037:怪鬼事変【裏】


「わたしずーっと思ってたんですよ。先輩に勧められてどハマりしちゃったドラ○エについてなんですけどね。あれってモンスターを倒して経験値をゲットしてレベルアップしていくじゃないですかー。だからどうしてもレベル上げが必要になっちゃうんですよぉ。それでわたし思ったんです。経験値になるのってモンスターだけなのかなーって」


「……ひっ、よ、よよ、寄るなッ!!」


「意外と大変なんですよレベル上げって。メタル系全然出ないし、経験値がおいしいモンスターは強いし。だからですねー、人間をサクッと倒して経験値ゲットできるならすごい楽なのになーって。───……あれ? わたしって昔からこんなこと考えてたっけ? ……まぁどっちでもいいですね♪」


「な、なんでこんなことするんだッ! 俺がなにしたってんだよ! こんな状況なのに人間同士で争ってる場合かよ!」


 わたしの目の前には包丁を構えガクガクと震える中年の男が一人。

 たぶん今まで引きこもってたタイプですかね。

 最近この辺りでは人間も魔物も少なくなってきています。

 誰かが狩りまくってたりするんですかね?

 

 ありえますねー。

 わたしみたいにとりあえずレベルは上げたい、って人はそれなりにいる気がします。

 ま、それはさておきですね、やっと見つけた“おいしい経験値”を逃す訳にはいかないです♪


「じゃあとりあえず───〈ダークソード〉〈ダークアーマー〉」


 わたしの身体が鎧で覆われ、右手にはもう見慣れた黒い剣が現れます。


「……な、なんだよそれ……」


「やっぱり知らないんですねー。今までもそうだったんですけどー、引きこもりはだめですよ〜。どんどん置いていかれちゃいます。それにですね……わたしは人間じゃありませんよ。人間にすっごく似てますけど」


「な、何を言って……いや、そんなことより見逃してくれ! いや、ください! お願いします! 何でもします! 下僕にでも何でもなりますから! お、お願いします……!」


「何でも……ですか?」


「は、はい……っ!! 俺に出来ることなら何でもします!!」


「じゃあですね───」



 ───“経験値”下さい♪



 わたしはそう言って一歩で間合いを詰めます。

 コツコツレベル上げをして私のレベルはもう27になりました。

 引きこもってた人なんかに負けるはずがありません。


 とはいえ、油断はできないんですよねー。

 時々いるんですよ、すっごいレアスキル持ってる人が。

 一度痛い目にあいました……油断大敵、です。

 一瞬で決めます。


 わたしの目に男の引き攣った顔が写ります。

 男が何か言おうとしたところで───わたしの剣が胸を貫きました。

 即座に引き抜き、頭を斬り落とします。

 はい、終わりです。

 これで“再生系”や“治癒系”のスキル持ってたとしても大抵は死にます。


 《スキル〈ダークソード〉のレベルが上がりました》

 《スキル〈ダークアーマー〉のレベルが上がりました》

 

 バックステップで距離をとり、観察します。

 

 《個体名『リノ』のレベルが上がりました》

 《カルマ値が下降しました》

 《各種能力値が上昇しました》


「おっけーい、死んだっぽいですねー、ふぅー」


 レベルアップするとわかりやすいですね。

 でもそうじゃないときもあるので、当てにしすぎるのは危険です。


「さすがに効率悪くなってきましたねー。やっぱり場所を───ななな、なんですかっ!?」


 緊張の糸が切れた瞬間、響く轟音。

 何かが爆発したような強烈な音。

 反射的にわたしは外に出ます。

 すると、何やら駅の方向から土煙が上がっているのが見えました。


 異変が起き、いろんなものが急激に変化しましたが、こんなことは初めてです。


「なんなんですか一体……? まさか自衛隊とかですか? ───ってぇぇぇええええ!!」


 次に見えたのは黒いビームです。

 空まで届きそうな黒いビームが横凪に建物を切断し、倒壊させました。

 さすがにわかりました。

 これは……わたしと同じ『魔物』の仕業。


「こ、こんな、やばそうな魔物がいたんですか……」


 今までわたしは運がよかっただけでした……本当に。

 それなりに強い方だと思ってたのですが……。

 というか、何かと戦ってるんですかこれは?


 轟音は絶え間なく響きます。

 何かとっても重いものが激突し合っているような鈍い音です。


 …………。


 と、ということはつまり……少なくとも2匹……いや、片方は人間かもですけど……。

 うぅぅ……どうしましょう。

 もう新宿から逃げることは確定として、やっぱり確認すべきですかね。

 

 ───と、わたしが悩んでいると。


「ガルアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」


「ひやぁぁあああ!!! ───おっとっとっと」


 大地を震わせる咆哮。

 それを聴いた瞬間、わたしは潜在的な恐怖を感じて情けない悲鳴をあげてしまいました。

 そのせいで頭がおっこちちゃいそうにもなりました……。


「なんですか……ラスボスですか……バグですか……」


 逃げるべきです。

 今すぐ逃げるべきです。

 なのですが……。


「確認……しておくべきですよね。今後出会わないとは限らないんですしぃ……。うぅ……すぐに逃げるためにも……あぁ、こわいですぅぅぅ」


 わたしはもうさっき殺した男のことなどきれいさっぱり忘れ、これからどうするべきかについて考えていました。

 

 しばらくモジモジと躊躇して、それから意を決してわたしは轟音のするやばそうな場所へと歩み始めました。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る