第22話 それはスラッと伸びた二つのシルエット

 田舎村出身とはいえ、サンテは平地しか知らない子供だ。

 未開とも思われる険しい山道に早くも音を上げていた。

 休憩回数も増えてきて一向に前に進まない。


「私は、ビッグな女になるんだから!」


 叫ぶ元気もなくなっていたのは幸いか。

 気合いの入ったサンテ言葉にひかれて、寄ってくる魔物はいなかった。

 そこから数歩進んでから、ガイに待ったをかけられ休憩することになった。


「兄さんも言ってたからね、毎日の基礎の積み重ねが大事だって。だから明日動けなくなるまでは、頑張らないよ」


 姉、姉とばかり言っているサンテであったが、優秀な兄の影響もしっかり受けていた。

 話しながら休憩していたサンテだったが、急に仲間達が警戒を始めた。




 しばらくしてコスモスが口の前の空間から糸を吐き出すと、糸は茂みの隙間を通り抜けていった。

 何かを粘着させたのだろう、まるで竿を強く振る釣り人のように、体を使い糸を手繰り寄せている。


 少しの時間で糸は巻き取られ、接着された先から現れたのは……

 引き抜かれた直後のような雑草だった。

 短い二本の根と細長い二枚の葉。

 コスモスから雑草を渡され、サンテですらどう反応して良いのか分からなかった。


「えっと、ありがとう?」


 ピクッ。


「えっ?」


 握っていた雑草が、糸から解き放たれた瞬間、一度身震いしたように感じられたのだが。

 サンテが手の中に視線を落としても、なんの変哲もない雑草にしか見えない。

 二股のヒゲ根に白く短い茎、そして茎から二つに分かれた細長い葉。

 その葉が動いてサンテの手首に絡まると、指で摘まれていた茎を抜き取って、親指の付け根辺りに根っこで立ったのだ。


「おおおおおおー!この葉っぱ、動いたよ!!」


 歩くことだってあるさ、植物だもの。




「じゃあ貴方はラニラさんね」


 ビヨーン、ビヨーン。

 長い葉を使い万歳するように、喜びを表すラニラ。

 普通なら反転しそうなものなのに前後の概念はないようで、正面からサンテの首にぶら下がってそのまま左右に揺れている。

 前後がない、または両方前だと、他者から左右の判断が難しくなるだろう。

 何か指示を出す時にも自分の左右を基準にする機転が必要になってくる。


 だが、細かいことをサンテは何も考えておらず。

 二つ編みになったラニラの葉の冠を髪に被せて、そこに野草の花を刺して飾っている。

 その楽しそうな姿を見て、彼女の仲間達は微笑ましく見守っていた。


「テイマーっていいね。こうして新しいお友達が沢山出来るんだから」


 配下と言わずにお友達と考えている。

 そこには、サンテの純粋な優しさが現れていた。

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