第31話 関西弁!?(※それは断末魔だ)

 今日の学園は入学式と簡単な学園の説明のみだったため、さくっと午前中に終わった。


 昼からどうすっかなぁと手持ち無沙汰になった俺は冒険者ギルドに来ていた。


 学園生は学生依頼という依頼を受けられる。


 この学生依頼と通常の依頼との異なる点は『料金』である。単に安い。


 依頼主も受理される人が学生だと理解している上で依頼を出すため、比較的簡単な内容のものを依頼する。


 依頼主は学生でも可能な内容のものを依頼するか難易度が高すぎて依頼料が払えない時に学生依頼を使う。とはいえ、後者の依頼は滅多に出ない。出ても学園での実績や評価がなければ受けられない。


 それが学生依頼の基本。




 と、まぁ、そんな依頼を俺は受けようと依頼表を眺めているんだけど……うーん、どれもいまいち。なんかこう、モンスター狩れるやつないかなぁ。ないなぁ。


 ……うん、帰ろう。帰って基礎トレーニングと素振りでもすっかな。


 と思い、ギルドから出ようとした時、ギルドの出入口のドアが勢いよく開かれた。


「き、きんきゅー! いらい! です!! 受けられる方は、私のところに来て、下さい!!」


 なに!? 緊急依頼だと!? 珍しい。


 緊急依頼とはランクも学生というのも関係なく受けられる急を要する依頼のことである。


 難易度選定している暇もない一刻も争う事態に陥ってる時に出され、大抵A級からS級冒険者じゃないと倒せないような『強敵』が待ち構えているということである。






 ──ここで忘れているだろうことをもう一度。


 『騎士』になりたい学生のほぼ100%は『剣』が好きか『強敵と戦いたい』という脳筋だということだ。

 ちなみに騎士が公務員だからという理由で騎士を目指す人は少数。


 しかし、勇気と蛮勇の違いは理解している。分不相応は理解できるし、実行もできる。


 無謀なことはしない。


 だが、無謀でないなら無茶はする。ただし、無策ではしない。無理でなければ無茶が通る。


 そんな考えをしているのが『騎士』を目指している学生だ。



 もちろん、アーツィーもそれに当たる。



「みなさぁ~ん!! 参加登録をしながらで良いので!! 依頼内容の説明を致しますので!! 聞いてくださぁ~い!!!」


 二十人ほど集まった参加者が各々ギルド職員の指示に従い、参加登録をする。


 この登録をしていなければ報酬を貰えない。あとから参加しただとか実は遅れて合流して参加してたとかなんとか言われてもそれが本当か嘘かなんて証明できないからだ。


 報酬は参加時の各々のランクの3依頼分は出る。そして依頼貢献度に応じて追加報酬も期待できる。


「南の門から出て馬車で20分程のとこにあるザイツェをモンスターから守ることと、近くのザイツェダンジョンからモンスターが30分後に溢れでてくるそうなので、そのモンスターの殲滅をお願いします!! 馬車は手配中です!!」


「なんでえ、ザイツェダンジョンからモンスターが出てくるって正確な時間までわかんだ?」


 参加者の一人が質問をする。


「はい! それは今回のザイツェダンジョンからモンスターが溢れでてくる原因となったS級冒険者パーティーからの依頼だからです!! なんでも、そのS級冒険者パーティーは他の依頼達成のためにザイツェダンジョンで必要な物があるそうで下層に潜ったそうなんですが!! 思ってたより強いモンスターが現れて不意に力の制御を誤ってしい……覇気が出て! その覇気に当てられたダンジョン内の弱いモンスターが逃げるように外に出ようとしているようです!!」


 S級の覇気って……やっぱS級スゲーな。としか感想出てこない。


「で! そのパーティーメンバーの一人がダンジョンからモンスターが外に出ないように魔法でダンジョンの入口に結界を張っていまして! その結界の限界時間がおよそあと30分ということです!! なんとか、みなさんが到着するまでは結界を持たせると言っていましたので!」


