第30話 断末魔で始まる(そして断末魔で終わる)
「ココオオオオオオオォォォォーーアアアアァァァァァ!!!!」
雄叫びのような断末魔を上げながら上半身が縦に真っ二つに大きく割れ
辺り一面、血の雨が降る。
校舎裏の花壇の色とりどりの花が赤に染まる。
大柄な魔人は倒れ、地面に落ちた衝撃で魔人の死体はバラバラに砕け散り、四肢や臓器が転がり地面を汚す。
その目の前にいた男子生徒は返り血で全身が真っ赤だ。
目の前で起こったその光景を俺はすぐに理解ができなかった。
だってそうだろ?
魔人ってのは
魔力の量が違う。魔力の質が違う。純粋に筋肉量が違う。人間と比べて能力持ちが多い。
だからまずエンカウントしたら逃げろ。
それが常識。勝てる人間に助けを請う。この助けを求める人間ってのはAランク以上の冒険者か騎士隊殲滅班の隊員か騎士隊の各班長以上の人間だ。
彼らなら倒せる確立が高い。しかし、魔人のレベルにもよるが犠牲は出る。そして辺りは戦闘の余波によりボロボロになる。建物付近での戦闘ならまず周辺の建物は全壊し、ガレキの山となっていることだろう。
それがどうだ?
魔人を一人で、一撃で、無傷で、周囲を傷つけず、殺しきる。
返り血と魔人の肉片のみが辺りを汚すがそれだけだ。しかも──
──俺の目で捉えられない程の剣速でそれをこなした。
俺なら魔人一体くらいなら勝てるかもしれない。と、親父から言われたがこんな芸当は俺……いや、元騎士団長の親父でも不可能だろう。
毎日、親父の剣を見てきた俺が断言する。
あれ? なんだか意識が遠退く──。
「ん? ここは……」
知らない天井だ。ベッドの上? 周りがカーテンで仕切られている。
起き上がり、ベッドに腰掛けカーテンを開ける。
「おや、起きたのか」
白衣を羽織った女性が背もたれ付きの回転イスをギシつかせながら振り向く。女性の手にはページが
「あ、あの……俺──」
「──私はここの保険医でね。君は校舎裏で倒れていたそうだ。君と同じ新入生が君をここまで運んでくれた。あとで礼を言うといい。たしか名前はレルクロイ君だ。それともう元気ならホールに向かうといい。まだ入学式は始まってないから間に合うはず。あー、ホールの場所はここ出て左の通路を真っ直ぐ向かえば着くところだ」
「あ、ありがとうございます」
俺の質問に対してくいぎみで答えてくれた先生にお礼をいい、頭の中がまだ整理がついてないせいか帯剣ベルトを締めるにもたつく。
「ほら! 元気ならとっとと出てく出てく!」
「あ、は、はい! ありがとうございました!! 失礼します!」
追い出されるようにベッドに立て掛けられた自分の剣を持って保健室を出る。
「……ったく、入学式の朝っぱらから倒れるなよな。ゆっくり読めないじゃないか」
などと保健室のドア越しに愚痴が漏れてきた。
廊下で帯剣ベルトを締め直し、剣を提げ、俺は入学式に向かった。
廊下の窓から見える時計棟の時間を見るとどうやら俺が寝ていた時間は10分程みたいだ。一体なぜ……いやそれよりどうして俺に催眠魔法が掛かったのかが気になる。
剣しかない俺は特訓して魔法耐性を母さんに上げて貰ったから並みの魔法効果は効かないはず。
ということは上位の魔法か『能力』ということになる。
じゃあ、今度はなんで?
って言うと……!!
俺は気を失う前のことを思い出した。
そうだ!
魔人がいて、男子生徒がいて……それで!!
俺は早歩きであの校舎裏に向かう。
どこかわからないけど!
一旦、校舎の外に出てあの場所へ。あの血溜まりだ。恐らく今頃、教員か衛兵あたりが調べている頃だろう。
もしかしたらあの血の海を作り出した本人もいるかもしれない。いや、俺の直感だがいないだろうな。
さてさて、どうなっていることやら。魔人がいたんだ。しかもあの状態だ。大騒ぎになっていてもおかしくはないはず。……そう、ここの角を曲がったとこだ──。
?????
