女子たちの聖戦が決まったので困ってます

 安静の時間を過ぎた僕と香帆ちゃんが風紀委員会とともに簡易病室を出ると、外で一人杏ちゃんが待っていた。

「あの、美里愛さんは?」

 香帆ちゃんが真っ先に問いかける。


「彼女ならとっちめたわ」

 杏ちゃんがさらりと言い放つ。香帆ちゃんが僕の隣で驚いた様子を見せた。

「っていうのは、100%本当ではないかな」

「じゃあ、どうしたんだよ」

 僕は呆れるように杏ちゃんに問いかけた。


「実をいうとね、こういう約束を結んじゃった」

 杏ちゃんが懐から紙を取り出した。

「杏ちゃん、なんでそんなもの持っているの」

 恵里香さんも不思議そうに問いかけた。

「要するにこういうことです」


 杏ちゃんが恵里香さんに紙を見せる。僕も吸い寄せられるように覗き込んだ。その内容に、僕は青ざめた。貧血から立ち直ったばかりの僕にとって、これはこれで刺激の強い内容だった。


「決闘調印書

4月22日 午後4時~

北西塔屋上にて

山藤杏 vs 奥原美里愛


美里愛が勝てば、風紀委員会はJ.K.C.K.の活動を認める。

でも杏が勝てば、風紀委員会がJ.K.C.K.を乗っ取ります(キッパリ)」


 ここまで書かれた文章の下には、「杏」「ミリア」という二つのサインが並んでいた。


「調印したあと、美里愛はさっさと病院から出て行っちゃった」

「杏ちゃん、正気なのか?」

 僕は複雑すぎる想いを胸に問いただした。


「だからわざわざ病院のカウンターに行って、『A4ぐらいの紙1枚くれますか』って頼んだのよ。ちなみに調印した後」

 杏ちゃんはさも当然のように言った。


「あっ、審判は、そうね……清太。あなたがやって」


「ああ」

 僕はまたクラッときて、床に座り込んだ。

「清太くん、大丈夫ですか」

 香帆ちゃんが心配する声で僕の隣にしゃがみ、様子を見てくれた。しかし僕は悩ましかった。たかが服に対するこだわりで発展した決闘という、社会常識から大きく外れた展開に付き合わなければいけないなんて。


 これって幸せ、それとも不幸?僕にはさっぱりわからないよ。

 そんなことを考えていたとき、杏ちゃんが僕の目の前にしゃがみ、わざわざ目線を合わせてきた。

「よかったね、清太。やっと品性下劣な女装地獄から解放されるのよ。そうなればあなたは晴れて自由の身よ」


 杏ちゃんがすでに美里愛ちゃんを倒したかのような明るい顔で語りかけてきた。確かに僕にとっては、そうなった方が得かもしれない。でも、それで美里愛ちゃんの膨大なコスプレ衣装が一枚残らず犠牲になるのは、どうも納得できない気がした。


「審判役すっぽかしちゃだめだよ」

 杏ちゃんがわざとらしく首を傾げながら念を押す。僕の全身が寒気で軽く震えた。

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