があらゆる方向に飛び、通貨の弾丸を相殺する。

 が……。


「一弾撃ち漏らした!」

「くっ……やむを得ないか!」


 ビンゴが3人の拘束を解除し、ハンドパワーを俺たちの身を守るために巨大化し、壁を作らせる。

 その間に、ローリングとMatthewはかなり遠くまで距離を取ってしまった。おそらくあの距離では、ビンゴの拘束は使えない。

 しかし、ルイスも距離は取るものの、他の2人のように逃げる姿勢は見せず、こちらを睨みつけるように直立したままだ。


「何やってんだ! 早く逃げるよ!」

「タカラバコ持たずに帰れるワケなくね!? 俺がこいつら食い止めっから、おめーらはさっさとタカラバコ探してきな!」

「っ……ローリング! 行くヨ!」

「死ぬなよなッ、カッコつけてるけどダセーから、てめー!」

「いやダサくはなくね!? てか、あんまり持たんからね! 早く探してね! マジで!」


 2人が逃走し、俺たちとルイスだけがその場に残る。


「カズ! 追え!」

「行かせるかよ! この俺、タカラバコ怪盗団リーダーのルイスTV様が立ちはだかる限り、何人たりともここは通さん!」


 と、長い口上をしている間に、OKAZは音圧の波のようなものを創り出し、それに乗ってルイスの頭上を飛んで過ぎ去ってしまった。


「……一人は通したがこれ以上は通さん!!」

「愉快な人だね。敵どうしでなければよかったんだが……」

「そうやって余裕ぶってられンのも今のうちなンだわ! いくらビンゴ相手とはいえ、動けねー奴と一般人を2人も抱えてる状態ならヨユーなンだわ!」

「く……」


 それを言われては痛い。初仕事から足を引っ張ってしまっているな。

 ビンゴも、ハンドパワーの片方を俺たちの方に寄せ、舌打ちして少し後ずさりする。


「……少なくとも、私の心配はいりません」

「えっ?」

「おいおい強がんなって! そんなギチギチにツタで縛られた状態で戦えるワケ」

「私には、『ぬるぬる』出来る」


 ……ぬるぬる?

 と、違和感を感じる暇もなく、委員長の体の表面に『ぬるぬる』が発生する。ローションか何かだろうか。

 そのぬるぬるが、体とツタの接着面の摩擦を極限まで消し、委員長はつるつると滑って膝立ちの姿勢で床に着地した。


「私には、『リフレッシュ』が出来る」


 そして、不要になったぬるぬるをリフレッシュで消去し……鋭い目で、ルイスを睨んだ。


「一般人1人に、成神2人。……どうです?」

「フン、どうって? ……マジでチビりそうって感じ」


 顔だけは格好つけたキメ顔のまま、膝がガクガク震え出すルイス。

 戦闘態勢に入る委員長だが、ビンゴは小さく首を横に降り、OKAZの向かった方を指さした。


「ここは俺に任せてくれ。時任さんはOKAZと共に向こう2人の追跡を。椎橋さんはどこかに隠れてくれ」

「は……はい!」


 委員長は一瞬で消えた。『加速』を使ったのだろう。


「待てよ。隠れろって、俺だって隠れたいのは山々だが、ライトなしで大丈夫なのか?」

「あぁ。まぁ、音を出して目立っても構わないなら、俺も一応明かりを用意することは出来るからね」


 ハンドが、弓を引き絞るように親指と中指を擦り合わせ……パチン!

 銃声の如き破裂音。鼓膜を劈くような指パッチンと共に、ハンドの上にゆらゆらとゆらめく白い炎が発生する。

 真っ暗闇だったこのフロアに明かりが灯り、ルイスの怯えきった顔が照らされる。


点火スポットライト。さぁ始めようか、ルイスくん」

「……じ、じじじ上等だ、てめー。見とけやぁぁ! 大金星とったらァァーー!!」


 ルイスは、自分を奮い立たせるように叫び、臨戦態勢に入った。

 って、成神どうしのやり取りに見入っている場合じゃない。俺は周囲に目をやり、机の上にパチンコ台が2台並んだ場所に走り、身を隠した。


「見せてやる……俺の超☆絶・神がかった神業ッ、『超絶商品紹介』ッ!」

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