第18話 頭との会話

「こいつらをどうしましょうか」


 とりあえず縛り上げて広間に集めた盗賊達を、縛ったまま洞窟の檻の中に移動させた。サシャ達が捕まった檻の奥にもう一つ小さめの檻があり、盗賊の頭だけは一人そっちに隔離する。なんとか蔦をほどくことができても、檻からは逃げられないだろうしと、足枷まではつけなかった。


「色々と思うところはあるとは思いますが、盗賊達は人間です。人間達の掟で裁いてもらうんじゃダメでしょうか? 」


 獣人達の子供を誘拐して売りさばくという、極悪非道な奴等ではあるが、ここで獣人達の餌になるのは忍びなく、またトト達にも人間の味を覚えてほしくなかった。


「まあ、それが良いでしょうな。誘拐は罪が重いですし、他にも窃盗や殺人などの余罪もたんとありましょう。悪くて死罪、良くても強制労働や禁固刑でしょうから」


 トトは、人間の世界にも明るいのか、大きくうなづきつつ言った。中には文句を言う獣人もいたが、アイミ達を置いて戻ってきたユタがそれでかまわないと言った為、全員が納得して盗賊達をザイール王国に引き渡すことにした。


「あの、ちょっと盗賊の頭と話しがあるんですけど……」


 できれば二人で話したいというような雰囲気を滲ませてシンが言うと、トトは特に言及することもなく獣人達を引き連れて洞窟から退いてくれた。


 シンは奥の檻の前まで行く。すでに頭は意識が戻っており、地面に直にあぐらをかいて座っていた。


「あなたに聞きたいことがあるんですが」

「俺が答えると? 」


 確かに、話をする義理はない。また、真実を話すかどうかも調べようはない。


「答えてくれると思っています。あなたは一対一の決闘で僕に負けたのだから」


 盗賊の世界の上下関係、それは常に強い者が上位ということだ。

 力で負けた者は勝った者に従う。嫌なら力をつけて勝てばいいだけだ。


 頭は豪快に笑った。


「なるほど、確かに俺らの掟に従うならば、頭の俺に勝ったおまえが次の頭で、俺達はおまえに絶対服従という訳か」


 シンは困ったように目を細める。盗賊の頭にはなりたくないし、なるつもりもない。


「あー……、ボクより強い人がいて、ボクは全くもってその人には敵わないので、頭にはなれないですね」

「おまえ以上か? 」

「足元にも及びません」

「そいつの名前は? 」

「エルザ・オルコット」


 頭の顔が歪む。エルザの名前は人間界にも轟いているのだろうか。


「そいつは……建国の魔女か? 」


 村でも聞いた呼び名だった。エルザに直に聞いた訳ではなかったが、色々と否定をしないところを見ると、エルザが建国の魔女であり、獣人の誇り、名高い伝説の魔女で間違いないのだろう。


 シンが否定も肯定もせずにいると、頭は頭をガリガリとかいて唸った。


「建国の魔女の連れじゃ、俺が敵うわきゃねぇな。で、何が聞きたい? 」

「一つは、あの人間の子供についてです。あの子はどこから拐ってきたんです? 親元に帰してあげたいんですが」

「あれか? あれはここで生まれた。誰の子かわからんが、まあ俺の子だろうがな」

「え? 」


 自分の子供にあの扱い……シンはこの男の精神構造が理解できなかった。


「男ならな、手下にもなるし、盾にも槍にもなろうが、あいつは女だったからな。血の繋がった女はいらん」

「……じゃあ母親は? 」

「飯炊きのハンナだ。あまりいい女じゃないが、ケツだけは良くてな」


 とりあえず母親がわかっただけでも良しとしようと、次の質問に移った。


「あなたは、闘っている時にと言っていましたが、あの意味は? 」

「俺と同じかって意味さ。おまえの強さ、人間じゃあり得ないだろうさ。俺は獣人の血を飲んで、ここまでの強さを手に入れた」

「血を飲んだ? 」

「ああ、血を飲み、肉を食らった。そうすれば人外の強さが手に入ると聞いたからな。これは極秘中の極秘。みながそうしたら、誰もが最強になっちまうからな」


 目の前で笑う男は悪びれた感がない。


 基本、獣人も人間も見た目は変わらない。獣人と分けて呼んでいるが、獣化する人間だと理解していた。だからこそ、人間との間にしか子孫が残せないんだろう。その獣人を食べたて言う。

 獣人が人間を食べたいと切望するのは獣の本能であり、人間の理性はそれを良しとしない。だからこそ獣人は苦悩し、進んで人間を襲おうとはしないのだ。


 この男には人間の理性がないのか?


「肉は臭くて固かったが、あいつらも人間を食うんだから、お互い様だろう? しかも、それで最強が手に入るんだからな」

「誰から聞いたんです? 」

「ああ、フードをかぶった女さ。気味の悪い醜女だったが、いろんな情報や高価な魔道具を湯水のようにくれたぜ。獣人の誘拐も、あの女の指示通りにやったら上手くいったしな」


 醜女? エルザを名乗った女と同じ筈だが、シンに見せた顔はエルザそのものの美しい顔だった。多分サシャにチャームを付与した魔道具を渡した女も同一人物だと思われるが、エルザに似た雰囲気とは言っていたが顔まで同じとは言っていなかった。


 つまりは、あの女は顔形を自由自在に変えられるということだろう。


「なんて名乗りましたか? 」


 名前に意味があるとは思わなかったが、一応聞いてみた。


「呼びたいように呼べと言われていたから、俺らは醜女ブサイクって呼んでたかな」


 それは、どんな女性にも言ってはいけないことなのではないだろうか。シンは顔を歪めながら、ガハガハと下品に笑う頭を見つめた。


「どこから来たとか、どこへ行くとか、何が目的かとか……」

「知るわきゃねぇだろ。あんな醜女に興味ねぇよ」

「……」


 嘘ではないらしい。

 しかし、フードの女の存在は無視できるものではなかった。第一、エルザを名乗り、同じ顔で悪さをされたらたまったものではない。エルザは気にしないだろうが、シンが嫌だった。


「で、俺達をどうするんだ? 獣人達の餌にすんのか? まあ、食ったものは食われるってか?! それもしゃあねぇか」


 さすが盗賊の頭、胆が座っている。しかし、やられたからやり返すとか、誘拐されたから仕返しするとか、そんなことは許されていい訳がない。


「そんなことはしないし、させられない。人間社会に引き渡します」

「つまりは、役人に引き渡すってことか? 俺はどうせ死刑だろうぜ。なら、食った方がよくないか? 」

「食べられたいんですか? 」

「いや、どうせ死ぬなら、斬首も食い散らかされるのも大差ねぇってだけだ」


 そう言ってはいるが、自棄になっているわけでもなさそうで、何か目論んでの発言だとは思うのだが、何を思っているのかさっぱりわからない。


「明日、ザイール王国の辺境警備兵に来てもらいますから」


 わずかに頭の頬が弛んだ気がしたが、気のせいかもしれないとシンはあまり気に止めなかった。

 これ以上聞くことはないと、シンが踵を返した時、頭の低い声が洞窟に響いた。


「で、おまえは何を食った。何を食って、その強さを身につけた?」

「何も……」


 正確にはエルザの血を飲んだのであるが、それを語るつもりはなかった。



 ※作者から※


 しばらく配信を停止します。

 次の投稿は未定です。

 今書き始めた作品を先に進めたいので、その目処がつきましたら、また再開したいと思います。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

泣かないで・獣達の歩む・赤い月 由友ひろ @hta228

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