042:とってもシンプルでとってもクソ。


 《個体名『リノ』の眷属化に成功しました》


 私はとあるビルの屋上で聞き慣れた声を聴きつつ、最悪な気分でたいして綺麗でもない曇った空を見上げて、ただただぼーっとしていた。

 いろんなことがやっと終わり、ようやく一息つける。


 はぁー。

 死にそう……。

 頭がグワングワンするぅぅ。

 これが魔力切れの感覚……二日酔いの5倍は酷いわ……。


 《スキル〈月竜の幻影〉は非常に強力なスキルですが、膨大な魔力を消費するようですね》


 だよねー。

 きっついよこれ。

 

 《使い所には細心の注意を。ですが解析の余地は未だにあります。今回作り出した『人間』という幻影。魔力の消費量は作り出す幻影に依存するのかもしれません。解析を進めておきます》


 あー、うん、ほどほどにね。

 

 《今回、2体目の同族を取り込んだことによりワタシの処理能力も大きく向上しております。ご期待下さいユウナ》


 ……ん?

 今サラっと、まじでサラっと初知りな情報出てきたんですけど。

 ……いや、どうでもいいか……今はなーんも考えられません、ごめんなさい。


 私は地面にペタリとお腹をつけ、手足と尻尾を丸めて目を閉じる。

 このまま寝てしまいたいけど、頭痛が酷すぎて眠れそうにない。

 最悪。


 でも相変わらずさすがだよねー、つぐみさん。

 私が進化して新たに手に入れたスキルをすぐに解析してさ、坂本にどう説明しようか考えてめちゃくちゃテンパってた私に『事態の収束には、新スキル〈月竜の幻影〉の使用が最も有効です』なんて言ってくるんだから。

 やーばいよほんと。

 

 まあそのおかげでというか、せいでというか、坂本を眷属にしちゃったわけだけど。

 めちゃくちゃノリノリだったのは若干引いたけど、元気そうで良かった。

 すごく安心した。


 ───割と意識して、身近な人間のことは考えないようにしてたし。


 すっごい沼にはまっちゃいそうだしね、そんなこと考えると。

 まあ生き抜くので必死で余裕なさすぎたってのもあるけど。

 逆に良かったのかもねそれが。


 「グルァア……」


 …………。


 なんかイカつい声聴こえたんですけど……今の私ですか?

 ちょっとため息ついただけなんですけど……怖っ!

 自分でいうのもなんだけど怖っ! 私の声怖っ!

 元人間の女です、って言っても絶対信じてくれないよこれは。


 ふと、私の今の姿が気になった。

 イカつすぎる新しい自分の声を聴いたせいかな。


 私は動きたくないけど、ちょっと踏ん張って動く決意をする。

 歩くたびに頭痛い。

 テクテク、という感じではもうないけどなんとかガラスの前に到着。

 私は改めて新しい『私』の姿を見る。

 

 …………。


 …………。

 

 …………。


 こ、これは……あれだ。


 リ、リリ、リオレ○スだぁああ!!!

 しかも希少種だぁああ!!!

 このなんともいえないドラゴン感はまさしくリオレ○ス!! ちょっとかっこいいじゃん私!!

 

 でも代名詞の翼がない!! 悲しすぎる!!


 あー、久しぶりにモンハンやりたい。

 一狩りいきたい。

 リアルにじゃなくてゲームで。


 尻尾ながーい。

 骨格的には……ナルガかなぁ。

 ナルガも超好きなんだけどね私。

 ただ太刀使いの私からしたら弱いんだよなー。

 ビターン以外怖くないもん。


 はぁ……。


 なんだろ、この私という生物は。

 リオレ○ス+ナルガク○ガって感じ。

 んー、まぁいいか。

 割と気に入ったし。

 無性に翼が欲しくなったことと、でっかくなっちゃったことを除いては。


 まじまじとガラスに映る私を見る。

 やっぱりでかい。

 しっぽ長い。


 今の私、ライオン並にでかいガウルよりでかいんです。

 尻尾までいれたら、普通に2倍はでかい。

 隠れられない。

 不安。

 草むらをこそこそと歩いて生きていきたい。


 《ユウナの隠密系スキルは充実しております。支障はほぼないかと》


 え、そういうもん?

 いやいや気づくでしょこんなでかいやつ傍にいたら。

 気づかれないとしても私のメンタルがキツいわ。

 せめてガウルみたいにちっちゃくなれたらよかったんだけど……そう都合よくはいかないか。

 はぁ、慣れるしかなさそう。

 かっこよくなった代償はでかい。


 一通り新しい私の姿を確認して、再び元いた位置に戻ってへたり込む。

 隣ではガウルがぐったりと寝てる。

 大丈夫かな。


 HPを回復するファンタジーな謎の草、『ヒポポグラス』をけっこう使ったからつぐみさんは大丈夫って言うけど、やっぱり心配。

 この草は『ポーション』の材料の一つらしいけど未だにポーションの作り方は分からないし。


 《ユウナ、解析の方がほぼ完了しました。細部に関しては今後継続して解析を進めます。しかし、とても興味深い情報がありましたのですぐに共有したいと思うのですが、よろしいですか?》

 

 ちょっとだけ不安になりながらガウルを見ていると、つぐみさんが話しかけてきた。

 つぐみさんの優秀さにはいくら驚いても驚き足りないし、全然慣れない。


 それで何か分かったの? つぐみさん。


 《はい、とても面白い情報です。───『クリア条件の一部』についてです》


 …………え?

 なにそれ、クリア条件の一部?

 いや、クリア条件ってのも意味わかんないけど、その一部とかもっとわからんわ。

 

 《これは見た方が早いでしょう》


 あ……うん、そうだねつぐみさん。

 ちょっと意味不明すぎて混乱した。

 じゃあ教えてよつぐみさん。

 クリア条件の一部とやらをさ。


 《はい、開示します》


 そして、私の目の前に“クリア条件の一部”ってのが表示された。

 映し出されたのは私の予想を裏切り、たったの一文だけだった。



 ++++++++++



 プレイヤー数が1%以下になるまで生き残る。



 ++++++++++



 それはとってもシンプルで───とってもクソなものだった。

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