#4.コドモとドーピング

「子供のくせに、魔術式をあなどると、こわいわよっ」



 ピーターソン(仮名)は、皮肉気に嗤った。



『コドモ……つごうのいいヒビキ。無力さを暗示するヒビキ。特に非力さを、さらに無能力さを。ボクらは感じる。感じとってる。大人は知らないだけで』


 わざと言ったんだけどさぁ。理不尽?


「なんとなく、理不尽だな」


 するってぇと、自覚はあるのか。つまり、自分が舐められている、という自覚が。


「オイ、丸ダメ星人よ。かわりにほふろうか。おまえの頭をカチ割って。その身をささげよ! 体筋強化!」



 ラピッドソンの腹から、底知れぬパワーを秘めた鬨の声があがった。


 立ち向かっていく姿は、体筋強化のおかげで激しく盛り上がっているけど、がっちり組んだ相手は幼稚園児。



『幼稚園児に……きにくわないな』


「ボクの勝ちだ」


 えらそうに言ってるけど、体筋強化は4分以内に切れるからね。


「むぅううん!」



 体筋強化か。長いなぁ。筋肉増強剤みたいなもんなんだから、ドーピングってことだな。やーい、ドーピングだ。幼稚園児と張り合うのにドーピング。



 と、言う間にピーターソンは倒された。


 むんずと襟首をつかまえられて、1歳男児がつぶやく。



『ざまみろ……』



 天国から地獄へ送られることとなった、無垢だった魂の怨嗟だった。






「ドーピング剤、けっこう高そうだな……治癒術式とどっちが高いか、ナトヅ診療所で聞いてみよぉっと」


「ナトヅ診療所では、治癒術式を使う際に、体筋強化を使用することもある。タネは同じだ……」


「同じか……もうちょっと安くならない?」


「強化系の呪文を唱えれば、お金はいらない」



 大した被害もなく、アンデッドを倒した二人は、ナトヅ診療所とは別方向へ歩いていた。


 車が停めてある。


 とっくにレッカー移動されていてもおかしくないほど、違反マークがついていた。



「んー、高いんだね。強化系って高いの? ナトヅ診療所ではロハにしてくれてるってこと?」


「最大の欠点は、術式が切れたとき、麻酔薬が効いていないということだ」


「そーかそーか。あっ、なるほど。興奮剤と鎮静剤、両方いっぺんには使えないってことか」


「つまりそうだ。片方だけを追求すれば、進化系も使えるかもしれない。無理するな」


 ……そりゃ、そうか。



 彼女は石畳を軽く蹴った。






「ナトヅ診療所だ」


「誰も説明を求めてないし。頭だいじょうぶ?」



 進んでツケを支払うなど、ありえない二人ではあったけれど、ついでにドーピング一式を入手しようと立ち寄った。



「おまえの頭をどうにかしてもらおうではないか」


 ちょっと待ってね。ではないか、と言われても、高知能はなおらないよ?


「大丈夫だ。霊能力は薬物治療できる」


 幻覚かなんかと思わせようってのか。いいなー、すごくいいなー。意味ねーし。



 霊能力あっての仕事だ。



「ドーピングと言ったアレだ。対抗しているのがナトヅ診療所だ」


 勝手に決めんなよ。


「昔、ナトヅが言っていた。なんとなれば、中和してやれば、霊は見えなくなると」


 なるほどね、ということは……。


「丸出し阿呆に言われた、あわれなドーピング野郎の出発は、ここからだということだ」


「ごめんなさいっ」


 知りませんでした! ラピッドソン君が、そんなにドーピングに命かけてたなんてっ。霊能力が時々低下して、シンクロ率下がっていたのはそゆことか! なーんだ、言葉が通じない時があるのも、会話が成立しないのも、そういうことか!

 押すと壊れそうだから、あと、そうとわかれば早く手を切りたいから、さっさと会社へ帰ろうっ。



 彼女はきびすを返して、帰社した。






 END







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霊能企業戦士 水木レナ @rena-rena

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