秋の空

 ああもう。ママに話しても、何の解決にもならない。


 今日も私、長々し夜を一人かもねむ。


 陽が暮れるの、早くなったなあ。



 秋だから。秋だというのに。秋なのに。


 台風が来るんだってさ。


 窓の外で、庭木が揺れてる。もう、びゅうびゅう。



 明日、学校休みにならないかなあ……。


 拓人と気まずいままってのもヤだし、かといって、正面から向き合うっていうのも、あちらが避けそうな気もするし。連絡は一向にこないし。


 ヤだなぁ……。






 と、思った次の日は大雨でした。ザンザン降りね。


 レインコートと傘、併用しなくちゃ。


 私、一歩、玄関から出て、瞬時に後悔した。



 路面から跳ね返ってくる雨粒が、靴下を濡らす。


 ブーツに履き替えなくちゃ。



「ママ――去年買ってくれたブーツ、どこ――」


「ファーブーツは防水してないから、長靴はいていきなさい」


「えっ、長靴なんて、みっともない」


「かわいいの、買っておいたから」



 そう言って、ママがげた箱から出してきた、中くらいのゴム長靴。



「えー、黄色って……こどもっぽーい」


「こどもでしょう。タオルも持っていきなさいね」



 てきぱき。きびきびと洗面所の下の棚を開けて、フェイスタオルを出してくるママ。



「うー……」



 ポンと渡されたタオル持って、再度、長靴を見る。その色ったら。


 黄色って、ヒヨコ色じゃないのぉ。幼稚園児じゃないんだからさぁ。


 私、中二だっていうのに。恥ずかしいよ。



 私、思いっきり眉をしかめた。でも履いてくの。


 仕方ないじゃない。ほかにないんだから。


 けど気に入らない。じゃぶじゃぶ、水たまりに入ったりして、汚してみる。



 ますますこどもっぽくなってしまった。あう。


 これ、昇降口のげた箱に入れて、授業受けたら、見かけた人が笑うだろうなあ。はみ出ちゃうし。


 そう思った私は、自分の長靴をみんなの傘立てのかげに、こそっと置いてきた。



 自分のだって、ばれないように――。



 拓人のことはどうしたんだって?


 昨日の今日で顔を合わせづらいから、無視。


 いつものバス停なんか、通り過ぎてきちゃったもんね。



 たった一人で、登校したんだもんねーだ。



 なんなら、通学路、かえてもよかったんだから。


 私たちの中学校は、山というか丘の上というか、最寄りの駅からはるかにのぞんだ先にある。


 基本的に上がり坂になってる道を登れば、どうやったってたどり着く。



 まあ、雨の日は道が川みたいになって、水が滝のように流れ落ちてくるけれど。


 まあ、バスでぐるっと上ってきてもいいし、えっちらおっちら、数ある坂道のどれかひとつを登ってきたっていい。


 車やタクシーで公立の中学校に通学するなんて人はまずいない。



 だからかな……校門脇の駐車場に、真っ黄色の鼻づらの長い車が停まってるの、妙に気になった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る