「んじゃあ、そのパーティーに外に出ようとしているダンジョンのモンスターをそのまま狩ってもらうってのはできねぇのか?」


 さっき質問した参加者が質問をする。


「そうしますと! 最小の被害でザイツェダンジョンの崩壊!! 運が悪ければザイツェが地図から消えてしまうそうです!!」


「「「「「……」」」」」


 参加者全員が苦い顔をする。


 ザイツェは『町』だ。もう少し人工が増えれば『街』と呼べる規模になる町である。


 ザイツェダンジョンは中程度の難易度のダンジョンで、ここから採取できる鉱石・薬草・モンスターの素材で使える物が多い。

 ここの採取物が今いるアストフィア王国の首都・ロゼルゲイツにも大きく物流に影響する。


「あー……、つまり、S級のそいつらは手加減が出来ねぇってことか?」


「手加減して!! ダンジョン崩壊で済むそうです!!」


「「「「「「……」」」」」」


 S級の馬鹿げたステータスに呆れて誰も何も言えなくなる。


「あー、あいつらか? S級でそんな火力のあるパーティーって……」


「はい! おそらく今、みなさんが考えてるパーティーです!!」


「はぁ、なら納得がいったわ」




 S級冒険者パーティー・火力こそ全てエクスプロージョリスト。リーダーのゼクスは爆発系・爆裂系の魔法の使い手で最小魔法範囲が百メートル単位で最大が数キロ単位と言われている。

 そのため、パーティーメンバーは他人の力を制限させる能力を持つイーナによってゼクスの魔法範囲を小さくし、強固で多様な影響を与えられる結界魔術師のエウスマキナが衝撃を抑え、さらには探知系・テレパス系の魔法使いのミーシャにより付近に巻き込まれたらいけないものがないかを探知し、もし人ならテレパスで人に知らせて退避させる、というパーティー構成である。


 他にヒーラーとタンクの役割をするメンバーもいるがここでは割愛させてもらおう。


 このように頭のおかしい火力を持つS級冒険者はこいつらしかここロゼルゲイツ近郊にいない。


 なので参加者達はお察しの通りという顔をしている。そんな察したタイミングでギルドの出入口のドアが開く。


「みなさん! お待たせしました!! 馬車の準備が出来たのでさっそく乗り込んでください!! 馬車の定員になりしだい、出発します!!」


 ギルド職員の指示に従い、参加者はぞろぞろと馬車に乗り込む。







 ──ガタゴトガタガタ。







 もうそろそろで着くころだ。


 馬車に乗り合わせた参加者達と自己紹介とを担当するかの簡単な打ち合わせをした。町の防衛か殲滅か、のどちらかの話。


 乗り合わせた参加者は俺を含め10人。内4人は町の防衛にあたり、残りは殲滅に向かう。もちろん俺は後者だ。



 ここで殲滅に向かうメンバーを紹介しよう。


 まずはソロで33才のD級冒険者のダブルバトルアクス使いのゲイルさん。この依頼を達成したらランクが上がってC級になれるらしい。で、C級になったら騎士に転職して、サラさんって人にプロポーズするんだって。


 騎士になれれば冒険者より安全で安定収入の高給取り。そんでもって、サラさんも早くプロポーズしてって言ってるらしい。

ゲイルさん自身がD級冒険者のまま結婚はしたくないらしく、子供を作るとなるとやっぱり騎士になった方がいいってんで、まだ正式にプロポーズはしていないらしい。


 みんなで祝おうって話になったんだ。


 ちなみに冒険者から騎士にキャリア採用される目安としてC級で素行に問題なければほぼ騎士に採用されるよ。



 次に紹介する人は同じくソロで活動しているシーフのおねえさん、ミレイヤさんだ。俺の見立てでは相当な腕がある。立ち振舞いが違う。この雰囲気を纏った人を知っている。うちの家族だ。ミレイヤさんはうちの家族程のオーラは無いけど、相応のねんれ……経験を積んで来たように見えた。


 シーフとはトラップ探知・解除を専門にし、軽装備で身軽。戦闘では撹乱かくらん・闇討ちが基本。とてもソロ向きの職業ではない。


 が、ミレイヤさんはソロやっている。相当な自身と腕がなければ無理だろう。


 そんなおねえさんは今日、年の離れた妹が誕生日でサクラという木の花びらの形が付いているネックレスをプレゼントをしようとしているってさ。喜んでくれるといいね。


 あと、ミレイヤさんは一人暮しで妹は両親と暮らしてるらしい。妹はまだ幼くてかわいいって笑って話してた。


 で、予約したケーキを買って妹と両親がいる家に帰るってさ。


 家族円満でいいね。





 そしてパーティーのマイクさん、リシエラさん、カークさん。本当は6人パーティーだけど前の依頼で2人が怪我で療養中。1人は武器の修理に出してるから3人でも受けられそうの無いかなぁとギルドにフラりと立ち寄ってみたらこの依頼がちょうどよく来たから受けたみたい。


 今は療養中のリーダーのネヴィアさんは前の依頼でモンスターの攻撃からマイクさんを庇って負傷したらしい。マイクさんはネヴィアさんに恩を返すために何かしてやりたいって言ってたな。

