第14話 口達者な奴だと聞いたが、喋る前にはお前はもう……(死んでいる! って言わせんな!)

 僕はさっそくサリなんちゃらがいる北西の教会跡地に向かう。あー、徒歩で行くのだるいなぁ。ハンスさんは忙しそうだし、他の転移持ちの人も今回の作戦で忙しいようだし。そしてなにより『多重万能マルチ能力』を持っている組織のトップの送り出しなんて必要ないと思われてそうだしなぁ。

 国をまたぐぐらい本格的に遠ければハンスさんが協力してくれるけど徒歩2、3時間の距離は手を貸してくれない。僕、マルチ能力なんてないんだけど。哀しいなぁ。この現実。

 ま、仕方ない。マルチ能力も無ければ神速の剣なんて無いなんてことがバレれば僕は組織のトップじゃなくなるかもしれないし、仕事もらえないかもしれない。収入が無ければ学園に通えなくなって卒業出来なくなる。もしそんなことになったら僕は騎士という公務員になれなくなる。

 はぁ、世知辛いなぁ。……と、心の中で愚痴ってみたものの、あと二年の辛抱だ。



 とかなんとか考えながら歩いてれば着かないかなぁって思ってたんだけどまだ街中……。こういう時にテイマーは楽でいいよな。ああ、そうだ、今住んでる僕ん家ペット禁止じゃん。テイム能力あってもそもそも無理じゃん。

 あー、歩いて行くのが億劫すぎてどーにもならないことか、どーでもいいことしか頭に浮かばねぇ。



「お、そこの『日本刀』を差してるにぃちゃん。ちょい待ち」


 声を掛けられたので振り返ると作業着にエプロンを着た女の人がいた。その人の頭の上にあるお店の看板を見るとどうやら彼女は武器屋の店員さんのようだ。店員というより鍛冶職人かな。普段、この通りを使っていないからこの店は初めて見たかも。

 そんな状況把握が終わったくらいの僕に彼女が話を始める。


「あたしはここの鍛冶職人。……つっても、まだオヤジの見習いで勉強中なんだけどね。で、あたしがにぃちゃんに話し掛けたのはあたしが『日本刀』専門の鍛冶職人だからさ」


 それを聞いた僕は体ごと振り返り、足のおもむく先は武器屋に決まった。ミッション行く前にちょっとだけだからいいよね? ね?


「『日本刀』見せて欲しいんですけど」


「あいよ! 来な。にぃちゃん」



 そう言われた僕はホイホイと着いていく。だって『日本刀』打てる職人なんてなかなかいないよ? 

 『日本刀』なんてすぐ折れるし、ちょっとでもこぼれするとただのナマクラになるから使いこなす人間がいない。しかも『日本刀』なんて打てる職人もいない。

 つまり作る職人も使う人も高度な技術が必要になるから、ま、需要と供給が極端に低くなるって話。



「!! これは!」


 僕は思わず口に出てしまった。だって数が多いんだもん。店先からは見えない奥の棚に飾ってあった日本刀はどれも芸術品のような綺麗なをしていた。


「どう? 作った作品」


「……………………………………」


「……?」


「……………………………………」


「えっと……。あの~」


「……………………………………」


「ど、どう……ですか?」


 僕はしばらく見惚れていて、どうやら僕に対して店員さんが感想を求めてきていたようだ。「どう?」って聞かれりゃあ、そりゃあ、まぁ、普通にこう答えるよな。

 店員さんと目を合わせながら僕は素直な感想を言う。



「……美しい」


「へ? あ、はい! え? それって……。あっ、今、あたし化粧とかしーー」


「この日本刀たち」


「え? あ、ああ、あはは。……ソウ、デスヨネ」


「特にこの刀身の色合いが良い! この透き通る淡い青色したこの日本刀とか! まるで氷を凝縮して出来ているみたいだ。金属ではこの色合いは不可能だと思うんですけど。これは、一体……」


 僕は思わず興奮して、まくし立ててしゃべってしまった。だって普通、鉄とか鋼とか金属使うじゃん。他に使うもんつえばモンスターの爪とか牙とかの素材しかないじゃん。何使ったらこんな綺麗な色出せるんだ? ってなるじゃん! なぁ?


「そう! そうなんよ! にぃちゃんわかってるねぇ~。こいつぁはあたしの自信作の中のうちの一本よ。金属でもモンスターの素材でもなく、アクリウム結晶を使ってるからね」


「結晶!?」


「そ! 結晶、結晶。アクリウム結晶つー結晶は透明度の高い石の塊みたいなものなのよ。で、そのアクリウム結晶を剣の形になるまで『圧縮』するの。大きすぎるのは少し削って細くしてから『圧縮』するんだけどね。ついでに塗料を少し塗って薄いアクリウムと塗料を挟むようにして『圧縮』するとが付くのよ」


「なるほど。それで日本刀の形になるまで圧縮する……と」


「そうそう! でも、結晶だから当然もろいわ。にぃちゃんのその腰に提げてる日本刀よりも、もっとずっと脆いわよ。だからつばぜり合いなんてことしようものなら、そく折れるわ」


「性能より見た目重視……最高ですね!」


「でしょ! でも、あたしのは切れ味だけはそんじょそこらのナマクラより遥かに良いわよ!」


 興奮した彼女は調子に乗って店にある他の剣を指差しながら熱弁する。が、彼女の後ろに鍛冶職人の格好をしたおっちゃんがいた。おそらく彼女の親父さんだろう。僕は事の成り行きを黙って見ていることにした。


