捨てる神、拾う神

名嵐

捨てる神、拾う神

 僕はご主人様に言われる前にいつもの小屋まで戻ってきた。

 そんな姿を忌々しそうに見ているご主人様のお仲間がいるとは知らずに。


「この子がその……」


「えぇ、そうです。本当はこんな事したくないんですが」


「特に変わった点も無さそうですが、本当に宜しいのですか?」


 どうやらご主人様が誰かを連れて来たようだった。

 眠たくなってきた僕は何とかして目を開けてご主人様の方を見ようとするけど、今日は頑張りすぎたからか妙に眠たくてそれすら出来そうにない。


「はい、あいつ等にも言われてるのも有るんですが、これから先の事を考えるとどうしても……」


 何かご主人様が言っているような気がする。

 それに一緒に来た女の人も……。


「では、……させていただきます」


「お……します。……な、スカイ」


 微かに見えたご主人様は何かに耐えるように僕を見た後にどこかへ行ってしまう。

 待って、ご主人様……。

 そんな僕の声にならない声はご主人様には届かなかった。




 バルトフェルド農牧場―――イーラスト地方に有る街ブルックの外れで農作物や獣魔の育成を代々手掛けている牧場でブルックだけではなくイーラスト地方で有名な牧場の一つだ。

 そこで生産された農作物は味が良く、獣魔に関してもモンスターレースの各部門で重賞レースを度々勝つほどの実力を持っていて珍しい牧場として知られている。

 また、その二つの事業だけに拘らず牧場の一部を有料ながら一般開放してレースやその他労働に不向きなモンスターたちが飼育されているのを見る事が出来るようになっているなど新しい牧場の形の一つとして近隣だけではなく世界各地の牧場からも注目を集めているほどだった。

 勿論、モンスターの飼育に関しても拘りを持っているようで珍しいモンスター飼育に挑戦したり、既存に観光施設や研究機関と提携してモンスターの繁殖や研究にも手を貸していた。

 その為、ブルック市民は勿論の事イーラスト地方以外からも訪れるほどの観光名所になっていた。




 カイルは窓から差し込む日差しとドアを叩く音、外から聞こえる賑やかな声で目を覚ました。


「んっ、朝、か?」


「カイルさん、起きてますか? 朝ですよ」


 声の主―――エリーがまだ扉の前にいて声を掛けてくる様子にまだ起き抜けで二度寝したいと思うのを何とか耐えながらカイルは布団から出た。

 いつものように聞こえてくる外からの賑やかな声に一瞬だけ顔を顰めるが直ぐにドアの向こうにいるエリーに起きた事を伝える。


「あぁ、今起きた。直ぐに行くから待っていてくれ」


「分かりました、早く来てくださいね。今日は私も朝からなので」


 ドアの前からエリーが立ち去った後、カイルはゴソゴソと着替え始める。

 いつもの着慣れたオーバーオールを着込み、軽く身だしなみを整えた後に部屋の外へと出ると廊下には微かに香る朝食の匂いが漂っていた。

 その匂いは起き抜けのカイルの食欲を誘い、図らずもお腹がその欲に逆らえずに鳴る。


「ん~、やっぱり起きると朝食が出来ているのは良いな」


 階段を下りて食堂に行くと既に他のメンバーは食べ終えていたようで閑散としていた。

 カイルが椅子に座るとタイミング良くエリーがキッチンからパンやスープの乗ったトレイを持って出てくる。


「はい、これが今日の朝食です。食べ終わったら流しに食器を置いといてくださいね」


「あぁ、いつも通りにしておくよ」


「では、私はそろそろ行くので」


 そう言ってエリーはエプロンを外すと食堂から出ていった。

 足早に出て行った事から恐らくこの後の仕事の予定が詰まっていたのだろうと思ったカイルは遅く起きたかもしれない事に少しだけ悪く思った。

 そして、カイルは今日の予定を思い出しながら朝食を食べ始める。


「相変わらず美味しいなこのスープ」


 自家生産している野菜と卵で作られたスープは毎日飲んでも飽きないよなと思いながらも食べる事を続け、食べ終えたカイルは食器をキッチンに持っていってそのまま家の戸締りをして外に出た。




