第13話 僕の剣は人を斬るためのものじゃない。……悪を斬るためのものだ。(だから斬ってねーって!)

 今、僕達(僕、シエラ、ノルン)はギルドのフードコーナーに来て昼飯を食い終わり本題っぽいことを切り出してきた。


「なぉ、レルはどうしてそんなに強いんだ? あのランキングは嘘は付かない。ってか、付けないもんだから……。なあ、ノルン」


「……うん」


 シエラさんがぶっこんだ質問をしてきた。いやいや、ここ一般人もいるんだよ? って、まぁ、こんなよくいる冒険者パーティーの組み合わせみたいな僕らの会話を盗み聞きするやからはいないか。……内容的にも敵対組織に聞かれても僕的には問題ないけど一応お茶を濁そう。


「どうしてって聞かれましても……あー、ただ敵を斬ってきただけですし。……ハハハ」


 僕は申し訳なさそうな顔しながら頬をかく。だが、この回答では相手は満足しないだろう。


「もともと強かったって話で、仕事をしてたら結果が勝手についてきた。そういう極一部の天才なのか……レルは。……よし、なら、質問を変えよう。あたしらは強くなりたいんだ。どうすれば強くなれる?」


「……うん、お願い。どうすれば強くなれる?」


 二人して真剣な眼差しで僕に聞いてきた。この手の人らはうん、まぁ、よくいる。強くなりたい……か。まぁ、いつものようにテキトーなことでも言うか。

 僕は食後のカフェオレを一口飲み、間をあけてから口を開く。あー、ここのカフェオレうめぇ。この後味あとあじが癖になる。


「まぁ、強くなりたいなら……『人間を努力をすること』かな。……あ、間違っても『人間を』下さいね。あくまで超える努力をすることに意味があるので」


 と、意味深長なような……実際はただ意味不明のセリフを言う。僕以外の人がこのセリフを言ったら「は? 何言ってんのおまえ」とツッコまれて恥ずかしい思いをするに違いない。

 だが、僕は臆することなく真剣な表情をしながら言い放ったあと、また一口カフェオレを飲む。あー、うめぇ。


「なるほどなぁ~。さすがはトップ。言葉の重みが違うわぁ」


「……うん、すごい」


 二人は目を輝かせながら僕の意味不明のセリフに感心する。本当になんかそれっぽいことを言ってるだけで中身なんて無いだけどなぁ。二人が喜んでくれてるみたいだし、まぁ、いいか。

 僕は調子に乗って目を閉じ、イスの背もたれに背中を預け、足を組んで強者っぽい態度をとる。あ、いや、これじゃあ、強者っぽいっていうか偉そうな態度だな。これ。反応がなんか面白いし、さらにそれっぽいことでも言おうかな。


「人間であることをやめれば簡単に力が手に入ります。だけどその力は必ず人に害をす力です。もし、そうなれば……僕が斬ります」


 二人は固唾を呑み、僕はカフェオレを飲む。おっと、残念、最後の一口だ。うまかったからもっと飲みたかったのになぁ。……うん、セリフも最後にしよう。

 僕はカフェオレが入っていたカップを置き、代わりに空いているイスに立て掛けておいた日本刀を手に持つ。


「僕の剣は人を斬るためのものじゃない。……悪を斬るためだ。だからシエラさんとノルンさんは悪にならないで下さい」


 最後のセリフを言った僕は席を立ち、剣を腰に差してからギルドの受付に向かう。飯も食い終わったし、決めゼリフも言えたし、もうサリなんちゃらの始末に行こう。ここ(国)の外の教会廃屋だっけ? 今から行くと帰ってくるのは夜くらいかな。


 








 レルが立ち去った後のシエラとノルンは……--。



「人外の力を手にしてもレルには勝てない……ということか」

 

