顔面偏差値至上主義の魔法高校

かいな

第1話 入学式

 人は何時も、自分と何かを比べている。

 あの人は自分よりもこれができる。自分はあの人よりもここが凄い。あの人は自分よりも顔立ちが整っている。自分の方が人からモテる。

 そんな風に比べて、嫉妬して、優越感に浸る。

 

 他の皆はどうだろう。少なくとも、俺はそうして今までの人生を生きてきた。

 分からない。こんな、心の奥深くにある自身の考えを吐露できる友人も恋人も親類も居なかった。

 何より俺は、何時だって人を妬み嫉み生きてきた。


「……」


 そんな俺が……。


「本当に、ここに通えるのか……?」


 眼前に広がる校舎は荘厳で神聖な雰囲気に包まれ、その神々しさから神殿のようにも思える。

 

 国公立魔法高校。


 名前に一切の遊びのないこの高校は、この国における魔法の権威への登竜門だ。


 ◇


「……」


 俺の名前は一亜門。一と書いてニノマエだ。

 カッコいいよな。この高校の名前よりはイケてる良い名前だ。

 

 俺はボーっとそんな事を考えながらつまらない入学式を過ごしていた。

 壇上の上では、校長先生がこの学校の成り立ちなどの素晴らしい話を進めている。

 

 しかしビックリするほど頭に彼の話が入って来ない。

 何故一行で済む話を十倍にして話してるんだろう。時折同じ話を繰り返しているのが更なるイライラポイントだ。


「……」


 しかも校長先生の話の何がつらいって、言う事全部配布されたパンフレットの中に書かれている事なんだよ。

 もう内容分かってるんだよ。ちゃんと目を通してるんだよ俺は。誰も気に留めない学校案内パンフレットの最初のページに書かれている『当学校の成り立ち』も。


「──であるからして。この学校は我が国の防衛の要たる『魔法召喚師』の雛を様々な分野に送り出す事を目的として、およそ百年ほど前に県王ラインハルト様が直々に王令を出したのが設立の始まりである」


 ここもちゃんと覚えている。ちなみにラインハルト様の部分に誤字が有ったぞ。ラインハルヒ様になってたわ。校閲くらいちゃんとしろよ。国公立だろ。

 

「──ちなみに、私は県王様に御会いしたことが有る」


 もう5回目だよ……その話も。


「──であるからして……」


 俺は校長の話に辟易とした表情を浮かべながら、心の中でツッコミを入れまくる事で暇をしのいでいた。

 

 そして一時間が経った。


 ◇


 まさか校長の謁見自慢が99回も続くとは思わなかった……。

 そこまでいくのであれば是非三桁まで行って欲しかったけど。


「……」


 今、俺達新入生は校長のクソ長い自慢話から解放され、これから一年を過ごす事となる教室まで案内された。

 

 そして俺は今孤立していた。

 

 ちらりちらりと、周りを見渡す。

 ビックリするくらいの美男美女たちが周りにはいっぱいいる。

 彼らは俺の方には目もくれず、美男美女どうしで交流を深めている。

 

「ねぇ、校長の話長くなかったー?」


「な? あれは流石に長すぎだよな」


「ラインハルト様に会った事どんだけ言うんだよって感じだったわ……」


 きっと、彼らの持つ魔力量は桁並外れた数値を叩きだしているのだろう。

 美男美女は魔力量が多い。そして魔力量が多いと美男美女が多い。


 顔が整っているかどうかは魔力量の多さに直結する。

 以前までは眉唾物の与太話でしかなかったが、百年ほど前に県王ラインハルト様が調べた結果、魔力量の多さと容姿が整っている事に因果関係がある事が分かった。

 どうも魔力量が多ければ多い程『人』としての完成度が高まり、容姿もまた整っていく。そして容姿が整っているという事もまた『人』としての完成度に直帰する。


 この事から容姿と魔力量は一種の相互関係があるということを、王直々に証明したのだ。


 そしてここからも重要な事だが……『魔法召喚師』にとって魔力量の多さ少なさは実力に直結する非常に重要な要素でもある。

 そう。顔立ちが整う彼らは所謂……生まれた時より、『魔法召喚師』としてのエリートたちだ。

 そして彼らは自分たちと同じように顔立ちの整った相手とばかり話すようになる。それは『魔法召喚師』としての将来を見据えている人間にとっては非常に重要な学校生活の一歩でも有るからだ。


「……」


 しかし彼らが良き一歩を踏み出すと、自然と俺の周りに人はいなくなった。

 おかしいなと思って話しかけようとすると、俺の顔を見て何かを察したような表情でサッと俺の前から離れようとするんだもんな。俺も察したわ。

 まったく酷い話だ。


「……」


 小学校や中学校ではかけっこが速ければよかったのにな……。

 クラスが変わろうと常に三位をキープしていた俺は、友達はいなくてもクラスから一目は置かれるくらいには認められていたと言うのに。


「でさー」


「そういえば君って何の魔法が──」


 まだ会ったばかりだと言うのに楽しそうに話し合う見た目麗しいクラスメイト達。

 まるで蚊帳の外に置かれているような疎外感を覚えつつそれを眺めている俺。

 友達も居ない。彼女も居ない。コミュニケーション力もイケメン力も足りない俺が──この顔面偏差値至上主義の魔法高校に通えるのか?


「……帰りてぇ」


 ああ、既に無理な気がしてきた。

 俺は確かな絶望の手ごたえと共に、中学生活の三年間で磨かれた寝たふり技能を初日から解禁する事となった。

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