第一首 唐揚げ 十二句

 ──────若紫……?

 おれの記憶が正しければ、確か、光源氏の嫁だったか。

「三木みさと、先ほどからの、その仏頂面ぶっちょうづら。どうにかならぬか、怖くてならぬ。」

「…………まず、みさとって呼ぶな」

「?」

 突如怪訝な態度をとったおれに、首を傾げる目の前の女児。

 ……こいつ、おれの言っていることが分からないのか?

「"みさと"って呼ぶなって言ったんだよ。名前が女みたいだってバカにされるんだ。だから──……ッ、おれも嫌いなんだよ!!」

 幾重にも織り重なったここまでの動揺も相まって、つい声を荒げてしまった。けれどそれほどまでにこの名前には嫌悪感がある。

「三木みさと。」

「なんだよ、だから名前で呼ぶなって……」

「お前のその名、良き名なり。わちしにだけは、その名呼ばせよ。」

「な……っ」

 初めて言われた。

 自分の名前を褒められることがこんなにも照れくさいものだなんて知らなかった。

「────ありがとう」

「あぁみさと、ようやく解けた、仏頂面。そのほころんだ、顔は忘れぬ。」

 なんだ……、この子。

 若紫と話していると、気持ちが落ち着いてくる。

 まるで穏やかな小川おがわ笹舟ささぶねが流れていく様な、そんな緩やかさが心を満たしていく。

 ところで、さっき最初に気になることを言われたような……。

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