「……あの人はきっと、を斬ったことがあると思う」




 無いです。




「ああ、あのセリフ、言葉に重みがあったからな。きっと何人も……いや、何十人も斬ってきたんだな」


「……うん、きっとそう」




 無いです。




「それと言葉に悲しみも含まれていた。だから、おそらく、したしい人も……」


「……うん。シエラの観察眼は確かだからきっとそう。今まで大きく外したことなんてないし」




 カフェオレが最後の一口だった悲しみしか無い。




「悪なら斬るって簡単に言ってたけど、どんな相手でも殺せる自信がなきゃあんなハッキリ言えないよな」


「……うん。でも、それを裏付けられる程の実力がある。だってミッション失敗率は0%ゼロパーだもん」


「な、なんだって!?」


「だから不動のトップ」


「さすがとしか言いようがないな」


「……うん。比べられる相手がこの世界にいないくらい強い。と、思う」


「ああ、あたしもそう思ったよ。面と向かって話してわかった。圧倒的強者ってやつがな」


「……うん」


「けど、話してよかったな」


「うん。強くなるためのアドバイスをくれた」


「ああ、『人をやめずに人を超えろ』だったか?」


「……うん。心に響いた」


「だな」





 テキトーなセリフなんだが?












 そしてその周りで盗み聞いていた組織の他の人の反応は……--。



「人間も悪魔も……スライムもドラゴンも……マルチにとっては等しく相手って訳か」


「ああ、だろうな。なんでも攻撃系の能力を使わずにあの剣で、やつの神速の剣だけで悪魔もドラゴンもって話だ」



 斬ってないです。



「!? そ、それって、つまり……」


「フッ、ああ、そうだ。つまり悪魔やドラゴン相手にハンデを与えて勝ったってことだ。やつにとってはマルチ能力を使う程の相手ではなかったようだ」



 マルチ能力なんてないです。



「その話、本当なら……いや、本当だからトップなのか」


「そういうことだ。実は記録係が噂してたのを偶然聞いちまってな。ドラゴンなんて剣一本で戦う相手じゃない。ましてや軍で挑む相手だ。しかもそんな相手を瞬殺したそうだ」



 なんせ3秒あれば殺せますし。



「剣一本でドラゴンを蹂躙……。俺たちのトップはバケモノを超えている」


「ほんとにな。たぶん、歴代の異世界からの勇者達よりも強い。記録が残ってる歴代勇者でもドラゴンは5人パーティーで挑んでやっと倒せたらしいからな」


「ドラゴンは普通、軍が動いて何百、何千もの犠牲を出してようやく殺せる生き物なんだよなぁ。5人ってのが如何いかに異常なのが見えてくるよな」


「ハハッ、うちらのトップはそれを超えるってか」


「ああ。それに諜報部隊のリザと組んでるしな」


「諜報部隊のナンバーツー……か」


「そうだ。そのリザでさえ、うちらのトップの底はわからないと、他の諜報部隊のやつらが言っていた」


「あいつでさえ計り知れないのか。そ、そうだよな、勇者以上の実力を持っているやつの底なんてわかるわけないよな」



「表向きは学園生だが本当の年齢はわからんな。もしかしたらエルフのような長寿の種族でそれをうまく隠してるかもしれん」


「あ、それは言えてるかも。あの言動といい、実力といい、それ相応の経験を積んでないとさっきのセリフは言えないよな」




 ただの思春期の人間です。




「だな。『強くなりたいのなら、人間を超える努力をすればいい』か。なぁ、トニー、俺がもしそんなセリフを真顔で言ったら何て言う?」


「『は? 何言ってんの? 熱でもあんのか?』って言う」





「「……ハハハハハハハ!!」」




「レニー、おまえが言うとコントにしか見えねーな。ハハハ」


「う、うるせー。俺も言ってて何言ってんだ? って思っちまったんだから仕方ないよな!」


「ハハハハハ! 俺もそんなセリフ言えねーわ」


「俺もトニーがそんなこと言い出したら別人かと疑うぞ」


「アハハ、ひでーな、おい。でもまぁ、俺でも俺自信を疑うかもしれん」




「「ガハハハハハハハ!!!」」







 一方その頃、レルは……--。


 そんなレルが聞いてたら恥ずかしくて死んでしまうかもしれない会話をしているうちにレルは受付を済ませ、ギルドを出発していた。

 

 うんうん、ギルドはいつもにぎやかで楽しそうで良い雰囲気だ。と、レルはギルドから聞こえてきた笑い声で判断して感心する。


 さて、ゆっくり行こっと。明日も学園は休みだし。たしか『週休二日』ってのは過去の異世界の勇者が立案した制度だったっけ? 昔は『休み』って考えが無かったらしからなぁ。いやー、勇者様様さまさまってか。あ、明日はゆっくり寝てよー。

 と、レルは暢気のんきなこと考えながら討伐ミッションを開始する。









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