10 2人いた


20代の頃、友達と行ったキャンプ場で

不気味な体験をしたことを

教えてくださった藤原さん。


彼女が霊を見るようになったのは

幼稚園の頃の体験がきっかけだそうです。


お母さんの隣で寝ていると、

トントンと叩かれ目を覚ましました。

その目の前にあったのは、

少し前に亡くなったはずのおばあちゃんの顔。

今思えばお別れを言いに来た様子でしたが、

幼い頃はその血の気のない顔に恐怖を覚え、

思わずお母さんに抱きついてしまったのです。


それから、何度か見るようになっていったのだとか。



今回のお話は、藤原さんが子供の頃に住んでいたご自宅が舞台です。



「私が昔住んでいた家。

 あそこには家族以外の誰かが住んでいたように思うんです。」



当時、借家の平屋に両親とお姉さんと一緒に住んでいた藤原さん。


そこは養鶏場の近くで家賃が安く、

広くはないけれど、家族4人で住むには不自由ない所でした。


簡単な間取りですが、

玄関を入って目の前が

藤原さんとお姉さん共同の子供部屋、

左手の短い廊下を渡った先に居間と台所、

そのまま居間を進むと隣接した畳のお部屋がある、といった感じです。


子供部屋から見て玄関と居間はそれぞれ

ドア一枚を隔てて繋がっています。

しかし、

子供部屋から玄関へ出るには一段下がる、

居間に行くには一段上がる必要がありました。


また、居間から台所へは2段下がるなど、

段差と部屋の出入り口が多い、

少し間取りが複雑な家だったそうです。



年頃は小学校中学年ぐらいで、

夏の時期でした。


その夜、いつものように

子供部屋の窓側に藤原さんが、

反対の壁側にお姉さんがベッドで寝ていました。

暑さをしのぐために

2人の間、足元に扇風機が稼働しています。





夜中、目が覚めてまだぼんやりとしている

藤原さんを金縛りが襲いました。


意識がはっきりし、事態を把握した頃には

身体が動かせず、声も出せない状態に。


唯一、驚きで見開かれた目だけを動かして、

隣にいる姉に必死に助けを求めますが、

寝入っているのか気づいてもらえません。



どうも出来ず困っていると、

ふと、足元から気配を感じました。


恐る恐る、足元へと目線を動かします。


枕で上がった頭から視線を向ければ、

自分の足とその先に

暑さのためにつけた扇風機が見える。


そのはずでした。





自分の足元に、扇風機を遮るように男の子が立っているのです。


その子は黄色い帽子を被り、

青い園児服を着た背の低い幼い子のようでした。



いないはずの男の子がいるなんて不気味なのに

それをただ見ることしか出来ません。


そして、男の子がただ立っているだけではないことに気がつきます。





パチパチ、と2回手を叩き、

すーっと腕を前に伸ばす。


幼稚園児が整列になる時に行う

手を叩いて前ならえをする動作。



それをずっと、ずーっと繰り返しているのです。




パチパチ、すーっ


パチパチ、すーっ



その機械のように繰り返す男の子に対する

恐怖に怯えながら、

藤原さんは気を失ってしまいました。



気がついた時には、

朝になって金縛りが解けていたのですが

気絶する瞬間まで男の子を見ていたショックは

癒えていませんでした。





さて、そんな体験から年数が経ち

中学1年生になりました。



クラブ活動でへとへとになった彼女は、

晩御飯までの間、自室のベッドで眠ろうとしました。


夕方の心地いい時間と疲れが合わさって、

少しずつまどろんでいきます。




「…っ!」




また、金縛りになってしまったのです。


横向きで寝ている、

その真後ろに誰かの気配が感じられます。



今度はまだ冷静で、

その者に気づかれないよう、

動かずに金縛りが解けるのを待ちました。



早く解けてと願うその耳元。

男の人の声が聞こえてきました。




「お……ま、何でお前は。」




“お”と“ま”の間、何を言っているか聞こえませんが、誰かの名前のように感じられます。


聞こえないのはそこだけで、

その後ははっきりと「何でお前は。」と

聞こえるのです。



それを数回聞くと身体が動けるようになったので、

慌てて家族のいる居間へと転がり込んだのでした。






今、結婚してハイツに移り住んだ藤原さん。

人生の転機を迎え、居住も変わったにも

関わらず、

あの時の住人に悩まされるのです。



夢の中、あの家や周辺の景色の中に

必ずあの男の子が現れる。


自分が立っている所から、

50メートル先に立っている男の子。

こちらに近寄る訳でもなく、

じっとこちらを見つめています。



その子を見つけ

「早く逃げなきゃ!」という恐怖に襲われ

後ずさりし目が覚める、

そんなことが度々あるのだとか。




男の子を見た当時、

気になって近所の方に聞いたところ、

前に子連れの家族が住んでいたが

その後は分からないと言われたそうです。


たしかに、その家の壁には

子供が書いたであろう車の落書きが

残されていました。




「自分が見た子が、その前の住人の子とは限りませんが。」

と話す藤原さん。




まだ幼稚園児であろう幼い子供が今もなお、

その家と共に現れて彼女に伝えたいことはなんなのか。



男の人の叱るような

「何でお前は。」と繰り返す言葉。




あの妙な間取りの家で何かが起こったのではと

考えてしまいます。



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