第19話 『赤い流星』(彗星じゃないよ。彗星じゃないよ)

「あースカッとした。よし! もうひとふんばりしますかねぇ。サーチ! ……って、あれ? もう私いらなそうなんだけど……。まぁ、いいや。みんなが敵を駆逐するまで魔力こねて遊んでよーっと」


 彼女は魔力を具現化させて粘土細工のような物を作り、遊びながら味方が傷を負ったらすぐさま回復させ、傷を付けた敵を粘土細工のような魔力の塊をぶつけてさせていく。

 彼女が作った魔力の塊はその塊の中に物理的な物が何も入らない程に密に……そう、触れた物を粉微塵にする程に超高密度の魔力の塊だった。物理的な物に例えるなら大砲。金属の塊。それが魔力だけで出来ていると考えてもらっていい。


「私が頑張り過ぎるとみんなの仕事なくなっちゃうし、それになによりもう3ヶ所目だから疲れてきちゃったのよねぇ」


 彼女はぶつくさ言いながらも敵と仲間の動きを見て的確に援護していた。援護射撃の破壊力はやりすぎとまで組織の人間は感じていたが……。


 何発目かの援護射撃をするタイミングで何かが飛来して来て、彼女の後頭部に当たった。


「いっったあぁーい! ったく、どこの誰よ! 何すんのよ!」


 彼女は受けた。あー、あっぶなぁーい。エーティーフィールド切り忘れてたから無傷で済んだで助かったー。……うん、汚れてもないわね。よかったよかった。


 攻撃を受けた方向を向くと十数個の飛来石ストーンが飛んできていた。どのストーンも直径1メートル以上の大物でその中でも一際大きいサイズで直径5メートルのストーンだ。

 そしてその十数個のストーンとストーンの間を移動しながら彼女に近付いてくる『赤い何か』がいた──。










───


 -ナザル森林戦闘前。新魔王軍・ナザル臨時司令室にて。


「……──アストフィア王国に攻め入るが敵は国ではなく『組織』だ。そこをはき違えるな。では各自作戦を開始しろ」


 ナザル臨時司令室という名ではあるが少し広いテントのことである。中は通信機器とオペレーター数名、テント中央に大きいテーブル、その上には地図が広げてあり、赤く光る点が地図上を動いていた。


 そこで通信具を使って指示を出していた全身真っ赤な軍服を着てサングラスを掛けた魔人の男がいる。そしてその後ろで黒い軍服を着た別の魔人の男がいた。


「ヘルゲン少佐、今回の作戦上手くいくと良いですね」


「ああ、そうだな。新魔王軍の初陣だから勝利で収めたいところだ。だが、気がかりなことがある」


「『マルチデリーター』ですかな?」


「それもあるが『爆裂業雷の魔女』と呼ばれる魔法使いがいるらしい。情報によればやつは『全属性の魔法が使える』と、ある。誇張かもしれん。だが、それがもし本当なら厄介な相手になる」


「全属性……ですか。……なるほど、それは厄介ですね。ただ、魔力をどれ程持っているかによって脅威度は変わりますな」


「そうだ。そこなんだ。組織のナンバー2といわれているやつだ。低くはなかろう。だが、やつとて人間。限界はあるはず。今作戦でやつを始末できれば良いが、出来ずともやつの限界を測れれば上出来といえよう。無論、作戦は完遂した上で、だ」


「ヘルゲン少佐はそこまで計算した上で作戦を立てていらしたんですね。敬服致します」


「ラル大尉、君ももう上に立つ者になる。いずれ君も作戦立て、指揮することになるだろう。その時までにはここまで思考出来るようにしておけ」


「ハッ! 承知しました! このラル大尉、肝にめいじておきます!」




「アルファ! 敵を目視で確認! 行動に移ります!」


 オペレーターの一人がヘルゲン少佐に報告する。


「む、早いな」


「それもそうかと。アルファチームはあのゼル軍曹がいるチームですから」


「だとしてもだ。私の想定より──「イプシロン! 敵を確認! 行動に移ります」」


「ゼータ! 同様!」


「ガンマ! 同じく!」


「デルタ! 同様!」


「ベータ! 敵を目視で確認! 行動に移ります」



「ほう、なるほど。これをどうみる? ラル大尉」


「ハッ。ヘルゲン少佐の『予測より早く接敵した』ということでしょうか? で、あれば『我々の隊』が少佐の予測より早く動いたということだと思われます。なにせ新魔王軍の設立以降、初の大規模作戦でみな士気が高く、やる気に満ち溢れていますからな。私はそう思います」


「30点だ。ラル大尉。その回答では指揮官になるのは当分先の話になりそうだ」


「!! な、なぜでしょうか!? い、一体、私の何が悪かったのでしょうか!?」


「ふむ、そのくって掛かる姿勢は良し。……ラル大尉の回答は今回の作戦でなければ一概に否定は出来ない。だから30点だ。だが、今回は違う。地図を見たまえ」


「……ッ!!」


「気付いたか」


「はい。接敵地点が想定よりだいぶ我々のテントの近くにあります」


「そうだ。つまり我々の想定より『敵の動きが早い』ということだ。情報通りの敵人数・組み合わせだが、それぞれの敵の動く速度が我々の予測より早いということだ。地図上の情報は地形と我々の位置を把握できるが、敵の位置は現場からの報告でしか把握できない。そこを見落としていたな。ラル大尉」