場所は……あっているはず。なんだけど……。
何もない。
あ、いや、何もないことは無いんだけど、花壇とかはあるよ。そりゃもちろん。
無いのは痕跡。
あれだけの魔人の血と
?????
それは俺が夢を見ていただけだったってこと?
いや、違う。
俺は『校舎裏で倒れていた』とあの保険医は言っていた。つまり俺が男子生徒を追って校舎裏まで来ていたということになる。
そこで倒れて夢を見せられていたのかはたまた『見られたから』眠らされたのかはあの男子生徒を見つける必要があるな。
まぁ、見つけられたとしても証拠が何もないんじゃ俺が見た幻か夢か現実かなんて証明しようがないんだけどさ。
けど、あの男子生徒を見つけられれば何かの手掛かりになるはずだ。特徴はたしか──
『日本刀』を使っていたはずだ。
俺はその場をあとにし、入学式に出て自分のクラスの適当な席に着いた。席は自由席らしい。みんな適当に座ってる。
入学式の時に見回したけど日本刀なんてもん差してるやつなんていなかったな。
つっても、日本刀って武器自体珍しいし、扱えるやつなんて一つの学園に一人いるかいないかのホントに極少数しかいない。
だから、まぁ、この広い学園の中からすぐに見つかるとは露ほどにも思ってないけどな。
「隣、空いてる?」
「ん? ああ、いいよ」
隣の席に誰か着いた。挨拶でもするか。そう思い、横を向くとそこには『日本刀』を携えた男子生徒がいた。
「僕の名前はレルクロイ・ハークロイツ。呼び方はレルでいいよ。これからよろしくね」
「……ぁ、ああ、よろしく。俺はアーツィー・ヘルモント。アーツィーでいい。よろしくな、レル。……ん? レルクロイ……あ! レルってさ、もしかして朝、俺を保健室に運んでくれた人?」
「ん? ああ! 校舎裏で倒れた人。アーツィー君か」
「そうそう。ありがとう、レル。ところで……あ、いや、何でもない。あはははは」
「?」
校舎裏のことを聞こうと思ったけどやめとこう。どうせはぐらかされる。
「ヘルモント……うーん。どっかで聞いたことあるような……無いような……」
「元騎士団長のアレス・ヘルモントって聞いたことない?」
「あ! もしかして」
「そ、俺の親父」
「へー、スゴいねー!! 憧れるなぁ」
「ハハッ。他に母さんと俺の兄弟も聞いたことある名前だと思うよ。つっても、俺はあんま凄くないんだ。記録っていう記録も去年の剣術大会で3位の記録しかないんだよ」
「へ!? それもスゴいじゃん!!」
「いやいや、魔法無しの剣のみの大会で3位だよ、3位。全然だよ全然。魔法が使えない俺が元騎士団長の親父に剣を教えて貰って、それで3位までしかいかなかったってことだからね。俺の環境なら普通、優勝できて当たり前じゃないか?」
「いやいや、そんなことないって! それでも3位ってのは才能とそれ相応の努力が必要なことなんだよ。だからアーツィー君はスゴいよ!!」
「そ、そうかなぁ」
「そうだよ!!」
ここまで面と向かって褒めてくれるとうれしいな。
今まで褒められたことあったけどなんでこう嬉しさが違うんだろ?
……家族からは褒められた時は俺より凄い実績のある人達だったせいか嫌味にしか聞こえなくて、使用人からはおべっかな気がして、他の貴族からは取り入るためにただ言ってるだけな気がしてたんだ。
ただのクラスメイトの純粋な称賛だからうれしいのか。校舎裏の件は別にしてレルとは仲良くやれそうだ。
「ありがとな」
「?」
「おっと、先生来たみたいだ」
──この時の俺はまだ確信は無かった。
俺の冒険者活動中に偶然レルを見つけ、レルの剣速を知るまでは──。
───カチンッ
「もっとシテエエエエエエェェェェェ!!!!!!」
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