「ほぉーう。おめぇ、いつから俺の剣をナマクラ呼ばわり出来るようになったんだぁ?」


「………………」


「なぁ? 答えてみろよ。ナディー」


「は、ハハハ……。お、オヤジ……ち、違うんだ」


「あぁん? 何が違うんだ? この……バカ娘」


「イッッッてええぇぇえーーー!!」


 バカ娘ことナディーさんはおやっさんのげんこつをくらい、涙を浮かべながらものすごく痛そうにしている。うあぁ、今の痛そう。ゴツッってものっそい鈍い音したもん。


「なにすんだ! このバカオヤジ!」


「あぁあん! 親に向かってバカとはなんだ! バカタレ!」


「いっったあぁぁーーー!! またおんなじとこ殴りやがってこのバカオヤジ!」


「また言いやがったなぁ。 この……--」


「フッ、アハハハハハ! アハハ、す、すいません。笑ってしまい」


 僕は二人の終わりそうに無い父娘おやこ喧嘩を見て笑ってしまった。


「ん? おいナディー、お客さんか?」


「ん? あい、そうだけど」


「……フンッ!!!」


「あいたァァアーーー!!」


 おやっさんのげんこつがもう一発ナディーの頭にヒットした。


「すいやせん。お客さんがいるなんて露知らず、お見苦しいところをお見せして……」


「あー、いえいえ。お気になさらず」


「いえ、そう言う訳には……。あ! お客さん、『日本刀』使いなんですね? なら、お詫びにここに飾ってある『日本刀』……一本ただでお譲り致しますよ?」


「え!? ちょっ、オヤジ!」


「あぁん!? もう一発いっとくか?」


 おやっさんは握りこぶしを作り、ナディーを恐喝する。


「あ、ああ、いいですいいです。どうぞ、お好きなやつを一本持ってって下せぇ」


「えっ、えっと……ほんとに良いんですか?」


 僕にとっては嬉しいことだが、本当に良いんだろうか迷ってしまい、念のため聞いてみる。もし、貰えるのなら貰っちまおう。この中から好きなの無料とは最高の店だな。おやっさんの太っ腹!


「はい、いいですぜ。なんせここに飾ってある『日本刀』はこのバカ娘のナディーが作ったものなんで、値段を付けて売れる程の剣なんて置いてありゃあしませんから。耐久性が極端に低くて戦闘には使えない、ただの鑑賞用の剣なんてうちに置いとく必要はありませんですし。うちはもっぱらの実用性重視の剣を売りにしてる店なんで、どうぞそんな粗末な剣でも良ければ持ってって下せー」


「なっ! あたしの剣が実用性に欠けてる粗末な剣って言ってんのか! オヤジ!」


 あ、バカオヤジって言ったら殴られると思ってバカを取った。


「耐久性が無さすぎんだよ! おめぇの剣は! 『日本刀』はただでさえ耐久性ねぇのになんでもっと耐久性低くしてんだよ。ったく。もし戦闘中に折れたらどーすんだ? すぐ折れちまう剣なんてお粗末過ぎるだろーが」


「ハッ! オヤジは『日本刀』の良さをなあぁんも分かっちゃいない! 『日本刀』はな、『美しさ』と『切れ味』があればいいんだよ! 耐久性なんてもともと低いんだ! なら、もっと低くしても変わんないんだよ!」


 うんうん、そうそう、『切れ味』も『耐久性』も無くていいんだよ。僕は。ただ『美し』ければ。だって、刀身見せるだけだもん。


「ナディー、うちは芸術館でもなければ美術館でもないただの武器屋だ。武器に『美しさ』はいらねぇーんだよ。『実用性』だけあればいいんだ」


「実用性? じゃあ、あの無駄に凝った装飾とか無駄にペイントとかしてるのはなに?」


「あ、あー。ソレハダナァ……。そ、そう! カッコ良いからだ!」


「ハァ? カッコ良いからって何? オヤジも実用性関係ないじゃん!」


「じ、実用性ナラアルゾ! そ、そればだなぁ……。あ! そう! 剣がカッコ良いと持ち主のモチベーションが上がる! って言う実用性がな!」


「それならあたしも剣が『美し』ければモチベーションが上がるわよ!」


 アハハ……。父娘だなぁ。どっちも『見た目』にこだわってるじゃん。というか、ナディーさんおやっさんを言い負かして来てるじゃん。


「グッ。で、でもなぁ、百歩譲って剣に『美しさ』が必要なのは認めよう。だが、耐久性が無さすぎる剣は俺は認めん!」


「うぐ……。で、でも、き、切れ味があるし!」


「うるさい! 黙れ! お客さんの目の前だろうが!」


「いったあーーーい!!」


 またぶん殴ってらぁ。痛そ。ってか言い負けそうになった今のタイミングで殴るとかおやっさん……。


「で? お客さん。なにかいいのありやしたか? 本当に持って行って良いですよ」


「あ、じゃあ、これで」


 僕はあの淡い青色の刀身をした日本刀を指差す。うん、やっぱこれがいいな。なんか氷属性っぽいのがいいね。

















 --この剣がのちの『氷結の魔剣』と呼ばれるものである。実際は耐久性が無いただ見た目が綺麗な剣である。




 あれ? サブタイトル回収してない……。まぁ、こんなこともあるさ。












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