第8話(裏).ヒルダさんとお義姉ちゃん

 お兄様とカンティ、それにカシムさん&キダフさんに見送られて、わたくしたちは、冒険ゾーンのフィールドに足を踏み入れました。


 「ところでヒルダ、その軽弩の使い方はわかりますかえ?」

 「ご心配には及びませんわ、お姉様。あれからわたくしも色々と勉強しましたの」

 「あれ」というのは、もちろんお姉様と「対決」した砂漠での一件を指します。


 ──不思議ですわね……あの時は、あれほど「憎い」と思っていた女性をこれほど好きに(へ、変ヘンな意味じゃありませんわよ?)なるなんて。

 いえ、あの時、本当はすでに憎いとは思っていなかったのかもしれません。ただ、大好きなお兄様を「取られた」ことに対する子供っぽい嫉妬を自分でももてあましていただけなのかも。

 だからこそ、あんな風にわたくしを優しく受け止めてくださったお姉様のことを、あのあと素直に受け入れられたのでしょう。


 「それは重畳。ただ、弓とは弩弾の軌道が少々異なることは、ゆめゆめ忘れるでないぞえ」

 「ええ、とくに今回は弾も少ないようですし……」

 今回携行しているのは、麻痺弾の[弱]と[中]、睡眠弾の[弱]と[中]がそれぞれ10発ずつです。リチャードの話によれば、これだけでフィールド内にいる獲物のおよそ半数を行動不能にできると言うことですけど……本当かしら?


 「そうさな、妾がこの巫山戯た大槌ハンマーをまず一発当てよう。そこに、睡眠弾を撃ち込めば消耗を最小限に抑えることができるじゃろう。麻痺弾を使うのはそのあとじゃな」

 流石わずか半年で上級狩猟士が狙える位置にまで上りつめたお姉様。軽弩クロスボウが本職だけあって頼りになりますわ。でも……。


 「その……失礼ながら、お姉様の方は大丈夫ですの?」

 たしか近接武器を扱った経験はあまりおありではなかったのでは?

 「ん? ああ、妾の方は気にせずともよいぞえ。これでもハンマーと比較的取り回しの近い打槌メイスは何度となく扱っておるでな。先日もそれで大型獣の蒼髭蝦ガリダリスをほぼ単独で狩ったばかりじゃて。

 (とは言え、このハンマーと言うヤツは、大きさの割に間合いが狭いのが少々難じゃがのぅ)」


 何やら小声で呟いておられるのが気にかかるのですが……。

 とはいえ、ここでこうしていてもラチはあきません。思い切って出発することにしました。


  *  *  *


──ガスッ!

 「ヒルダ、いまじゃ!」

 「はいっ!」

 お姉様が「おやすみテディくん1号」などというふざけた名前の武器を、大きく横薙ぎにしてラプタンをひるませたのに合せて、わたくしも手にしたケトシードールガンの銃爪を引きます。


──ドズォゥン……。


 弓とは異なる重い手ごたえと反動とともに弾が発射され、ラプタンのこめかみにつきささりました。


──Kyuuu……。


 催眠成分が体にまわったのか、たちまちラプタンは崩れ落ちます。


 「ヒルダ、残りの弾数は、どれくらいかの?」

 「睡眠弾は今ので打ち止めです。麻痺弾は[中]が全部、[弱]が3発残っていますわ」


 事前の懸念に反して、わたくしたちは順調に徘徊する動物たちを倒していました。

 倒した(と言っても寝ているか意識を失っているだけですが)標的の体から、竜鱗石や蜥蜴茸といった御宝素材トレジャーのタグは取れましたが、お兄様たちのときに比べて少々量的に劣る気がします。   


 「ふむ……戦略を間違えたやもしれぬのぅ」

 「どういうことですか?」

 「妾は大型獣なぞを倒した方が実入りが大きいと踏んだのじゃが、むしろ採集に徹したほうが効率はよかったのかもしれぬ」


 そう言えば、お兄様たちは1度も戦わずに1等になったのでしたわね。

 もっとも、わたくしとしては、たとえザコ相手とは言え、お姉様と共闘できるのは少なからず嬉しい気がするのですが……。


 「そう、なのかえ? では、このままお主の弾が尽きるまで続けるとしようぞ」

 「よろしいのですか?」

 「なに、ここは、りぞーと施設なのであろ? なれば、賞品を気にするより、楽しんだ者の勝ち、と言うことじゃ」

 ニヤッと人の悪い笑みを浮かべて、お姉様は私を先導されます。


 「ホレ、こちらじゃ、ヒルダ。ここが密林を模しておるなら、おそらくこの洞窟内にはラプタンどもが群れておるじゃろうからの!

 頼りにしておりまするぞ、相棒殿?」

 「ハイッ、お任せくださいっ!!」

 わたくしの胸も、まるで子供のころお兄様方に連れられてこっそり下町に“冒険”に出かけたときのように高鳴っていました。

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