「さーて、皆の様子を確認しながら見回るかな」


 カイルはそう言って歩き出し、時間から考えて初めに近くに建っている物販所を目指した。

 そこはカイルが働くバルトフェルド農牧場でも人の出入りが一番激しい場所だった。

 特に朝の時間ともなると採れたての野菜などを求めて人が大勢やってくる為、働いている人間も商品の追加補充をしたりと慌ただしくなるからだろう。

 カイルが着く頃には既に開店に向けての準備で忙しそうにスタッフが行き来しているのが見える。


「あれ? 場長、どうしたんスカ?」


 様子を見ていたカイルに声を掛けてきたのはこの販売所と農場の責任者をしているマクリド兄妹の兄マリク・マクリドだった。

 どうやら倉庫から雑貨品を取ってきたところだったようで手に持った木箱からは子供向けの玩具が顔を覗かせている。


「あぁ、マリクか。何、昨日の事も有って今日は忙しくなるだろうからその前に確認をな」


「そっスカ。あっ、ならついでぇって!?」


「何サボってんの!?」


 何か名案を思い付いたという顔をした瞬間、マリクは後ろから飛んできた木箱に潰される。

 あまりの事にカイルは驚きながら木箱の飛んできた方を見るとマリクの妹アリーゼが激しく息をしながら木箱を投げた姿で立っているのが見えた。


「場長、このバカ兄が何か変な事言ってませんでした?」


「い、いや、別に……?」


 すぐさま走り寄ってきて自分の兄に対して厳しくいう姿にカイルはつい言いよんでしまう。


「いてててっ、何すんだよアリーゼ!」


「っもう、場長と話している暇が有ったら早く仕事してよ!」


 立ち上がったマリクは立ち上がると直ぐにアリーゼに対して文句を言うが、そんな事を無視するように言い返されてしまう。


「早くそれも持っていく!!」


 尚も何か言おうとしたマリクだったが、アリーゼの剣幕を前に言い返すのも無駄だと思ったのか渋々といった態度を見せながらも木箱を物販所内へと運んで行った。


「それで場長、どうしてこちらへ?」


「あぁ、マリクにも言ったんだが昨日の事も有るから忙しくなるだろうし、事前準備をしっかりとっと思ったんだが、その様子だと大丈夫そうだな」


「昨日……、あぁ、そうですね。まぁ、今日はもともと農場で新しいのが収穫できたのも有って結構準備には気を付けていたから大丈夫だと思いますよ」


 そう言ってアリーゼが指差した先にはいつもより多い人数で農場から届いた野菜などの入ったカゴを運んでいる従業員の姿が有った。

 そして、それをよく見ればここ最近は見かけてない新しい農作物が混じっているのも分かった。


「だから人数も多いので対応できます」


「そのようだな。なら、俺は他の所に行くな」


「あっ……、はい……」


 何かアリーゼが寂しげな表情をして立ち去るカイルを見ていた事を陰から見ていたマリクだけが知っていた。




 カイルは物販所の後は展示エリアや厩舎に顔を出し、事務所へと足を向けた。

 従業員は既に業務を始めている為、事務所にいるのは事務員が一人だけ。その事務員も昨日の事―――モンスターレースのドラゴン部門で久しぶりのG1制覇をした事で届くお祝いや取材の申し込みの対応で忙しそうに動き続けていた。


「うわぁ、これはかなり忙しくなりそうだな……」


 兎に角、カイルは自分の席に座って置かれている書類などに目を通しながら端末を立ち上げる。

 完全に立ち上がって業務を始めるまでの僅かな間とはいえ、置かれている書類全てに目を通せるわけも無く、時より事務員から声を掛けられて電話に出るのも合わさって昼食の時間になっても終わらなかった。