「ハッ! 申し訳ありません。勉強不足でした。必ずや次に活かしてみせます」


「その意気だ。ラル大尉。ではこちらはどうすればいいと思う?」


「……単純に敵に合わせ『我々の作戦行動を早める』ではありますまいな。……我々の隊早めてしまうと他の隊と作戦のタイミングが噛み合わなくなってしまう。つまり敵の行動を遅らせる必要がありますな。この場合、作戦の遅延……ッ!! ここでプランDでありますか!?」


「正解だ。……各位、プランDに作戦を変更せよ!」



「「「こちらHQ、……──」」」



 ヘルゲン少佐の指示によりオペレーターが一斉に各小隊長に指示を出す。



「ラル大尉。我が隊が今作戦で成すのはなんだ? 言ってみたまえ」


「ハッ! 我々の隊が今作戦で成すのは『できるだけ敵を引き付け疲弊させること。始末できるのであれば始末する』で、あります!」


「そうだ。が我が隊に求められているのは『時間稼ぎ』だ。我ら新魔王軍が勝利するために私の隊の勝利は必要ない。無論、勝てるなら勝つに越したことはないが……。今回はその限りではないだろう」


「マルチデリーター。そして先に懸念しておられた『爆裂業雷の魔女』ですかな?」


「そう言うことだ。我々はその二人を戦場に釘付けにせねばならん。今回、の勝利のカギを握っているはハーゲンドルト・トバイツェ少佐率いる隊──通称『ハト』だ。『ハト』にはあのエル・ハルトマン少尉がいる。彼らに花を持たせるのが我々の役目だ」









 ──『ハト』はおそらく『マメデッポウ』をくらってます。








「あのハルトマン少尉でありますか!? 『ハト』の中でも特段秀でた戦闘能力を持つギア使いの彼女のことですか?」


「ああ。『ハト』自体は少数精鋭舞台だが、トバイツェ少佐いわく、今作戦の『ハト』はより人数を絞っていくそうだ」


「!! トバイツェ少佐殿はそこまで今回の作戦に賭けておられるのですか!?」


「らしいな。私はトバイツェ少佐には勝利して欲しいのだよ。だから我が隊はなんとしても任務を遂行せねばならん」


「私も賛同致します!」






 ──その『ハト』達、おそらく『マメデッポウ』くらってます。








「トバイツェ少佐の勝利のために、新魔王・ジーク様に勝利を」


「ジーク様に勝利を」









 ──作戦開始から数時間が経過し、作戦段階が次へと移る。


「そろそろ頃合いだろう。……各位、作戦段階をフェーズ2へ移行せよ! 繰り返す作戦段階をフェーズ2へ移行せよ!」


 オペレーター達が各小隊長に指示を出す。


「ここまでは上手くいっておられますな。作戦の出鼻は狂わされましたが少佐殿の采配によりフェーズ1が見事滞りなく終了しましたな。これならフェーズ2が効果的に働きますな」


「当然だ。本来、時間稼ぎが我々の任務だが、敵を倒せるのなら『敵を倒してしまっても構わない』のだろう」



 ヘルゲン少佐は不敵な笑みを浮かべたその時、オペレーターが慌てた様子で報告し始める。



「にゅ、入伝!! ウルフィリア研究基地より入伝!! 『組織の白い化物』により基地が壊滅。また施設の最高傑作と正面からやり合い、無傷で『組織の白い化物』が勝利した。との報告が!!」


「なに、それは本当か!? あれに無傷で勝利したと!?」


「はい! そしてその『組織の白い化け物』は空間転移でどこかへ転移した模様。転移先は不明。貴殿の隊も気を付けたし。とのこと」


「不味いな。そんな化物が今こちらにこられでもしたら──」















 ──ドォオオオーーーン!!!











 地響きと共に爆音が鳴り響く。



「な、なんだ!? ……ッ! まさか!!」


「アルファ! 空からの攻撃を受け、被害甚大!!」


「ベータ! 同様!!」


「ガンマ! 同じく!」


「デルタ! 同様!」


「イプシロン! 同じく!」


「ゼータ! 同じく!」




「同時空撃だと!? ……アルファ! 回線を直接私に繋げ!!」


「はい!」


「私だ、アルファ。敵の詳細を求む!」


「ハッ! 敵は一体! 全身が真っ白い服を着た魔法使い! やつの魔法は化物級です! 応援願──ドォオオオーーーン──ザザッ──ツー」


「『白い化物』だと!? えぇい、このタイミングでやつが来るか。ならば仕方ない。……私が出る!! 各位、私がやつの相手をするまで回避に専念せよ!」


「ヘルゲン少佐みずから出撃されるのですか!?」


「ああ、私がやつの相手をしている間の指揮はラル大尉、君に任せる。フェーズ2の作戦を遂行せよ! ……大丈夫だ。君ならやれる」


「ハッ! 必ずやその期待に応えて見せましょう!」





 ヘルゲン少佐は武器が置いてあるテントに行き、背中に同じ種類の剣を二本差し、腰の左右にはまた別の種類の剣を二本差す。腰の後ろにはヘルゲン専用に改良された銃を装備。他の武器やアイテムも動きに邪魔にならない所に装備した。最後に大口径の大型ライフルを手に持ち外に出る。そしてオペレーターに無線で出撃合図を出す。















「デュア・ヘルゲン! 出撃する!」







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