第2話 居眠りは程々に

 誰かの声が聞こえて、ぱち、と目を覚ます。どうやら、眠っていたようだ。ごしごしと目を擦りながら、どのくらい眠っていたのだろうと、そんなことをぼんやり考えながら顔をあげる。どうやら、囚人住人たちが監獄の窓を開けて呼んでいたようだ。渋々返事をし、近くへ寄るためにちょうどいい高さの木に飛んだ。囚人住人たちは壁につけられた傷を指さしながら、口々にものを言う。1人ずつ喋ってください、と制しつつ1番近い囚人に耳を傾けた。

「おい、また看守が寝てる間に一人、脱獄したぞ。」

「はぁ…またですか? もう誰も脱獄しないように、説得しておいてねってお願いしたじゃないですか。」

「脱獄したのは新入りさ。俺たちの忠告なんて聞きゃしねぇよ。……そいつはついさっき出ていったばかりさ。今ならまだその辺にいるだろう。」

「あ〜、新入り…。じゃあ仕方ないかも。教えてくれてありがとうございます。」


 全く、お前がのんびり居眠りなんてしてるから…と窓の向こうで呟く声が聞こえたが、聞こえなかったことにした。それよりも、仕事だ仕事。窓に背を向け、耳元の無線機を操作して彼に呼びかける。


「あーあー、こちらユズリハです。どうぞ」

「……………こちら、ヴェルミオン。ドーゾ」


――――――――


 街灯から街灯へ飛び移りながら返事をする。どうせまた、ユズリハは居眠りでもしていたのだろう。彼がこれから話すことは、とうに分かりきっている。

目線の先にはただいま脱獄中の狼のケモノビト。お前が庭園を出た時からオレはマークしていたというのに、向こうはちっとも気づきやしない。すっかり気が緩みきっている証だ。こちらの事など気も留めずに、無線の向こうの相手は続ける。

「ごめんね〜ヴェル、俺が居眠りしちゃってる間にさ…」

「はぁぁ、分かってる。また脱獄者だろ、さっきから狼野郎がこそこそ歩いてるヨ」

「ふーん、狼なの?……あの!今逃げた奴って、狼のケモノビトですか?」

ユズリハがオレじゃない誰かに呼びかけている。遠くの方でそうだ、という声も聞こえた。

「ユズ、自分トコの囚人住人くらい把握しとけよ…。」

「仕方ないだろ、逃げたのは新入りなんだから。まだ顔なんて覚えちゃいないよ」

(いや、ユズは覚えなきゃダメなんだって…)

 呆れながら脱獄者を追いかける。もうすぐ門の外に出そうだ。門の外に出れば正式に脱獄者として認定され、武器を扱うことを許可される。ヴェルミオンは身体が頑丈な訳では無い為、彼が門の外に出るのを待っていた。

 本当は、外に出る前に捕縛するのが一番いいのだが。力の強い狼と生身で接触するなど以ての外。下手に前に出たら、自分がやられてしまう。

「あ、そろそろアイツ外に出るから。またそっちでナ」

「うん、よろしくね」

「…あとでなんか奢ってよネ」

 最後の街灯から大きく踏み込み、門の上へ降り立つ。さて、オレも自分の仕事をしなければ。


「ふぁあ。」


 無線機を切って、ストレッチ代わりに大きく伸びをした。


――――――――――続く

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