第9話激昂の満月

 その頃黒いバンに乗り込んだ少女・ユリカは、仲間達と一緒にアジトに戻るところだった。

「作戦、失敗ね。」

「申し訳ありません・・・。」

「はあ・・・、まだあんたには早かったのよ。」

 ユリカの隣で李カルラが説教をした、ユリカは何も言わずに俯いている。

「そろそろあの失敗作を殺しておかないと、俺たちのメンツが潰れてしまう。」

 ガイが言った、ガイは銃の名手でキラーリストではかなり優秀である。

「それならもう失敗作ごと、あのマンションを爆破しようぜ。」

 ミッツが言った、ミッツは爆弾などの特殊工作が専門である。

「だめだ、派手にやらかしたら警察が動いて作戦がしづらくなってしまう。ここは日本だ、法律の厳しさが他とは違うんだ。」

「すいません・・・・、でも他に作戦はあるのですか?」

「実は高山の実家の情報を手に入れました。」

 カースが言った、カースは探偵事務所をやっていたこともあり、情報収集に長けていた。

「本当か?」

「こちらです。」

 カースはガイに、情報の書かれたメモを渡した。

「よし、これをもとに新たな作戦を立てよう。」

「ない、ない、ない!」

 突然ユリカが、衣服のポケットをあさりながら焦りだした。

「どうした、ユリカ!」

「あのメモを落としてしまった!」

 ユリカ以外全員が、ユリカに白い目を向けた。


 一方高山とジョンは、ユリカが落としていったメモに目を向けていた。そのメモにはこのような暗号が書かれていた。


 くうちちとくくうちちくきょくくとくくちぶくくやくちくしくくんちくちくだ

  B  A   D    C  E   G   H   F  J     K

 くくちせくくちくがくくやくくちくくくんくくちさくくくちうくくちめくくちょ

    I     L  M      O   N    Q    R  P 

 くくちふくくちちくどくくちうくくちじ                 

    S     U    V   T


 「何これ?」

 「これは間違いなく暗号だよ、きっと奴らのアジトの場所が書かれているんだ。」

  高山はジョンに言われてそうだと思った、問題はこの平仮名とアルファベットのみで完成したこの暗号を、どう解読するかだ。

 「うーん、ヒントが無いなあ・・・。」

 「わざわざヒント付きの暗号を書く奴がいるか?」

 「それはそうだった、それにしてもくとちが多いな・・・・。」

  高山はこれまで謎解きの類をあまりしてこなかったので、この暗号にかなり苦戦しているようだ。そして自宅に着いてからも高山は、リビングでメモを睨みながら考えていた。

「高山、わかったか?」

「全然、ジョンもか?」

「日本語は分かるけど、暗号は苦手。殺し屋の暗号だから、簡単には分からないようになっているのさ。」

「なるほど。それで前から気になっていたけど、殺し屋ってどんな仕事をするの?」

「そうだな・・・、まずは仇討の代行・邪魔者の排除・口封じぐらいなものかな。」

「なるほど・・・・!!今、なんて言った!?」

「えっ、仇討の代行・邪魔者の排除・口封じだけど?」

「口封じだよ、暗号のヒントは!」

 そういうと高山は鉛筆を持ってきて、メモの「く」と「ち」の部分を鉛筆で塗りつぶした。

「これで他の文字が見えた。」

「でもまだでたらめだよ。」

「残った文字の下にアルファベットがある、これには順番に読めという意味があったんだ!」

「そうか!すると・・・。」

「とうきょうしぶやせんだがやさんちょうめふじどう・・・。東京の渋谷区の千駄ヶ谷の藤堂だ!」

「これで場所が分かった、今連絡するね。」

 ジョンは持ってきたトランシーバーで誰かと話そうとしたとき、銃弾がトランシーバーを破壊した。

「うわっ!」

「ジョン!!まさか・・・。」

「暗号を解読するとは、たいしたものだ。こうなったらこちらにも、考えがある。」

 ヘリコプターから銃を構えたガイが、鋭い目つきで言った。すると今度はミッツがヘリコプターから飛び降りて、窓からガスを吹きかけた。そして高山とジョンは意識を失った。


 高山とジョンが目を覚ました時、そこにハスキーの姿は無かった。

「しまった、パラドックス・ウルフが・・・・連れて行かれた!」

「どうやらそのようだね・・・、早く行かないと・・・。」

「よし、じゃあ早速千駄ヶ谷へ・・。」

「待って!おそらく奴らは、そこにはいない。暗号の解読を知らされてしまった以上、おそらくそこはもう引き払っていると思う。」

「じゃあ、どうするんだよ・・・。」

 高山は深く絶望した、もうハスキーの姿が見れないという虚無が現実となった瞬間だ。高山が悔しさと悲しさで大泣きしている時、一本の希望を導く電話が鳴った。


 電話を終えた高山はジョンと一緒にマンションを出て小杉の運転する車に乗った、先程の電話は小杉が掛けたものだった。

「まさかあなたがキラーリストの者と、接触していたとは・・。」

「俺も驚いたよ、ユリカが殺し屋の仲間だったとはね。」

 年季のある車を運転しながら、小杉が呟いた。

「小杉、どうして君がユリカと出会ったの?」

「夕食の買い物をしていたら腹をすかせていてな、俺が夕食をご馳走して雑談していたらいつの間にか話していた。そして俺が風呂に入っている間に、メモを残してでていっちまった・・・。」

「そうか、それでそのメモにはなんて?」

「これだ。」

 小杉はシャツの胸ポケットからメモを取り出し、高山に手渡した。メモには次のようなことが書かれていた。


 夕食をありがとうございました。高山さんにJR豊田駅前の看板無きビルに向かうように言ってください、大至急お願いします。


「一体何なのか分からなかったが、掛けてみたんだ。そしたらユリカが抜け出した殺し屋が、高山のハスキーを狙っていたとはな・・。」

「小杉・・・、本当にありがとう!」

「いいってことよ。それよりいまいち分からないのが、どうして殺し屋が高山のハスキーを狙っているんだ?」

「・・・ジョン、あの事言ってもいい?」

 高山が小声でジョンに言い、ジョンは頷いた。そして高山は小杉に、これまでの事を打ち明けた。

「それなら俺も手伝わせてくれ!」

「小杉・・・、良いのか?」

「ああ、祐介の仇と知ったら落とし前をつけないとな!」

「いいよ、でもあくまで目的はハスキーの救助だからね。あまり無茶な事はしないで。」

「ああ、分かった。」

「ところで小杉、メモに書かれた場所が分かるのか?」

「ああ、あの辺りは仕事でよく向かうところなんだ。」

「それはよかった・・・。」

 高山はほっとしつつも、やはりハスキーが無事かどうかが気が気でない。高山は命を懸けても、ハスキーを助け出すと覚悟を決めた。

「パラドックス・ウルフ、君は僕の宝物だ。必ず僕が取り戻す。」



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