50 ペンでこっくりさん

※話の中に出るこっくりさんのやり方は

 不確実なところが多数あり

 決して真似されないようお願いします。



ーーー



何度も実話録にでている私の妹。



何かと不思議な体験をしているのは

肝が座った性格と、好奇心が旺盛だから

かもしれません。



妹が中学2年生だった頃。


夏休み中であるものの吹奏楽の部活動があり、

午前だけ練習のため学校に行っておりました。


その帰り道、

当時の仲良し4人組でしゃべっていたところ

このまま部活だけして帰るのは

つまらないという話に。


今は暑くて外で話すのも難しく

だからといってどこかに遊びに行くお金もない。


しばらく考えていると、

小学生の頃から仲の良いAちゃんが

こう切り出しました。



「みんなでこっくりさんしない?」



実は妹とAちゃんは小学生の頃から、

度々お遊びにこっくりさんをしており

その提案にはなんの疑問も抱かず

妹自身も乗り気でした。



ただ、「そんなことしたくない!」と

嫌がる子が一人おり、無理にできない雰囲気になりました。


やりたい子が多い分なんとか誘いたい、

でも無理強いして関係を悪くしたくない、

その葛藤で4人は珍しく黙ってしまったのです。



「そういえばさ、こんなの知ってる?」



児童向けのおまじないの本に

“ペンを使ったこっくりさん”が載っていた

それをやろうじゃないか、と。


普通のこっくりさんと違い

ペンが自動的に文字を書くという面白さ、

用意するのは紙と蓋付きのペンだけ、

五十音も書く必要は無いという気軽さに、

4人の顔が明るくなります。


「初めて知った!」

「そんなのあるんだ。」

「それなら怖くないかも。」


誰が言ったか、その提案にみな賛成し

彼女たちは1番近くにある妹の家に行きました。


部屋につくと早速机の上にA4の紙を

横の辺が長くなるように置き、

上側に“はい (鳥居の絵) いいえ”の

順で書き、

4人は指先だけを使って1本のペンをつまむと、鳥居の上に器用に立たせました。



「なんかドキドキするね。」

「怖くなったらすぐにやめようね。」

「じゃあ、いくよ...。」



4人は声を揃えました。

「こっくりさん、こっくりさん、

 おいでください。」



唱えてから少しして、ペンはゆるゆると動き始めました。


そこから、各々気になることを質問しましたが、ペンはめちゃくちゃな線を描くばかりで、いっこうに意味のある言葉が表れません。



まあ、こんなものだよね、と4人は

笑って顔を見合いました。


「最後になんか聞く?」


そこで妹が口を開きました。


「私のことを好きな人はいますか?」


恋に興味が出始めたお年頃。


気になる人は居ないけれど、

自分に興味を持ってくれている人が

いてくれたら嬉しい...

そんな軽い気持ちでの質問でした。



なのに、ペンは今までとは違い

自分の意思を持ったかのように

動き始めたのです。



「ねえ、誰か動かしてる?」





「う、動かしてない!Aちゃん?」





「私じゃないよ!Bちゃんでしょ?」



「違うよ!」


混乱する4人を置き去りに、

ペンはしっかりと読める文字を書き

そして、ピタッと止まりました。



真っ白な紙には、平仮名で縦書きに、

“しょうへい”と書かれていたのです。



全員がお互いを疑ったのは無理もありません。


しょうへいという名前の子は実在していて

しかも、同じ部活動で管楽器を担当している

大人しい男の子の名前でした。



その時のことを振り返り、

小書き文字の“よ”はちゃんと小さく書かれ

他の平仮名と区別し書かれていたのが

とても気持ち悪かった、と妹は言います。


ただのお遊びという雰囲気は一変し

空気は冷え切りました。



「こっくりさん、お帰りください。」



役目を終えたのか、

ペンは素直に鳥居まで戻り、そして

彼女達の手から離れて倒れたのでした。




同じ部活とはいえ

しょうへいとはあまり接点が無かった妹達。

誰かの仕業だとは思えません。



一体、ペンには何が降りてきたというのでしょうか。






ーーー


【⠀蛇足 】



「それで、そのペンでやるこっくりさんは

 誰がやろうって言い出したの?」


「それが...思い出せないんだよね。」


「いや、それはおかしいよ。

 たった4人だから覚えてるもんでしょ?」


「そうなんだけどね。

 ほんとに分からないの。

 何かの本に載ってた気もするし。」


「じゃあ本を見ながらやったの?」


「いや...そんなことした覚えもない。」


「みんなペンでやるこっくりさんは

 初めて知ったんだよね?

 でも、本が手元にないなら

 誰かが進行役しないと出来ないんじゃ...。」


「たしかに、そうだ...。

 でも、あの時は普通にできたっていうか。」


「そもそも、児童向けの本にそんなの

 載ってるもんなの?」


「言われてみれば...あれ、おかしいな...。」


妹は困惑した顔で言った。


「ペンでこっくりさんやろうって

 言い出したの...誰だっけ。」




おわり





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る