第一首 唐揚げ 結びの句。

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 どうやら完成したようだ。

 皿に盛られる"唐揚げ・・・"とやらを見やりながら、わちしは腹の虫を抑え、よだれが出ぬよう口元をきゅっと結んでいた。

 ちゃぶ台の上に唐揚げの乗った皿が置かれ、わちしの前に、白飯の入った茶碗と箸が用意された。

 ふと隣を見ると、みさとが手を合わせている。なにか仏様にお願いでもしているのだろうか。

 すると、みさとはわちしに向かってこう告げてきた。

「なんだ、若紫。飯食う前は手と手を合わせて"いただきます"だろ。こういうの、じいさんに習わなかったのか?」

 そんなこと、じじ様は言っておらなんだ。

 ────というより、じじ様が飯を持ってきたときにはもう、じじ様の言葉なんぞ、耳に入ってこなかっただけなのだが……。

 みさとにならって手を合わせた。

 そして、みさとと一緒に、

「「いただきます。」」

 わちしは箸を手にした次の瞬間には唐揚げに手を伸ばしていた。

 飯を作っているときから決めていたのだ。最初はあの唐揚げを食べるのだと。

 かぶりついた瞬間、口のなかで肉汁と醤油の香りが弾けた。

 柔らかい肉は噛み締める度にほくほくとした熱さと旨味が口を満たす。

 炊きたての白米が更にその味を引さ立てるものだから、 休みなく箸が動いてしまう。

 止まらぬ、止まらぬ、止まらぬ!!

 白飯が入っている茶碗の底に箸がついたとき、自分が唐揚げを一つ残らず食べ尽くしてしまっていたことに気付いた。

 みさとは箸と、まだ白飯が残った茶碗を持ったまま、呆然とわちしの顔を見ている。

 食い尽くしたことを叱られるのだろうか……。

(ここはやはり、わちしから謝るべきであろうか……。)

 そんなことを考え黙々と反省していると、みさとの方が先に口を開いた。

「……もう、お腹いっぱいか?」

 その問いにわちしはこくりと小さく頷く。

「じゃあ、今度は"ごちそうさま"だな」

 ────あれ、怒っていない?

 それどころか、いまのみさとは微笑んでいるようにも見える。

(た、助かった……っ。みさとに、叱る気概はないらしい。)

「美味しかったなら、ごちそうさまと言ってくれ」

 寛容な心を持つみさとから教えられたそんな短い言葉を、わちしはなんの迷いもなく、その通りの意味を込め、食べ始めるときと同じように手を合わせて声にする。

「ごちそうさまっ!」

 みさとは心からの笑みをその面貌に浮かべるのだった。

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