「うし、飯でも行くかな」


 既に事務員は昼休憩に入っていて、掛かってくるかは分からないが手持ちの携帯へ転送するように設定してカイルは外に出た。


「あっ、場長、ちょうど良いところに」


「ん、なんだ?」


 カイルが声の方へと顔を向けるとマリクとアリーゼが立っていた。

 どうやら二人も休憩する為に他の従業員に業務を任せてきたようで、カイルが歩き出すと二人も続いて歩き出した。


「いやー、本当に良いタイミングだったナ、アリーゼ!」


「うるさい、バカ兄!!」


「まぁまぁ、落ち着けよ」


 揶揄いながら歩くマリクに時より殴りかかろうとするアリーゼを宥めながらカイルは二人に聞く。


「で、今日の朝はどんな感じになった?」


「あっ、はい、特に問題なく新商品の野菜も無事に完売できました」


「あぁ、昨日の事も有ってグッズが無いのかって聞かれることも有ったケド、丁重に説明したら納得してくれる人ばかりだったから助かったナ」


「そうか。なら、良かった」


「それでグッズの方は発注してるんですか?」


「それだがちょっと悩んでいるところだ」


「あー、まぁ、G1を1勝しただけだとそこまで大げさなのは作れないワナ。でも、物販所の担当としてはゴール前の写真とか在れば売れると思うし、その辺はお願いしたいカモ」


「このバカ兄! すいません、場長。でも、バカ兄の言う通り売れるとは思います」


「そうか。じゃあ、ちょっと考えてみるよ」


 そんなこんなで話しながら食堂まで一緒に来た三人はそのまま中に入った。


「おっ、今日の日替わりはボンゴレビアンコか。よし、今日はこれにしようカナ」


「じゃあ、私はきのこのクリームスープパスタね」


「あっ、おい!」


 メニューボードを見たマリクに言うが早いかアリーゼは直ぐに席の方へと歩いて行ってしまい、その様子にマリクが呼び止めようとするもカイルがそれを抑えて料理を貰っていくように言う。


「ほら、席取ってくれるんだから」


「でも、場長ー」


「そんな事言ってる内に料理も出来たんだし行くぞ」


「はーい……」


 カイルはナスのミートパスタの乗ったトレイを手にアリーゼが取っているだろう席へと向かって歩き出し、そんなカイルに自分のボンゴレビアンコとアリーゼのきのこのクリームスープパスタの乗ったトレイを両手で持ちながらマリクは後に続いた。

 アリーゼを見つけたカイルが席に着いて同じようにマリクも席に着くと自然と会話は業務の事となる。


「それで午後からは大丈夫そうか?」


「昨日の事も有って朝から来られている観光客の方もいるようなので午前だけでもいつも以上の来客なんですが、恐らく午後からはもっと増えると思うので午前以上に忙しくなると思います」


「そうだな。昼からはもっと多くなりそうだから忙しいだろうナァ……」


 さっきまでの事を思い出しているのか箸を止め、遠くを見るような二人。

 そんな二人の反応を見ると本当に朝からなかなかの来客数だったらしいとカイルは思った。勿論、カイル自身も事務所での事を考えると午後からはもっと忙しくなるだろうと感じた。


