041:佐々木先輩。
「触んなクソナルシスト。気持ち悪りーんだよ」
あ、これ夢です。
佐々木先輩の姿を見て、わたしはすぐに気づきました。
とても不思議な感覚です。
夢を夢とわかったことなんて今までで1度もありませんからね。
というか、デュラハンになってから眠りたいと思うことすらなかったですし、たぶん眠ることなんてできませんでした。
じゃあこれはどういうことなんでしょ?
まあどうでもいいですね。
これはわたしが無理やり先輩を連れていった合コンの夢です。
懐かしいですー。
めっちゃ懐かしいですー。
このときのわたしはけっこうやけになってたんですよ。
社会人一年目で仕事がほんと大変でしたから。
覚えることがめちゃくちゃ多いし、上司は終わってるし……。
まあ、いいこともあったんですけどね。
佐々木先輩はすっごく好きな先輩でしたし。
そんな大変な時期に、4年付き合ってた彼氏に突然フラれたんです。
は? ふざけんなって思いましたねほんと。
めちゃくちゃ大喧嘩した後、結局別れちゃいました。
しかもその後、わたしの友達だった人と付き合い始めたんです。
絶対浮気してましたよアイツ。
死ね、です。
まじ死ねですよほんと。
そりゃやけにもなりますよ。
はぁー。
それでわたし、佐々木先輩をなかば強引に誘って合コンをやったんです。
正直先輩はこういうの好きな人じゃないと思いますし、乗り気じゃなかったと思います。
というか先輩すっごい美人さんなので全然合コンなんて必要ないんじゃないかなーと思います。
いい先輩です。
わたしがあまりに落ち込んでるから着いてきてくれたんです。
あー、なんか泣きそうになってきちゃいました。
それで結局やったんですよ、合コン。
結果から言うとですね、最悪でした。
顔はそこそこ良かったんです。
それにみんなそれなりに良い会社だったですし。
でも、話は自慢話ばっかだし、何よりみーんな佐々木先輩狙いってのがバレバレなんですよ。
死ね、です。
そういうのって隠すのが礼儀ってもんじゃないですか?
合コンの礼儀も知らないんですか?
アピールなら終わったあとで勝手にバンバンしやがれですよまったく!!
でも、不思議と佐々木先輩に嫉妬することなんてありませんでした。
むしろ、不安でした。
先輩の表情がみるみる冷たくなっていったからです。
まるでゴミを見るような目でほんと怖かったです。
美人だから余計に怖いんですよ……ほんとに。
途中から合コンのことより先輩がキレないか不安で不安でしかったなかったです。
会話の内容とかも全然入ってこなかったです。
そして……悲劇は怒りました。
悪酔いした一人が佐々木先輩の隣に座り、背中に手を回したんです。
それで先輩はキレました。
もうそれはプッツンと。
普通はね、女子がキレたらビンタとかだと思うんですよ。
だけど先輩は違いました。
『肘鉄』ですよ、肘鉄。
思いっきりひじでゴーンって殴り飛ばしたんです。
めちゃくちゃ鈍い音でした。
そして冒頭のセリフです。
『触んなクソナルシスト。気持ち悪りーんだよ』
もうね、静まり返りました。
酔いなんて一瞬で吹き飛びました。
やられた男もあまりの出来事に頬をおさえてただ呆然としてました。
何が起きたのか分からないって感じでした。
かくいう私もポカンと口を開けたまま固まってしまいました。
その後、先輩はわたしに一言謝ってから帰りました。
放心状態からなんとか立ち直ったわたしはすぐに先輩のあとを追いました。
そしてめちゃくちゃ謝りました。
だけど先輩はまったく怒っていませんでした。
むしろ合コン潰してほんとごめんねと、謝ってきました。
実は先輩、以前にもこんなことがあったそうで、よくやっちゃうんだよねと笑っていました。
最高の先輩です。
ほんとに最高の先輩です。
そのあと、先輩と2人で大笑いしながら呑み直したのはいい思い出です。
++++++++++
「うぅ……」
頭が……痛いですぅ……。
えっと、ここは……。
わたし何してたんでしたっけ……。
