34 初日の出の写真


私が初めて携帯電話を手にしたのは

たしか、小学校5年生になった時

だったと思います。



方向音痴で迷子になりやすいからと

メタリックブルーの子供用携帯を持たされました。



当時の携帯は折り畳み式で分厚く、

ネットには簡単に繋ぐことも出来ないですし、

出来るのはメールと電話と写真撮影

ぐらいでしたが、

当時の私は、

自分だけの精密機械を持てたことに、

跳び跳ねるほど喜んだものでした。



大人であれば仕事などに使いますが、

ただ、迷子のためにと持たされたので、

携帯はただのおもちゃと成り果てていました。



私がお気に入りだったのは

携帯についたカメラです。



そのカメラ機能も性能はそこまで良くなく、

現在のように高画質な写真を撮ることは

出来ませんでしたが、

今見ている光景を切り取って保存出来る

だけで十分でした。



カメラ機能がついた携帯は、

普通のカメラと違い、

写真をメールや赤外線通信で

共有できるので、

友人や家族に写真やイラストを送っては

楽しんでいました。




ある日のこと。




お正月のお祝いにと親戚同士で集まる

機会がありました。



私は母にひっついて、

伯母と一緒に世間話をしていました。



その時に伯母が、

ある写真を見せてくれました。



それは、伯母の知り合いが撮って

送ってくれたという、

I神社の初詣で見た初日の出を

写したものでした。



携帯で撮られたもののため、

縦長の画像なのですが、

上部に輝く太陽があり、

そこから放射状の光が出て、

境内に降り注いでいます。



日章旗のような、帯状の光は幻想的で

思わず見入ってしまいました。




ただ、伯母が見てほしいのは

その美しい日の出だけではないと

言います。



「ほら、見て。ここ、ここ。」

と伯母が写真の左角を指差すと、

「ああ、本当だ!こんなはっきり写るもんなの?」

と驚きました。



気になって写真に寄りますが、

私には何がすごいのか分からず、

首をかしげます。



「分からない?ほら、ここ。女の人がいるでしょう?」


と母に言われ、改めて凝視し、

「あっ!」と仰天しました。


たしかにそこに、女の人がいたのです。


半透明に透けており、

はっきりと見ることはできませんでしたが、

赤い着物を合わせ目を逆にしているのは

分かりました。


両の目を閉じてやや俯いているその顔は

現代的なはっきりとした目鼻立ちでは

ないものの、

面長な面にバランス良く配置された

一重の目と鼻がとても美しかったです。




ただ、その姿はとても薄かったので

光の錯覚でそう見えている、

と言われても納得できるような、

そんな写り方でした。



まだ、半信半疑である私に伯母と母は言います。



「合わせ目が逆の着物だなんて、

 きっと、この人は人じゃないと思う。

 神様かなんかの類いじゃないか。」

「I神社で初日の出と一緒に

 写ったぐらいだから、

 天照大御神かも!」


興奮気味に早口で言ったあと、

2人は揃って私に、

「こんな縁起が良い写真、持っていた方がいいよ。」と写真を受けとれと勧めてきました。



その時にはもう、

「そっか、そんなにすごい写真なのか!」

とその気になり、伯母から赤外線通信で

写真を受けとったのです。



貰った瞬間から、

その写真を気に入った私は、

何か良いことがある気がして、

待受画面に設定しました。



毎日その写真を眺めては、

その女性の美しさに見惚れていました。



ただ、日が経つにつれ、

だんだんとその女性に、

根拠のない恐れを抱くようになりました。



(なんだろう。綺麗なのに怖い。)


そう思うのですが、

縁起が良いはずだと自分に言い聞かせて

1週間は待受画面を変えずにいました。




が、ある日とうとう心が

得たいの知れない恐怖によって悲鳴をあげ、

写真を受け取ってから1ヶ月後、

ようやく待受画面からその写真を外したのでした。





すっかりその存在を忘れていたある日のこと。



急にその写真が見たくなった私は、

保存フォルダを遡りました。


唐突にそんなことをしたのは、

今でも同じように女の人が見えるのか

確かめたい、という好奇心からでした。



何度も十字キーの下を押して、

ようやく写真を見つけました。



あった、あった、と決定キーを押し、

写真を拡大します。



うわ、と全身から血の気がさーっと

引いていきました。




薄かったはずの女性の輪郭が、

より濃く、はっきりとしていたのです。


あの時は見えていなかった髪の毛の流れも

確認できました。



写真が変わったことに驚いて、

まじまじと見ていると、

さらに、ゾッとするものを見つけてしまいます。



閉じていたはずの女性の目が、

薄く開いているのです。


目蓋の隙間から、

感情のない黒目が覗いているのが見えました。



(これはまずい!)



私は、このまま写真を放っておくと、

今に女性が目を開けて、

こちらに何かしてくるかもしれないと思い、

慌てて写真を消しました。



写真を消してからしばらく、

手の震えがおさまりませんでした。





なんだか人に言ってはいけないような気がして

しばらく黙っていたのですが、

3ヶ月ぐらいたったある日、

母に全てを話しました。




それを聞いた母はすこし怪訝な顔をして、

「あんた、あの写真ずっと持ってたの?

 ダメだよ。あんな心霊写真持ってたら。

 何があるか分かんないんだから。

 ただでさえあんたは考え込みやすくて…。」

と叱りつけてきました。




私は訳が分かりませんでした。


何故なら、あの写真を持っておくように

と言ったのは他でもない、

母だったのです。





記憶違いだったのかもしれませんが、

どうも不思議でなりません。



なんにせよ、あのまま写真を持っていたら

どうなっていたのかなと気になるところです。




本当に綺麗な女性だったので、

惜しいことをしたな、と

少し悔やむ気持ちもあります。








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