「まぁ、頑張ってくれよ、二人とも」


「「あぁ(勿論よ)」」


 食べ終えた食器を片付けた三人はそのまま外に出て仕事に向かうために別れるのだった。




 来客予定の時間まであと少し。

 カイルは壁に掛けられた時計を見てそう思った。


「もう直ぐですね、場長」


「あぁ、しかし、なんで今頃になって会いたいなんて言うかな」


「アレじゃないですか? G1勝った事で惜しくなったんですよ」


「だが、既にギルドを通してるから渡す事なんて出来ないぞ」


 どうやら事務員も気になっていたようでカイルの言葉に反応した。

 事務員の言っている事もあながち無いとは言えないが、それでも既にギルドを通して行った事に文句を言われるようならこっちも何かしらの対応を考えなければいけないだろう。

 そんな事を考えている内に時間が来たのか玄関に備え付けられたチャイムがなった。


「どうやら来られたようですね」


「あぁ、行ってくるよ」


 そう言って席を立ったカイルはそのまま来客が待っている筈の入り口へと向かった。どうしてこうなったのかを思い出しながら。

 事の始まりは昨日の昼休憩後、事務所に戻ったカイルを出迎えたのは事務員からの業務連絡だった。


「あっ、場長、場長宛の電話が掛かってきています。内線の2番ですのでお願いします」


「ん? 何処からだ?」


「それがどうやら一般のお客様で、責任者に繋いでほしいの一点張りでして……」


「はぁー、分かった」


 席に着いたカイルはそのまま手を電話機に手を伸ばして対応する。


「お電話変わりました、バルトフェルド牧場の責任者をしておりますカイル・バルトフェルドです」


『あっ、あの責任者の方ですか?』


「はい、そうですが。お客様はどういったご用件でお電話を?」


『えっと、その、そちらの牧場でスカイ、スペシャルスカイが育成されているとお聞きしまして……』


 聞こえてきた若い男の声にカイルは嫌な予感を覚えながらも対応を続ける。


「えぇ、当牧場にて育成しておりますし、明日、牧場に戻ってくる予定になっています」


『じゃ、じゃあ、明日そちらに伺えば』


 ため息したくなるのを堪えながら答えた。


「残念ですが、当牧場は現役競争モンスターの一般公開はしてなくて……」


『そんな、お願いします! スペシャルスカイに会わせてください』


 何度説明しても聞かずに頼み続ける男の声にカイルは最終的に折れて特例として認めるのだった。

 そして、玄関にたどり着いた事に気が付いて我に返ったカイルはドアを開け、その先に立っていた来客を出迎えた。


「ようこそ、バルトフェルド農牧場へ。電話でもお話ししましたが、私がカイル・バルトフェルドです」


「は、はい」


「では、行きましょうか」


 そう言って歩き出したカイルに男は慌てて後に続く。


「えっと、スカイ、スペシャルスカイは既に?」


「えぇ、今朝無事にこちらに戻ってきました」


 カイルの言葉に嬉しそうな顔を見せた男―――アルクは早く会いたいのか歩く速度を速める。

 しばらく歩いていると見えてきた厩舎とその傍に広がる放牧地にアルクはついに案内されているのを忘れて先を歩き出す。

 カイルはそんなアルクの姿に苦笑いしながらもそのままではまずいと急いで後を追った。


「あれがスペシャルスカイです。どうやら特に疲労が有るとか怪我をしているという事は無いようですね」


「スカイ……」


 カイルの指さした先には気持ち良さそうに空を飛んでいる1頭のドラゴンの姿が見えた。

 アルクはその姿に放牧地を仕切る柵に捕まりながらなんとも言えない顔でそれを見る。


「知ってるか、冒険者のテイマーに捨てられた獣魔がどうなるかを?」


「えっ?」


「ギルドを通して捨てられるパターン、森などに捨てられるパターンと2つ有るが、後者は大半が衰弱死、運が良くても捨てられた事と野生に戻った事から人を襲うようになって討伐対象になる」


 急に口調が変わったカイルの姿に驚いているアルクを置いて視線はスペシャルスカイに向けたまま、カイルはアルクの様子を気にせずに話を続ける。


「じゃあ、前者はと言うとこの牧場みたいなギルドと契約している牧場に引き取られるパターンとギルドに依頼を出している商会に購入されるパターン、そして、そのまま殺処分されるパターンがある」


「なっ、ど、どういう事ですか!?」


「残念ながらウチみたいな牧場や商会でも全ての捨てられた獣魔を引き取るのは無理なんだよ。それに引き取られたといっても一部を除いて役割を果たせなくなったら結局は殺処分だ」


 スペシャルスカイから目を離したカイルはそのままアルクの方へと目を向ける。

 その視線に何か言いたかったアルクも言葉を詰まらせてしまう。


「君、元スペシャルスカイのテイマーでしょ? で、捨てた獣魔が活躍したから惜しくなって引き取りに来たってとこだろ」


 そのカイルの言葉と視線にアルクは顔を逸らしてしまう。


「たぶん、そうなんだろうと思ってたけど本当だったとはね……」


「あっ、あのそれでスペシャルスカイを「無理」」


 既に全て知られていると思ったアルクは意を決してカイルに頼みこもうとしたが、それよりも早くカイルは断る。


「あのな、ギルドを通して引き取った牧場や商会には定期的にギルドからの監査が入る。勿論、それは獣魔に対して不当な扱いをしていないか調べる為なんだ。それに君もギルドを通したなら再度そのモンスターを獣魔として所有できないって決まりが有るはずだよね?」