確か、めちゃくちゃヤバそうな魔物が瀕死だったのでトドメをさそうとして……ダメです、そこから思い出せません。
頭の痛みが引くまで少し待ってから、わたしは辺りをキョロキョロと見渡しました。
そして───
「よー坂本。久しぶりー」
佐々木先輩がいました。
めちゃくちゃ佐々木先輩がいました。
パチパチと数回瞬きしてみます。
やっぱり佐々木先輩がいます。
ゆるーいTシャツにショーパンって感じの普段着、というか部屋着の先輩がいます。
「え……」
その瞬間、わたしの中の何がプツンと切れました。
もしかしたらわたしは、ほんとうは寂しかったのかもしれません。
こんな世界になっちゃって、こんな身体になっちゃって、心も変わっちゃって。
寂しさなんてなんにも感じないと思っていました。
でも本当は人間だった頃の残滓みたいなのが残っていて、しっかり寂しかったんです。
知り合いも友達も誰もいなくて。
他の人たちと居てみたけど、虫とか動物と一緒にいるような変な違和感が全然無くならなくて、なんか違くて。
今思えば、わたしがレベル上げにのめり込んでいたのはそんな感情を心から追い出したかったからなのかもしれません。
「うぅ……ぅぅぅぅ……」
「お、おいどうした坂本……? え、私のこと覚えてる……よな?」
先輩が何を言ってるのかよく聞こえません。
泣きたいのに涙が出ません。
「せんぱぁぁぁああああいっ!!!」
「うぎゃっ!」
わたしはたまらず思いっきり抱きつきました。
もう我慢できませんでした。
「先輩今までどこに居たんですかぁああ!! わたじぃ……わだじぃぃぃ……」
「あーわかったわかった。げっ、魔力ヤバッ! ちょっと待て坂本、まじで今は時間がないんだよ!」
「いやでずいやでずぅぅ。もうはなじだぐありまぜん……」
「ギャー、ガチでヤバい。まじで時間ない! まず話聞いてくれ坂本! 私はどこにもいかないから!」
「ほ、ほんどですか……。分かりました」
わたしはしぶしぶ先輩から離れました。
「よしよし、いい子だぞー坂本」
そう言って先輩はわたしの頭をぽんぽんと撫でてきます。
とても懐かしいです。
わたしは身長がすこーしだけ小さいので、よく先輩は子供のようにこうしてからかってきます。
いつもなら、子供扱いしないでください! と言い返すんですけど……今は心地よすぎてそんなに気にはとてもなれません。
「あれ、おとなしいな……。って、時間マジヤバい!! えーっとな坂本、時間ないから要点だけ言うぞ! あと30秒くらいしたら私の姿が少し……いや、かなり変わる。めちゃくちゃ化け物な姿になる。それで、その姿だとコミュニケーションが取れなくなるんだけど」
「えっ!」
「ただコミュニケーションをとる方法はあってだな……非常に申し訳ないんだけど、一時的にでもいいから『眷属化』ってスキルを受け入れて欲しいんだよ。もし嫌なら───」
「受け入れますッ!! 何でも受け入れますからわたしッ!!」
わたしは即答しました。
こんな世界で先輩と離れるなんてもう考えられません。
眷属化でも何でも受け入れます。
もともとわたしは先輩の後輩なんだから眷属みたいなものです!
「お、おう……なんか逆に怖いぞ坂本……。あー、あと10秒。受け入れてくれるなら良かったわ。それとな、坂本。私の姿はちょーっとだけ怖くなるぞ。見た目もそうなんだけどな、魔力とかいろいろ漏れちゃって怖いと思うんだけど……」
「大丈夫ですよ先輩っ!! わたしだってここまで生き残ってきたんです!! ドンと来いですよ!!」
「そ、そうか。なら安心だわ」
そう言うと、先輩の姿はみるみる変わっていきました。
わたしは久しく見ていなかった夢をもう一度見ることになりました。
だけどとっても幸せな夢を見ました。
【後書き】
テレレレッテッテッテー♪
デュラハンのさかもっちゃんが なかまに くわわった!
現在のパーティ。
1.竜っぽいトカゲ
2.悪いオオカミ
3.幼女感あるデュラハン
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