第9話 行方

 理不尽に殺された者が放つ死に際の念──


 それは当然のことながら凄まじく激しく、そして重い。

 可留はこれまで幾度もそういう断末魔の念に触れてきた。


 殺業鬼に憑かれた者の犠牲になったのではないか──

 理不尽に命を取られる被害者が出る事件が起きるたび、二人はまず、それを疑う。


 通り魔、無差別殺人、テロ的事件など、むろんそれらすべての犯行が鬼憑きによるものではないが、ただここ数年、明らかにそれと断定出来る件が増えているのもまた事実だった。


 そして、アパート経営の田所松江が殺害された一件に、真了と可留は奴らの気配を確かに感じ取っていた。


 事件現場となった田所ハイツの周囲に集まる警察や野次馬らから少し離れた所に二人は立ち、そこから今、可留が被害者の魂へのコンタクトを試みようとしていた。


「たぶんあのアパートから離れてないよ」

 可留が言う。

「そうだろうな──よし、頼む」

 真了の言葉にうなずき、可留は目を閉じた。


 ハイツ、殺人現場、被害者──可留の思念の霊的センサーが田所松江の《魂》を探す。


(どこだ・・・・)


 と、突然──


『あのクズがーっ!!! よくも! よくも! よ・く・もっ、アタシを殺したなあああーーーっ!!!』


(うわ・・・・)


 狂乱の夜叉のごとき老婆が、憤怒に髪を逆立て突如、可留の脳裏に現れた。

 その瞬間、可留の意識は老婆の目前へとダイブした。


『あんた、誰っ!』

 田所松江の魂が叫んだ。

行木可留おこなぎかると言います』

 意識体の可留が淡々と答える。

『か、る??』

『はい』

『何なのっ、何の用よっ! あっ──』

 可留が右手をかざすと、本山に対しての生前の高圧的な言動さながらにわめく老婆の動きが止まった。

 さらに両手をかざした瞬間、激昂の夜叉と化した田所松江の姿は見る間に収縮し、赤みを帯びた暗い光の玉となった。

 無念と怒りが凝縮したその玉を意識体の可留が両手で包む。


(男・・・・襲う・・・・刃物・・・・男・・・・・・・・)


 殺害された状況が可留の脳裏のスクリーンにありありと浮かんだ。


 そして──


とらえた!!』


 強烈なイメージをつかんだ可留は光の玉をよりしっかりと包み、『あなたの無念は晴らします』と告げると、そっと手を離した。


 田所松江の魂は可留のその言葉を受け入れたかのように、白みを帯びた光に変わり、そしてゆっくりと薄れていった。


「奴らだ」

 目を開けた可留が開口一番、そう言った。

「やっぱりか・・・・で、どいつだ? どの殺業鬼だ?」

「いや・・・・分からない、それは」

 真了に問われた可留は左右に小さく首を振った。

 これまで同様のケースで加害者に憑依し操るモノの正体を見極められないことは1度もなかった。


 が── 


「もしかすると・・・・」

「あれ、か?」

 可留が口にしかけた言葉を真了は即座に察知した。

「父が言っていた奴か?」

「黒惨鬼──」

 屋敷の松を真っ二つに裂き、復活の宣戦布告をしてきた敵──


「だとすると・・・・」

「次の犯行まで間がないかもしれない」

 二人は目を見合せた。


 相互の目、表情に、一気に緊迫と危機感が広がっていった。




 

 




 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る