第5話「エラとティレッドと写真機」

 「写真機ですか?」


エラはそう言うとオレのダゲレオタイプカメラ、銀メッキした銅板を露光ろこうするレンズの付いた木の箱、つまりは銀盤写真機ぎんばんしゃしんきだ。


「写真撮りませんか?」

エラはそう言うとシンダース隊長と一緒に撮った写真の事を話してくれた。


「父は亡くなってしまったけど写真の中の父は今でもでもわたし微笑ほほえんでくれるんです」

そう言った彼女は少しさみしそうに笑った。


「大変ですよ、写真」


「知ってますよ」


その後は本当に大変だった、まずはオレもエラも正装に着替える、外へ出てカメラと椅子いすを用意しエラを椅子にエスコートしたのちカメラのレンズキャップを外し素早く戻る。


「ティレッド様、手はわたしの肩に」


体を固定する為、オレは椅子の背もたれに手を置いていたがエラはカメラを真っ直ぐに見詰めたままそう言った。


オレはエラの肩へと手をやる。


このあと日の光のなか10分、さらにもう一枚撮るのに10分じっと待った、オレはもう一枚の方は今度にしないか?とたずねたがエラは同じ写真を二人でかざりたいとゆずらなかった。


「少し待って居て下さい」

オレは光の入らない地下室へと行き、銀盤を水銀の蒸気で露光ろこうさせ塩水えんすいでそれを定着させてから傷付き易い写真を写真立てへと容れた。


「やっぱり左右逆に成るんですね」

銀盤写真と言うものはレンズによって左右逆に銀盤へと定着する、だからオレは写真を撮る時椅子の左側へ立ち利き手では無い左手をエラの肩へと置いた。


写真は見事にオレがエラの右側に立ち、利き手をエラの肩へと置いている様に見えた。


「ありがとうございます、わたし大切にします」

そう言ったエラはその写真を胸に抱き、今日一日の事を目を閉じ思い返している。


オレはエラに幸せに成ってほしいと思った。


――――――――――――――――――――


「王子様か…」


オレは新聞に大きくった王子とエラの婚約の記事とその二人の活版印刷かっぱんいんさつの写真を、あの時の写真の横へと並べる。


「君さえそう望めばお似合いなのにね…」

オレはそう思ったがエラを助け出さねばならない、例え同胞達どうほうたち苦境くきょうに立たせる事に成ったとしても。


オレはエラを愛しているのだから、オレはエラに幸せに成ってほしいと思ったのだから。


これは魔法使いの愛の物語だ。




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みによむ・シンデレラと魔法使い 山岡咲美 @sakumi

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