9 八王子のトンネル


『ネタを仕入れたよ!弟の話なんだけれどさ。』


友人Mからの突然の電話の始まりは

そんな文句からでした。



友人Mの弟さんがずいぶん前に通っていたのは

東京都の八王子にある大学。


大学の寮を借りていたので、

寮生と仲良くなっていたそうです。



私は詳しくないのですが、

弟さんが言うには

東京都八王子というのは心霊スポットが

多い所で

その中でも、Fトンネルというのが

一番危険な所だと。


ここでいうFトンネルは

今使われているFトンネルではなく、

使われていない旧Fトンネル…

よりも更に古い

旧々Fトンネルのことをさします。



血気盛んな大学生がそれを聞いて

「はい。危ないので行きません。」

なんて大人しくなるわけありません。


寮生でそこに行こうと盛り上がるのに

時間はかかりませんでした。



弟さん含めた欠席組以外の男数人で

そのトンネルへと足を運びました。



それは細い山道を通った先にあり、

入り口は鉄格子で封鎖され入れないように

なっていたのです。


その風貌だけでもおどろおどろしい所であります。


そこで引き返すほど弱くはありません。


気味悪がりながらも、

列をなして中へと入りました。

最終尾のAは手にビデオカメラを持って。



最初は「怖い。」「うわぁ。」なんて

言いながらも進めていたのですが、

真ん中にきた時です。


Aは後ろから、

非常に恐ろしいものの気配が

近づいてきていると感じました。


最終尾は自分のはずなのに、

確かに後ろからその何者かの気配を感じます。


「やばい、やばいやばいやばい!

 帰ろう!」


Aは前を歩く友人達に必死で懇願しました。

とにかくやばいから、帰らないとまずいと。

お前がそこまで言うならと来た道を引き返して行きました。


その日は何事もなく帰ることが出来たのです。





さて、その翌日

撮っていたビデオを見ようと

当日行かなかった弟さんやその他の寮生達が

一人の部屋に集まりました。


みんなわくわくしながら録画を再生します。


トンネルの中、暗闇を写すカメラ。

当時の性能ですから、

拾える音は録画していたAの声ぐらい。



『うわぁ。』

『怖い。』


そう、最初はどこか余裕がある雰囲気です。


さて、例の真ん中のあの場所まで来た

シーンになりました。


『やばい…やばい、やばいやばいやばい!』



何も写っていない暗闇、

Aの焦った声だけが響きます。



『やばいやばいやばい!帰ろう!』


『本当に?』





誰の声でしょう。


焦って必死に引き留めるAの

帰ろうという声のあと、

女性の声が入っていました。


その時行ったのは男のみ。

女性の声が入るはずありません。



当日行ったメンバーの顔は青ざめ

口々に「聞こえた?聞こえたよな。」と。


それはそれは大変な騒ぎになったそうです。







性能の悪いカメラ、

撮影者の声ぐらいしか拾えないマイクに

はっきりと入っていた女性の声。



その人はきっと、すぐ側に…。




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