第22話 秘密×告白×秘密

「あぁ、思い出したよ全部。で、どうだ?毎日は楽しいか?」

「はい、何気ない毎日でも私にとっては宝物です。」

「そうかい、それは良かった。」


俺たちはいつもの毎日の中で成長を続ける。そして人という物はいつの日か別れの日が来ることも知っている。それでも出会いを求めるのはその出会いに価値あるものを見出すからだ。

つまらない学校なら面白い学校に変える、つまらない勉強なら面白い勉強に変える。それは単純なことではあるが誰しもがこなせるわけでは無い。だから誰かが手を伸ばして手伝わなればならないのだろう。


「でもね、ソウタ………」

「ん?どうした?」

「思い出したってことは………やっぱり覚えてなかったんDEATHね?」


「…………」

「……………」


床を思いきり蹴り上げ部屋から逃走を始める。

床に塗られたワックスと上履きが擦れて「キュッ」という音を立てながら廊下を爆走する。

今ここで死ぬか自宅に帰ってから死ぬか……どうやら生き残るという選択肢はないようだ。

後ろを振り返ると真っ黒に染まったイリーナの瞳がこちらをじっと見据えて近づいてくるのが見えた。

超怖えぇ……!リアル鬼ごっこかよ!



「悪かった!悪かったって!マジで反省してる!」

「どのあたりが悪かったと思ってるんですか?」

「…………。」


やっべぇ何も思いつかない。これ俺終わったかも。

ここまで怖いイリーナ見たことない。


「いや……あのね?重要なのはこれから俺たちが仲良くしていくことでだな……」

「遺言はそれでよろしいデスか?」


ゆ……遺言!?そこまでの事なの!?


「ワタシ実は怒っていません。でも隠そうとしたことにかなり怒ってマス。」


俯き、下を見ることしかできない。

自分のしてきたことは彼女に迷惑をかけてしかいなかったのだろうか。嘘をついてまで人を守るのは間違いなのだろうか。


「俺は!………俺は……」


言葉が後に続かない。

当然だ、自分の空虚な心から出た言葉など信じてもらえるはずなどないのだから。

故に、俺は今この場で沈黙を貫くことしかできてないのがそれを裏付ける根拠だ。

深呼吸をし、顔を上げる。こちらを慈愛の目で見つめるイリーナの姿がそこにはあった。


「俺さ、自分の事まだよくわかってないんだ。その事も説明できないから……。隠そうとはしないよ、俺は今イリーナたちに教えることはできない。だけど……そうだな……高校卒業までには絶対に言うよ。」


『隠し事をしている』という隠し事は告げる。これは俺なりのけじめだ。

記憶は取り戻せなくてもいい、でも俺は彼女たちに胸を張れる男ではありたいと思う。


「そうデスか……本当に、言ってくれるんですね?私の人にも。不公平は私の最も嫌いな言葉デス。」


正義・公平・誠実、いかにも彼女が好きそうな言葉だ。


「ハイハイ、わかってますって。」

「ハイは一回でスヨ!」


こいつ何処からそんな言葉覚えてきたんだよ。

昔はそんなこと言わない可愛い子だったのなぁ……。


「そ、そんなかわいいだなんて……。」

「あ、悪い。昔のイリーナの話な。」


先ほどまで赤かった彼女の頬は更に紅潮していく。

あ、これは照れてるとかじゃなくて怒ってる方だな。

冷静に分析などしてないで俺のとる選択肢は一つだ。


「あっ!また逃げましたね!待ちなサイ!」


やばい、毎日こんなに走りこんでたら体力滅茶苦茶付きそう。陰キャの俺には辛いなぁ。





時期にして夏、梅雨も明けて総合の時間であった。

相も変わらず勉強をしている俺にとっては気候など関係のないのだが。

それでも気分というのは重要であって、カラッと晴れた日には気分が良いという物だ。

窓を見ながらひとり俺はこうつぶやくのだ。


「フッ……帰りてぇ。」


俺達には修学旅行なるものが控えているのだがその前段階として林間合宿があるのだ。これは修学旅行に向けての練習でもあるのと同時に自然の中で仲間との協調性などを高めることが重要とされている……はずなんだけどなぁ…。

目の前で繰り広げられるは『戦い』、俺こいつらと林間合宿行くの?


「バス決めくらい譲ってくれても良いじゃないデスか!」

「花梨だって隣に座りたいんや!」


こいつらに決めさせたら一日かかっても決まらないだろう。

もはや柊や智里に至ってはちょっと引いている、有栖に至ってはドン引きである。

いやマジで小学生かよお前ら。


「もうくじ引きでいいだろ。」


「え?ソウタはそれでいいんデスか?」

「ウチと座れんくなってもええんか?」


何こいつら俺がお前らと座りたい前提で話し進めてんだ。

俺はできるなら一人のほうがいい。

とは言っても提案したのは俺だ。公正公平に、くじ引きは俺が作るとしよう。

分からないよう用意したのは新品のトランプ、この中からエース4枚、ハートを除く2を3枚取り出す。


「この中からスペードのエースを引いた奴と俺は一緒に座る。」


なんとこの完璧な作戦よ、公正公平などという言葉は主催者には通用しない。

この仲からカードを引くのは智里、有栖、柊、イリーナ、花梨の5人。しかしカードの枚数は6枚。故に誰もエースを引かなければ俺は一人で座ることが出来るのだ。


「よーし、全員引いたなー。…………ッ!?」

「どうかしたの?」


何……だと……!?

カードが1枚も余らない、こんなことあるはずはない、きっとどこか地面にあるはずだ。後で探すとしよう。


「い、いやなんでもない……じゃあいくぞー、せーのっ!」



*****



「よろしく♡」

「なんでお前なんだよおおおおおおおぉぉぉ!」


俺の隣になったのは5人の誰でもなくジョーカー、翔梧であった。

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俺には幼馴染が六人いた!? カル @karu4umu

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