第20話 『赤い流星』VS『組織の白い化物』(機体に乗ってないよ? 生身だよ?)

「デュア・ヘルゲン! 出撃する!」


 ヘルゲンは地面を蹴り、飛翔する。蹴られた地面は大きくえぐられ、周囲の空気や地面に振動を与える。

 ある程度高く空に跳んだヘルゲンは魔法で体を浮かしてその場で体を固定する。手に持った大口径の大型ライフルを構え、スコープを覗き込む。


「最初に私の予測より相手が早く動いてくれたお陰でこの位置から狙えるとはな……」


 ヘルゲンは呟きながらライフルと弾丸に強化・消音・不可視の魔法を掛けた。


「一撃で仕留める」


 深く息を吸い込み、ゆっくり吐き出す。そしてタイミングを測り、『白い化物』が地面にいるヘルゲンの隊に攻撃をする瞬間を狙って指にかけたトリガーを絞り込んだ。


「終わりだ」


 ヘルゲンはそう思った。実際終わるはずだった。だが、結果は違う。ヘルゲンの予想だにしなかった回答がそこにあった。

 ライフルを撃った反動でブレたスコープを覗き直す。


「む、無傷だと!? 消音と不可視の魔法で少し威力が落ちたか……。いや、だとしてもだ。無傷はあり得ない。やはり情報通りの化物ということか。えぇい、やむを得ない。接近戦で叩く!」


 ヘルゲンはライフルをアイテムボックスに投げ入れて背中の剣を二本抜き、得意な魔法『生成投石ストーン』を大量に作り出し、射出した。そしてヘルゲンはその射出したストーンに追従する。


 その攻撃は『流星群』のようで、ヘルゲンの姿は一点だけ『赤く』その二つ名を体現しているようだった。














 ──『赤い流星』









───


「いっったあぁーい! ったく、どこの誰よ! 何すんのよ!」


 『エーティーフィールド』展開時に衝撃が届くってどんな威力してんのよ! ったく! 私じゃなかったら死んでるわよ!!

 彼女に飛来してくる十数個のストーンを見ながら心の中で悪態をつく。


「とりあえず、ムカつくあれを撃ち落とす! ……マルチロックオン。……『く・だ・け・ろ!!』」


 彼女のテキトーな掛け声と共に放たれた複数の稲妻の閃光。それは彼女に飛来して来るある一つだけを除き、全てに着弾する。着弾後に爆発が起こり、ストーンが粉微塵になる。


「『赤いやつ』に避けられた?」


 砂煙となったストーンが視界を遮り、新たなストーンが砂煙を裂いて彼女に襲い掛かる。そして今度は一つ一つが時間差で彼女に降り注ぐ。


「はぁ~、めんどくさいわね。『エアダストフィールド』」


 狙いを定めて撃ち落とす時間は無い。そう判断した彼女は腰かけてたホウキを手に持ち、ホウキと自身に強化魔法を掛けながら野球のバッティングの様な構えをとる。そして──。


「チェストオォー!! ほいさー!! ふんすぅーーー! ……──!!」


 テキトーな掛け声でストーンにフルスイングをぶちかましていく。ホウキに当たった直径3メートル超えのストーン達は砕け散り、彼女は破片を砂煙の中へ打ち返していった。


 徐々にストーンが飛んで来るタイミングが早くなり、彼女のスイングスピードも徐々に早くなる。ストーンのスピードの速度自体も人間の目で追うのがやっとの速度になり、彼女は人間なれした速度でスイングするようになっていた。

 当然、その様子……その状況を作り出した本人はこう口にせざるおえない。


「えぇい、化物め……」


「どっちが化物よ!! ってか、私は人間よ!!」


「うそをつくな! その動き、人間には真似できまい」


「魔法よ!! 強化魔法!!」


「ふっ、それこそ嘘だな。強化魔法ごときで人間がホウキで私のを砕くことができるはずがないだろう?」


「それが出来るのが私よ!!」


 ヘルゲンの言うことはもっともだ。強化魔法を使ったからといってホウキで直径3メートルの石を叩いて粉砕することなんてできない。また速度をもったそんな大きな石が連射されてくるのをいとも容易たやすくホウキで叩き割ることもおかしい。ましてやヘルゲンの作り出したは金属並みの硬度を持っている。

