第2話 行木家

 神奈川県鎌倉市。

 

 三方を深い緑に囲まれ眼下に湾を見下ろす小高い丘の上に、歴史の重み漂う冠木門かぶきもんが構えている。


「あらっ」

 二人が門に近づいた時、横の木戸から出てきた老女が驚いた様子で声を上げた。

「あ、喜恵さん」

「わ、久しぶり!」

 真了と可留の表情がほころぶ。

「お坊っちゃま方、お久しぶりでございます」 

 小さな身体を二つ折りにし、喜恵と呼ばれた老女は丁寧にお辞儀をした。


「二年ぶり?」

「今日は何か用事?」

 喜寿を過ぎた高齢のため、長い年月を女中として住み込みをしたこの家から喜恵は二年ほど前に退出をしていた。


「はい、旦那様に少しお話がございまして・・・・にしてもお二人ともまあ背が高くなられて」

 150センチもなさそうな喜恵はそう言い、真了と可留を見上げた。

「聞いてよ喜恵さん。真了は178センチなのにさ、僕はまだ173センチなんだよ?」

 いかにも不満げに口を尖らせる可留を横目で見ながら、「二卵性だから違いは出るよ。双子なのに顔だって似てないし」と真了は言い、「ねえ」と、同意を求めるように喜恵を見た。

「そうでございますね。でもお二人ともとてもハンサムでいらっしゃいますよ」

「喜恵さん上手だなぁ。ま、ほんとのことだけどね」

 可留がおどける。

「まっ、可留さんたら。ふふ」

 喜恵がいかにも品のある笑みを浮かべた。

「なに言ってんだか」

 真了も苦笑いをした。


 確かに二人は似ていない。

 真了は面長で目鼻立ちのはっきりとした、いわゆる端正な顔立ちだが、可留の方はやや丸顔で大きな目が印象的な可愛げのある顔をしている。

 が、二人ともに清潔感においては共通しており人混みの中でも目立つような存在感を放っている。

 

「そうそう、お二人は来月に二十歳になられますのね?」

「うん、そう」

 可留が言い、真了も頷く。

「では旦那様はいよいよ・・・・」

「ん?」

「え?」

 謎めいた喜恵の呟きに二人は同時に首を傾げた。

「あ、いえ・・・・さ、旦那様が中でお待ちですよ。門は開いてございます。では私はこれで失礼します」

 うやうやしく頭を下げ去りかけるその姿に「帰っちゃうの?」と可留が声をかけると、喜恵は「はい。また近い内に参ります」と言い、そして門前の長い階段をゆっくりと下りて行った。

 

 五月の青く爽やかな風が木々を柔らかく揺らす。


「いい季節になったな」

 真了の言葉に「そうだね。じゃ入ろうか」と可留がうながし二人は門をくぐった。




 




 

 


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