「それでも、それでも僕は!!」


「ガオルルル」


 どうやらアルクの叫び声で気付いてしまったようでスペシャルスカイがカイルとアクルの傍までやってきた。


「あー、来ちまったか……」


「スカイ……」


 ゆっくりと舞い降りてくるスペシャルスカイの姿にカイルは頭に手を当てながらどうしたものかと考え始める。


「ガルルルルウゥ」


 スペシャルスカイはなぜアルクがここにいるのか気になるようで時よりアルクの方を見ながらカイルにかまってと言わんばかりに首を伸ばしてくる。


「あぁ、そうだな。なら、実際に聞いて貰おうか」


「あ、あの何を」


 カイルはそう呟くとマナを活性化させて魔法を発動させる。


『オーナー、これでご主人様に僕の言葉が分かるようになったの?』


「えっ?」


 唐突に聞こえてきた声とその内容にアルクは驚いてスペシャルスカイとカイルを交互に見た。


「あぁ、大丈夫だ。そうだろう?」


「ほ、本当に……?」


『やったー!』


「す、スカイなのか?」


『そうだよ、ご主人様! あのね、あのね、ご主人様に言いたい事が有ってオーナーに頼んで声を分かる様にしてもらったんだ!!』


 嬉しそうな声に合わせて身体を動かすスペシャルスカイの姿にアルクはやっと現実を受け止める。


『それでご主人様に言いたい事はね……、《ありがとう》って言葉なんだ! 僕ね、ご主人様と会えなくなって最初はすごく寂しかったんだ。でも、ご主人様の仲間が僕の事能無しとか使えないとか落ちこぼれとか言ってたから仕方ないかなって思ったの。でも、オーナーや皆がね、言ってくれたんだ。僕にもすごい力が有るって、頑張れば他の皆に負けないって』


「えっ、いや」


『だからね、僕頑張ったんだ。最初は半信半疑だったけど、今は皆の言ってくれた通りになってる。だから、ご主人様……』


 嬉しいのかその声まで弾んでいるスペシャルスカイに何か言いたげなアルクだったが、スペシャルスカイの様子に切り出せないようだった。


『僕、本当に今嘘みたいに幸せなんだ。本当に……本当に……。だから、《ありがとう・・・・・》、ご主人様』


 分かっていたとはいえその言葉にアルクは固まってしまう。そして、そんな様子からアルクの心境を察したカイルは視界の隅で従業員の一人が近づいてきている事に気が付いた。


「ほら、スペシャルスカイ、そろそろトレーニングの時間っぽいぞ」


『あっ、ホントだ。じゃあ、僕は行くね、オーナー、ご主人様』


 自分の言った言葉がアルクにどういう風に思われたか分からないスペシャルスカイはそのまま翼を広げて飛んで行ってしまう。


「はぁー、わかっただろう。あいつは君に捨てられた事をもう何とも思ってはいない。それ以上に今の生活を気に入ってるからこそ、君にスペシャルスカイを託す事は何が有ってもない」


「……、はい」


「まぁ、あんな感じだから偶に来てやってくれ。別に俺はそこまで制限するつもりは無いからな」


 肩を落とし、飛び去ったスペシャルスカイを寂しそうに見つめるアルクの姿にカイルは現実を突きつけると共に甘さを見せる。


「折角、ここに来たんだから他の施設も案内しよう」


 落ち込んだアルクを慰めながら、順番に牧場内を案内していく。

 だが、僅かな希望を目の前で潰されたアルクにはそれすらも無意味な物で結局そのまま肩を落として帰っていった。


「はぁー、あんなに落ち込むなら最初から見捨てなければ良かったんだよ……」


 離れていくアルクの背中を見送りながらカイルはそう思った。

 そして、何度か頭を振ってアルクの事を頭の片隅に押しやると仕事へと戻っていったのだった。

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