 それがどうだ? 人間がホウキでストーンを砕く? 異常だ。その認識が普通。それが常識。だが、彼女の強化魔法は常識では測れない領域にあった。


 ヘルゲンの攻撃がむ。彼女の周囲はストーンを砕いた破片や粉で砂煙となり、視界がほぼ見えなくなっていた。


 そんな中、彼女はあることに気づいてしまった──。















 ──ワンピースを着た今、足を開いて空を飛んでいる。……ってことは。




















 ──下から丸見えじゃない!!











 と、思った彼女は赤面しながら両ひざを内股にし、左手で前を抑え、右手でホウキを持ったまま後ろを抑えて素早くしゃがみ込む。

 すると彼女の頭の上で何かが通り過ぎた音がした。って、あれ? 今、この砂煙で下からも見えないんじゃない? 私から下どころか前も見えないし……。あー、焦った焦ったぁー。


 彼女は立ち上がり(空中だから足を伸ばし?)、ホウキを横一閃に振るい、その風圧で目の前の砂煙を散らして敵を見つける。

 もちろん、彼女の下の砂煙は散らさないよう加減しているから下からは見えてない。……と彼女は思っている。


「みぃーつけた」


「化物め……」


「いや、だから化物じゃないって言ってるでしょーが!!」




──




 『白い化物』は情報以上の化物だということか。


 ヘルゲンは攻撃を止めてサングラス越しに砂煙の中の敵を目で捕捉し、出方をうかがう。


 ちなみにヘルゲンのサングラスはただのサングラスではない。地形感知・熱源感知・魔力感知・モーション感知等がふんだんに搭載されており、視界不良の中でも敵の位置・動き・ポーズも正確に見え、地形さえ把握できる代物しろものである。

 当然、サングラス本来の太陽等の強い光をある程度遮断してくれて目に粉塵等が入りにくくなっている性能は健在だ。


 ふむ、そこから動く様子はない……。これは誘われていると視るべきか、こちらの策が上手くいっていると視るべきか。いや、これは考えても仕方がない。なら、こちらからうって出る!


 ヘルゲンは拳大こぶしだいの大きさのストーンを4つ作りその場で固定し、そしてヘルゲンが化物の後ろに回り込み、両手に持った剣を大きく振りかぶったのちに間隔をズラしてストーンを発射する。


 まずは両ひざを狙って2つ発射! 次に両ひじに2つ!! そして私がやつの頭を切り裂く!!!
















 ──なん……だと!?















 避けただと!? バカな。あり得ん!! やつは私の姿を捉えていなかったはずだ。それが一体どうして避けられた? まずい、状況がわからん。いったん距離を置かなければ。


 ヘルゲンは化物から一定の距離を離れた時、ヘルゲンの身に強烈な風圧が掛かる。そしてヘルゲンは気付いた。何が起こったのかを……いや、化物が何をしたのかを。



 の達人は気の流れや空気の流れ、気配・殺気というものを肌で感じとって目を瞑っていても攻撃を避けられる。……と聞いたことがある。で、あればとは一切関係ない魔法使いである目の前の化物は?


 『エアダストフィールド』……それは家の掃除をする際、魔法使いなら誰でも使う生活魔法である。空気中の埃が服に付かないよう自身の周りに空気の壁を作るだけの魔法。埃より重いものは服に付くし汚れも付く。

 もっとも彼女の場合、ストーンを砕いた時に発生する砂煙や破片が服に付かないようにするためなのだがヘルゲンはそうは考えていなかった。



 エアダストフィールドで自身の周りに空気の壁を作り、その空気の揺らぎを感じとって攻撃を避けた。ということであり、それはつまり、やつは魔法使いでありながら武の達人の真似事をしたということに他ならない。なんという……。


「みぃーつけた」


 やつと目があった私は思わず何度も口にしていることを再度、口に出してしまう。いや、目の前の“これ”に今の動きをされたら思わず言ってしまうのは道理。


「化物め……」


「いや、だから化物じゃないって言ってるでしょーが!!」


 まだ言うか!! 化物め!!




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