 あ、マイクさんは前衛職で盾に剣の鞘が付いている特殊な武器を持っている人なんだ。剣自体はロングソードだって。


 リシエラさんはファルシオンっていう曲剣使い。曲剣の特徴は付与魔法が乗り易く、攻撃魔法との相性がいい。刀身により、相手は距離感がつかみ辛く、また相手の攻撃を受け流しやすいのが特徴の剣。使いこなすのがとても難しい武器だけど、使いこなせれば相当強い武器。


 んで、カークさんは銃にも大鎌にも大剣にも変形するものすごく特殊な武器を持っている人。近・中・遠距離がカークの間合いで、前・中・後衛のどれも出来るって。

 ソロで冒険者やってた時、一人で全てのポジションやって、一人で全ての間合いを対応している内に武器も自分自身も対応できるようになったんだって。


 なんでも近距離で大剣でモンスターを狩ってたら逃げていく相手が追えなくて、銃も使い始めてたら中距離で足を使って撹乱してくる相手には部が悪い。今度は中距離に対応できるように大鎌も背負って持っていったらなんとかなった。でも、ただ全部持ってくのは重いから、全部の武器が合わさったものを作ってもらったんだって。


 俺もそんなこと考えたことあったな。ただ俺の場合はロングソード1本で遠距離も対応するためにようにして、中距離の相手は特殊な歩行を習得したらになったんだ。


 って言っても、斬撃を飛ばすって言っても欠点あるじゃん?

 銃で例えるとほら、銃口が向いてる所の延長線上がだから銃口さえ見てれば弾って簡単に避けられるでしょ?

 それと同じでさ、斬撃を飛ばす方向も読まれるんだよ。たぶん。人相手にやったことないから知らないけど、俺だったら避けられるからだぶん避けられる。


 だから斬撃を飛ばすんじゃなくて空間を切り裂けるように──。




「着きましたよー。冒険者方。私は子供や老人を拾ってロゼルゲイツに戻ります。それでは、ご武運を」


 と、着いたようだな。


「じゃあ、俺たちはダンジョンに向かいますか。結界があとどれ程もつかわかりませんから駆け足で向かいましょう」


 ちなみに3人パーティーの内の一人、マイクさんが仕切ることにした。ゲイルさんとミレイヤさんの方がランクは高いけど基本、ソロで動いてるから一番パーティー慣れしてるマイクさんになったんだ。


「おそらく最初はダンジョンからあふれでてきたモンスターではなく、ダンジョンの手前の街道沿いにいるモンスターと鉢合わせると思います。なので打ち合わせ通りアーツィー君、お願いしますね」


「はい、わかりました」


 パーティーの人達は自分達の動きも実力も知ってるからいいとして、ソロ参加のゲイルさん、ミレイヤさん、そして俺の実力がわからないと連携が取り辛いからまずは実力を見せてくれって話。


 ん? さっそく出番かな? 街道沿いに前からオークが6体向かってきた。マイクさんが俺に確認する。


「アーツィー君、いけるかい?」


「問題ないです」


 マイクさん達はその場に立ち止まってもらって俺はオーク達に向かって駆け出した。




 遠くから見えたときはただのオークだと思ったけど、近づくにつれただのオークでないことがわかった。けど、こいつらも俺の敵じゃない。


 マイクさん達が後ろで何か叫んでいる。こいつらが普通の個体じゃないとか俺達も加勢するだとか言ってるんか?


「大丈夫です!! やれますッ!」


 マイクさん達に聞こえるように後ろを向いて大声で伝えてからオーク達に接敵する。








 俺に一番近いオークまでの距離──。










 ──あと、30メートル








 俺はロングソードを鞘から引き抜く。









 ──あと、20メートル








 俺は少し速度を落とし、昔に習得した特殊な歩行モードにする。











 ──あと、10メートル










 剣を構える。











 ──ゼロ













「なッ!!」

「んッ!!」

「でッ!!」

「やッ!!」

「ねェッ!!」

「んんんんんッ!!」










 6体のオーク達が順番に断末魔を上げながら死んでいく。











 俺はただ……縦一線、横一線、斜めに切り上げ一線、降り下ろし一線、突きから切り払い、オークが持っていた武器ごと胴体を一線しただけだ。













 そしてほぼ同時にオーク達の死体が地面に墜ちる。













 俺は左肘を曲げ、そこに剣を添えるように挟み込む。そして血と臓物が街道に広がり落ちていくのを眺めながら、俺は剣を拭った。






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